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仏果を得ず

ファイル 200-1.jpg著者 三浦しをん
双葉文庫

文楽(人形浄瑠璃)の義太夫語りの、若手の男が主人公です。

その昔、国文専攻の学生だった私は、歌舞伎や能など古典芸能を見る機会があった中、文楽が面白い!と思った、のでありましたよ、思い起こせば。だけど、私がはまったのは人形の動き(特に手の)、太棹の三味線の音、鼓の音、であって、語りの印象は、何もございません。

主人公の健太夫は、高校の修学旅行で無理やり連れて行かれた文楽の公演中に居眠りをしていて、突然殴られたような気がして目覚めます。その、語りに、ガンとぶん殴られた、ような衝撃を受けたのであり、高校卒業後、文楽の研修所に入ります。

人間国宝の師匠、銀太夫から、ある日、三味線の兎一郎と組むように言われ・・・。その兎一郎が変わり者で・・・。

小学校で指導している教え子のミラちゃんに惚れられ、その母・真智さんに一目惚れし(ああここにも“ワルツ‐花村萬月”が、と思いましたぜ)、そんなこんなの中で少しずつ、惚れた晴れたや敵討ちや、不条理なことが山のようにあるようにも思われるその語りの世界を理解し、会得していく健太夫クンなのであります。

仏果とは、仏道修行という原因によって得られる成仏(じょうぶつ)という結果。成仏の証果(しょうか)。仏の悟り。さとり。往生(おうじょう)。だそうです。

三浦しをんにハズレ無し。
再度読み返すと、ああここにこんなヒントが、と気づく、そんなところでも、『ワルツ』と引き比べてしまいましたね、なぜかってワルツの登場人物達は、作家が書きながらその性格が変化していくにまかせたんだろうという気がしてね。三浦しをんは、しっかりその登場人物達の性格、立場を定めて書いていると、その違いを感じ・・・どちらがいいというわけではないですよ、もちろん。

BOOK
comment(0) 2011.10.05 12:23

蜂蜜

ファイル 199-1.jpghttp://www.alcine-terran.com/honey/
監督・脚本 セミフ・カプランオール
出演 ボラ・アルタシュ エルダル・ベシクチオール トゥリン・オゼン

トルコ映画。
開始時間を間違って、今始まったばかり、というところから見ることになった。
男が、大きな木の枝に縄をかけて、ぐいと引っ張り、しっかりしていることを確かめ、上に登っていく。と、枝が裂け・・・(あ、と声を出してしまった)。そこで場面が変わる。

人里離れた、山の中に住む親子。父は養蜂家。高い木の上に蜂箱を仕掛けている。夢の話をしようとする小さな息子。父は、夢を他人に聞かれてはいけない、と言い、二人はヒソヒソと夢の話。
学校で、教科書を読もうとして、急に吃音になってしまう息子。

時系列がわからないまま、そして夢の世界なのか現なのかよくわからないまま、その世界に見入ることになる(のは私だけではないと思うのだが)。

蜂蜜が取れなくなり、父は森の中へ巣箱を仕掛けに行く。息子は声を出せなくなったまま。

夜、水の入ったバケツに、月が映っている。息子がそれを掬おうとする。水が揺れて映像はバラバラ。しばらく後また丸く映る月、そこに顔を突っ込む息子。

静かな、無口な、無表情と言うに近い映画。ちょっとアキ・カウリスマキ作品を思い出した。

帰ってこない父。母を励ましたくて、嫌いな牛乳を飲む息子、それに気づかない母。

どこからどうつながるのかわからないまま見ていても、これがとても優れた作品であることはわかる。え、ここで?という終わり方をする。

ユスフ(息子の名前)三部作というものがあるそうだ。第一部大人のユスフ『卵』第二部青年期のユスフ『ミルク』とあって、これが三作目。第60回ベルリン映画祭金熊賞受賞。

MOVIE
comment(0) 2011.10.04 13:40

探偵はBarにいる

ファイル 198-1.jpghttp://www.tantei-bar.com/
監督 橋本一
出演 大泉洋 松田龍平 小雪

ススキノの探偵(携帯電話を持たない、行きつけのBarで連絡電話を受ける)俺、俺の相棒で運転手(北大農学部研究室助手でもある)高田、二人が派手に事件に巻き込まれてくれます。

