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舟を編む

ファイル 248-1.jpghttp://fune-amu.com/
原作 三浦しをん
監督 石井裕也
出演 松田龍平 宮崎あおい オダギリジョー 渡辺美佐子 池脇千鶴 加藤剛 小林薫

以前この欄で本屋大賞だった原作についてちょっと紹介した、その映画化。
辞書の編纂という作業がいかに大変か、それは視覚化されたほうが迫ってくる。馬締(まじめ)クンの、ちょっとなんだかわからないけど○○障害的な普通の人間離れ反応(?)や、伊佐山ひろ子演じる同僚の行動に、映画館の客席のあちこちから笑いが起こる。伊佐山ひろ子サンが、普通のベテラン事務員役を、淡々と演じていることにも私としてはしみじみ。

右 という言葉を説明すると?馬締クンは、西を向いたとき、北に当たる方、と答え、退職する小林薫さんに辞書編さん要員としてスカウトされるのだが、それ以外にもいろいろと‘右’を説明する言葉が出てくる。ちょっと考えてみませんか?

馬締クンに降ってきた恋、かぐやサンはなぜそれにちゃんと答えたのかなあ、と、思わないでもない、まあ不実な男から、大きく振れて全く逆の男に行った、のよね。

十数年の時間をかけて編纂される辞書、その中でチャラい(この言葉も大渡海に収録されたかなあ)男、バブリーにおしゃれな女が変化していく。老いて病む人もいる。馬締クンも白髪が見える。

よく笑い、不意にうるうるに襲われる、良い日本映画でした。うるうる も採択されただろうなあ。

最後に出演者の名前が出て、ピース又吉?何処に?あの汗臭そうな最後近くのチェック作業の中にいた?TVでやるときには気を付けよう。

MOVIE
comment(0) 2013.05.15 23:42

歳月

ファイル 247-1.jpg著者 茨木のり子
出版社 花神社

    五月
 なすなく
 傷ついた獣のように横たわる
 落語の〈王子の狐〉のように参って
 子狐もなしに
 夜が更けるしんしんの音に耳を立て
 あけがたにすこし眠る
 陽がのぼって
 のろのろと身を起し
 すこし水を飲む
 樹が風に
 ゆれている

   
    泉
 わたしのなかで
 咲いていた
 ラベンダーのようなものは
 みんなあなたにさしあげました
 だからもう薫るものはなにひとつない
 
 わたしのなかで
 溢れていた
 泉のようなもlのは
 あなたが息絶えたとき いっぺんに噴きあげて
 今はもう枯れ枯れ だからもう 涙一滴こぼれない

 ふたたびお逢いできたとき
 また薫るのでしょうか 五月の野のように
 また溢れるのでしょうか ルルドの泉のように

    
    一人のひと
 ひとりの男ひとを通して
 たくさんの異性に逢いました
 男のやさしさも こわさも
 弱々しさも 強さも
 だめさ加減や ずるさも
 育ててくれたきびしい先生も
 かわいい幼児も
 美しさも
 信じられないようなポカでさえ
 見せるともなく全部見せて下さいました
 二十五年間
 見るともなく全部見てきました
 なんて豊かなことだったでしょう
 たくさんの男ひとを知りながら
 ついに一人の異性にさえ逢えない女ひとも多いのに