夜な夜な通うBARケラーオオハタに、コンドウキョウこと名乗る女から依頼の電話がかかる。“カトウという弁護士に,去年の2月5日、カトウはどこにいたか?と聞いてくれ”というもの。
そしてその依頼通りにした結果、雪の中に生き埋めにされかかり、必死に這い出して公衆電話から相棒に電話、でも寝てるんだこの相棒、いつでもどこでもよく寝る。

大好きです、こういう映画。香港に持ってったら受けるよなあ、きっと、と言うB級テイスト。ま、日本でもずいぶんヒットしているようですが。高田役の松田龍平が、たーだ無表情にボーッとしているのだけどいざとなったらキレのいいアクション。実は、観る前には主役は大泉かよ、龍平主役の映画観たいぞ、と内心ぶつくさ言ってたんだけどね、ごめん、大泉洋ファンの皆様。

その、一年前の2月5日に行われたあるパーティで、その主役の霧島グループ社長霧島(西田敏行)が、歌手のマキさん、と紹介し、ちょっと年のいった女が歌いだす、時計を止めて・・・誰だ?あー、カルメン・マキ!そしてその曲“時計を止めて”は、もともとジャックスの!
そのシーンでは出だししか出てこない、けれど最後、エンドロールでじっくり聞けます。

小雪サンも、途中悪女の表情を見せますが、なんと高嶋政伸が悪ーい役をやっていて、これがなかなかです。
蛇足、この欄前記の『ワルツ』の、タチの悪いヤクザ利根川役は彼でいいか。林は、凄い美丈夫とは言えないがうまく造ってもらって龍平でもいいかもしれない、と勝手にキャスティングしたのでありました。
続編出来るそうです。うふ。

MOVIE
comment(4) 2011.09.28 20:29

ワルツ

ファイル 197-1.jpg著者 花村萬月
角川文庫

上中下三冊、一気に読み進む。

戦後の混乱期の日本、元特攻隊員の城山、実は朝鮮人留学生の林、東京大空襲で両親・妹を亡くした美しき岡崎百合子、この3人を中心に描かれる任侠の世界。・・・と一言で言うと、映画やドラマでよくある世界のようだが、いやいや、馬鹿にしたもんじゃありませんぜ。

かの戦争中に従軍慰安婦という名の女性たちがいたことは知っている。かつて植民地だった朝鮮半島からそのために連れてこられた女性たちが今でも日本政府に対し叫びを上げている。が、戦後すぐ、日本に駐留するアメリカ人兵士のために同じような組織を国が企画し、性の防波堤として提供した、なんて知っていた?警視総監・坂信弥が駆け回り、大蔵省主税局長池田勇人が資金を出して、と、実名で書いてある。女子事務員募集 年齢18~25歳まで 宿舎、被服、食糧支給 などと募集を出したのだそうだ(頼まれもしないのに)。

特攻崩れの城山は、なにがしかの金と煙草でヤクザ殺しを請け負う。それを依頼した館岡組利根川の名を名乗って。
何も手を染めずに利根川は名を上げる。
その場に居合わせてすべて目撃していた、左頬に傷のある美貌の男、林。
すでに余生を送っている、のであるらしい、欲と無縁の男、城山龍治。
新宿に流れ着き、偶然のことから館岡組に身を寄せ、組長澤村の妻、姐と呼ばれることとなる百合子。こんな女いねえよ、と‘中’を読み終えてつい口に出ちゃったけどね。男の理想を絵に描いたような。
それを言うなら、澤村だって城山だって、男が男に惚れる、といった男でありますのさ。
賭場の仕組みだとか、金の動きだとか、はあそうだったんですか、な(一般人には日常役立つことはない)知識も得られる。

任侠の世界だ。個人としての付き合いがどうあろうと、仇は取る。なんでだよ、と素人の女としては言いたいことが次々起こる。いやその前に、きったねえ…物理的に汚いこと、血みどろ満載、そんな世界に近づきたくもない女性にはお薦めしませんが、帯にもあるとおり、現代エンターテインメントの傑作には違いない。