    (存在)
 あなたは もしかしたら
 存在しなかったのかもしれない
 あなたという形をとって 何か
 素敵な気がすうっと流れただけで

 わたしも ほんとうは
 存在していないのかもしれない
 何か在りげに
 息などしてはいるけれど

 ただ透明な気と気が
 触れあっただけのような
 それはそれでよかったような
 いきものはすべてそうして消え失せてゆくような


夜中にふと目覚めると、つけっぱなしのラジオから、茨木のり子さんの話が聞こえてきた。どうやら出版社の人だ。茨木のり子さんは美しい人だったそうだ。
23歳で医師と結婚、とても仲のいい夫婦として過ごし、1975年に死別。
結婚後、川崎洋の誘いで同人誌「櫂」創刊、すぐに谷川俊太郎や吉野弘や参加って、なんと贅沢なメンバーであろう。
夫に先立たれたあと、31年にわたって夫への想いを綴ったものがあり、彼女の死後、岸田衿子さんの尽力により出版、それがこの『歳月』だという。私がラジオで聞いた声は、花神社の大久保さんというひとだったのだろう。
『わたしが一番きれいだったとき』という茨木のり子さんの有名な詩は、今では教科書にも出ているらしい。ほかにも、自分の感受性ぐらい 自分で守れ ばかものよ というフレーズなど、読み返すたび自戒する。

そして、こんなふうにも豊かに、一人の男を愛したいのちだったのだ。傷ましく、羨ましく。

BOOK
comment(0) 2013.04.19 12:59

クラウド アトラス

http://wwws.warnerbros.co.jp/cloudatlas/index.html
ファイル 246-1.jpg監督 ウォシャウスキー姉弟 トム・ティクヴァ
出演 トム・ハンクス ハル・ベリー ペ・ドゥナ 周迅

ペ・ドゥナと周迅という、アジアの二大お気に入り女優が出演?と、慌てて映画館に走る。このところ映画情報に疎いので、うっかり見逃すことが多い。
何の予備知識もなく見たのだが、さて大変、19世紀黒人奴隷時代から24世紀まで6つの時代、場所で物語が動き、場所も時代もポンポン飛びながら進む。俳優は一人何役も演じる。途中で、あーもういっかい初めから見たい、と思うが、3時間の長丁場。

それぞれの時代に、人は愚行を重ね、その中で勇気ある行動をとる者が現れる。

2144年、ネオ・ソウルという場所で、クローン少女ソンミを演じるのがペ・ドゥナ。この映画で彼女がミューズ、中心にいる存在。同じクローンのメイドカフェ従業員(みたいなもの)周迅の行動がきっかけで、人間としての考えに目覚め、彼女を導く男が現れる。妙な顔立ち(アジア人の顔立ちを真似て整形したんかい君たち、みたいな)は、まあ近未来感ということで大目に見ようぜ。

24世紀、文明が滅び、崩壊した地球でソンミは女神として祀られている。
どこか進化したコミュニティが別に存在し、そこから来た女性ハル・ベリーと、現地に生きるトム・ハンクス。

途中からは、3時間を長く感じさせない。後味は快い。見終わると、テーマはシンプル。

が、ああ体力あればもう一度、誰がどれとどれとどれ(トムもハルも6役!)が誰?と確かめながら見たいぜよ!

MOVIE
comment(0) 2013.04.16 18:26

アクション映画バカ一代

ファイル 245-1.jpg著者 谷垣健治
出版社 洋泉社

谷垣健治の名前を知ったのは、香港映画にはまった90年代後半、当時はたくさん出ていた香港映画本で。調べたら、『続超☆級☆無☆敵 香港電影王』誌でありました。今や知る人ぞ知る天下のアクション監督の、スタントマン時代のこと。

さて、知らない人は全然知らないだろうけど、ジャッキー・チェンのファンが高じて倉田アクションクラブへ、そして93年、広東語も話せないのに香港へ渡った彼、以前この欄で『捜査官X』http://art-container.net/mbblog/diarypro/archives/215.htmlの出演者としてちょっと紹介済み。
ジャッキーやジェット・リーと違って、日本では一般的には知られていないアクションスター、ドニー・イェンとの出会い、そのあたり、私には手に入る限りの香港映画ビデオを借りまくっていたから『Cool』見ましたよ、なんだこの変な男は?ドニーさんのことをと思いましたよ申し訳ないが。レスリーと常盤貴子の『もういちど逢いたくて星月童話』にも関わっていたのか、映画館で見ましたよ。
へーえ、と思うのは、釈由美子主演の『修羅雪姫』って2001年にあったけど、その釈由美子ベタ褒め。そして、そんなん知りませんがな『ああ!一軒家プロレス』なる作品で橋本真也やニコラス・ペタスと並んで出たというソニンベタ褒め!この子はスゴイ!と。わかる気がする。私は結構ソニンちゃん贔屓なので。残念なことに、日本にはアクション映画というジャンルがほぼ存在しないので、土壌のないところでは花開かない。
えーと、どこかに、日本のそんな優秀なアイドル女優さんと比べて、生意気な上に頭も悪い香港の女優、なる一節があり、脚注に、主にセシリア・チャンのこと、とあった・・・そうなのか、セシ・・・。

そして、原題・武侠、日本のタイトル『捜査官X』のところでは、金城武について、面白い人だったな、と語っている。自分をカッコ良く見せる気はサラサラ無くて、「ねえ、こうやったら面白くない?こういうのは?」とどんどん提案してくる、などと。この映画では金城のほかジミー・ウォングも日本語ペラペラで、ストレスが溜まっても、お前らみんな死ね!と叫べなかったそうだ。

『るろうに剣心』この佐藤健のこともベタ褒め、あ、忘れてましたが『カムイ外伝』の松山ケンイチのことも。

『映画秘宝』連載に加筆、となっているけれどブログ『谷垣健治のアクションバカ万歳』でも紹介されていることがいろいろ。

あー面白かった。るろうに見そびれてる、ああ損した。『捜査官X』は本場中国香港では興行的にはコケたそうだ。いい作品なのに。評価は高いのに。   すみません、オタクで。

BOOK
comment(2) 2013.04.15 15:01

千年の愉楽

ファイル 244-1.jpghttp://www.wakamatsukoji.org/sennennoyuraku/
監督 若松孝二
出演 寺島しのぶ 佐野史郎 高良健吾 高岡蒼甫 井浦新

若松孝二の遺作。原作・中上健次。

はるかな昔、初めてテレビで見た中上健次は巨大だった。その巨体で、実は“星の王子様”が好きだ、と言っていた(たしかそのはずだ)。「これが中上健次だと思うと可愛い」と弟が言い、私もそう思った。
『青春の殺人者』1976年『十八歳、海へ』1979年などの映画の原作者として知ったのだったか。すごい作家だと思っていたが、その作品は数冊しか読んでいない。

寺島しのぶ演じる産婆が、生まれそうだ、という連絡で飛び出して行く。どうやらその生まれる子供の父親であるらしい男(井浦新)が、腹を刺されて血まみれで転がっており、産婆の夫の僧侶である男(佐野史郎)がその男に話しかけている。
美貌に生まれ、何人もの女と関わり、孕ませ、凄惨に死を迎える、中本の血を引き継ぐ男たち。半蔵(高良健吾)、三好(高岡蒼祐)、達夫(染谷将太)。
映画は、その凄惨な事柄、生き方を、おばあの「お前はそのままでいい、そのまま生きればいい」という言葉が受け止める。

中上健次が被差別部落の出身だと知らなければ、路地と呼ばれるこの地の気配はわからないものだろうか?
今際のきわにあるおばあの、夢の中の景色としてそれぞれの男の話が進んでいく。それぞれの俳優は渾身の演技である。が、寺島しのぶの、役では、無いよなあ、と思ってしまう。今はとっくに亡き乙羽信子さんみたいな人が・・・と妄想する。

中本の血、というものの連鎖を、次代の子供は断ち切ったのか?

意外にあっさりと仕上がっている気がするのは、母性、その受け止め、を、前面に出しているせいか?

まあでも、原作を読みたいと思います。おそらくもっともっと、濃い話だろうから。

MOVIE
comment(0) 2013.04.12 15:07

ブギウギ

ファイル 243-1.jpg著者 坂東眞砂子
角川文庫

敗戦前・敗戦後 と前後編に分かれている。戦前・戦後ではない。
配線間近の箱根、ここにドイツ人がたくさんいたというのは史実?とにかく箱根のホテルに滞在していた(その時点ですでにドイツは無条件降伏している)ドイ軍潜水艦長が水死体で発見される。発見したのは女中のリツ。
その調査の通訳である法城という男が、自殺とされた事件を疑って調査を始める。ナチ、捕虜収容所、また日本軍の捕虜に対する人体実験、純血という考え方、様々な問題を挟みながら、マイクロフィルムが絡む殺人ミステリーが解かれていくのだが。

主役は、実は、箱根の旅館の女中だった安西リツと、その旅館の女将、そしてハンブルグ日報通信員のオルガ、この女たちのそれぞれの生き方だ。

ミステリーとしては、不完全燃焼な感もあるけど一気に読ませる。そして、できればもう少し、あれあれ?という間に敗戦後ジャズ歌手へと変身を遂げるらしいリツを描いて欲しかったなあ。

この作家が好きな人には物足りないのだろうが、ちょっと苦手で『死国』を読んだ覚えはあるがストーリーを覚えていない、『魔女』を最初の方で読みやめた私には、面白かった。

BOOK
comment(0) 2013.03.20 15:46

ぼくとユーレイの占いな日々

ファイル 242-1.jpg著者 柴田よしき
創元推理文庫

このところ軽いおやつのような小説ばかりを読んでおります。いつになったらあの『銃・病原菌・鉄』を読み終わることでせう・・・えーと、とても興味深い本ですのよ、でも集中を必要とするのです、ちょっと今の環境がきびしいので、後回し。

で、本題、またまた贔屓の柴田よしきです。就活中の石狩くんが、バイト帰りに厚化粧の占い師・摩耶優麗(まやゆうれ)に声をかけられ、なぜか現在状況をずばり当てられ、そしてなぜかその占いの館に就職することに・・・。

推理小説と呼ぶものかどうかはともかく、各章のタイトルがこれです。“時をかける熟女”“まぼろしのパンフレンド”“謎の転倒犬”“狙われた学割”“七セットふたたび”・・・はへ〜な気分になりませんか?
もちろん、時をかける少女(筒井康隆)・まぼろしのペンフレンド・謎の転校生・狙われた学園(それぞれ眉村卓)の、もじりですね。ちなみに私は謎の転倒犬の元ネタがわからなかったへなちょこです。あなたが思い出したのは角川映画?NHK少年ドラマ?はたまた学習雑誌の連載とか(古すぎる!)。

ユーレイでは無くユーレと読む摩耶優麗は、占い師ってのはね、カウンセラーなの、と言う。実はマスコミ志望である石狩くんに、向いてない、と言う。人のいい石狩くんに、不幸な事故で肉親を失った遺族に向かってマイクを向けるようなことができるのか?と言う、のです。
その摩耶優麗をはじめ、おネエ言葉のウサギちゃんこと宇佐美儀一郎とか、魅力的なキャラの登場人物たちに、まだまだ出会いたい気分になってしまうのですね、どうやらお話は続くようです。

BOOK
comment(0) 2013.03.08 15:25

王になった男

ファイル 241-1.jpghttp://becameking.jp/
監督 チュ・チャンミン
出演 イ・ビョンホン リュ・スンリョン ハン・ヒョジュ 

王子と乞食を下敷きにした話。

李朝の王・光海は、毒殺されることを恐れていた。瓜二つの男を見つけ、影武者とする。陰謀渦巻く宮中にあって、疑心暗鬼の暴君となっていた王。ある日、アヘンを盛られて倒れる。
密かに王座に座る影武者
偽物が、次第に本当の王よりも民のことを思う正しい采配を振るうようになっていく。

適度に笑い、適度に泣かせ、誠に良く出来ている映画。韓国映画お手の物、という作品。イ・ビョンホンうまい。だが、どうもね、イ・ビョンホン様の横顔が、王様に見えないのね。ちょっとほら、威厳のない鼻がね・・・、って言っても仕方ないのでありますが、誰だったら王様らしいかな、と、妄想しながら見てしまいましたね。
年配者の多い劇場で、年配者に受けていましたよ。

MOVIE
comment(0) 2013.02.26 15:28

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