時に、昔の政治家は器が大きかった、それに比べて今は、などと目にすることがあるが、トンデモ政治家は昔も今もいくらもいるようだ。などと思いもする小説でもある。

BOOK
comment(0) 2011.09.28 16:57

夜明けのパトロール

ファイル 196-1.jpg著者 ドン・ウィンズロウ
角川文庫

パシフィックビーチが朝焼けを帯びた中でボードをあやつるブーン・ダニエルズは、元警官、今は波が静かな時に探偵。
サーフィン仲間“ドーン(夜明け)・パトロール”には、水難救助員デイブ・ザ・ラブゴッド、サンディエゴ市警殺人課巡査部長ジョニー・バンザイ、サンディエゴ公共事業部作業監督ハイ・タイド、サーフショップ店員ハング・トゥエルブ,そして<サンダウナー>ウエイトレスのサニー・デイ。

皆が待ち受ける大波が近づいたある日、法律事務所の弁護士補で色白美人のペトラ・ホールがやってきて、いなくなったストリッパーを探してほしいと依頼する。

簡単に見つかると思った、が、死体が発見され、しかしそれは・・・。
形成外科医、ストリップクラブの経営者、麻薬組織のボス、などが絡んで。

見た目に騙されてはいけません、その本質は?と、いう展開。

実はブーンだってインテリだ。内部波はキルケゴールとヴィトゲンシュタインを合わせたより深くて、重い、のだそうだ。これをブーンが言ったとは書いてないけれど、ともかくブーンモービルと呼ばれるおんぼろトラックには『罪と罰』が転がっている。ちょっと閑話休題、ヴィトゲンシュタインの姉だか妹だかをクリムトが描いているそうです。

ひところ海外ミステリーに幼児性愛者ものが流行った。ここでは、幼児ではないが少女たちが性の道具となっていることがわかり・・・。

前作『犬の力』このミステリーが面白い!海外編第一位は、すみません、途中で止まっています。今、私の気分ではないので。いつかね、たぶん。やっぱりウインズロウは、二―ル・ケアリー物に通じる軽さをベースにしたこういう作品を読みたいんです。で、続編があるそうで、さあ、初めは敵視しあっていたペトラとブーンのその後は?大波に乗ってプロサーファーになって世界に飛び出したらしい元恋人サニーは?チアフル爺さんは?気になる。

BOOK
comment(0) 2011.09.07 23:34

シャンハイ

ファイル 195-1.jpghttp://shanghai.gaga.ne.jp/
監督 ミハエル・ハフストローム
出演 ジョン・キューザック 渡辺謙 コン・リー チョウ・ユンファ 菊池凛子

亜州影帝チョウ・ユンファと女王コン・リーが並んで英語の台詞喋ってる!というところでまず嬉しくなっちゃいましたんでね。貫禄です、麗しいです、コン・リー女神。

ジョン・キューザックは新聞記者にして諜報員なのだが、どうなの?それでいいの?な・・・。

日米開戦前夜の上海、渡辺謙演じるのは日本軍諜報部タナカ大佐、上海黒社会のボス、チョウ・ユンファ、その妻コン・リーは実は反日レジスタンスのリーダー。物語はアメリカの諜報部員コナーが殺されるところから始まる。その恋人菊池凛子が行方不明になる。
キューザックはそんな中に乗り込んで親友の死の真相を突き止めようとする。
というような話なのだが、私の理解力も枯渇してきたことではあるが、ドイツ人の愛人との絡みもなかなかイージー、恋も・・・諜報員だろー、そんなんでいいのか?な、展開の中、ストーリーがめんどくさい、何がどうつながってるのかわかりにくい。菊池凛子サンは結局なんでそんな目に会わなきゃなんなかったんだっけ?

と、言いながら、まあ悪辣なる日本軍にあって、それなりに人間性を見せる役柄の謙さんも、最後のほうの、そうよ、彼はテレビの上海灘でブレイクしたのよ、こうでなくちゃ、な、周潤發(できましたらもう少し彼に出番を欲しかった)、そして堂々のコン・リー…名優揃いで、みんな魅力的な演技を見せる、だから十分見られる、けれど作品としては、観客設定はどうなってるんだろう?誰をターゲットにしてるんだろう?諜報員と暗黒街と悪辣日本軍をシャッフルして男と女の愛というのか執着と言うべきか、を、混ぜました、という気配で、あります。

MOVIE
comment(0) 2011.08.31 16:52

風が強く吹いている

ファイル 194-1.jpg著者 三浦しをん
新潮文庫

駅伝というのは駅馬・伝馬制から来た言葉なんだそうだ。もとは古代まで遡って存在する、それは知らなかった。

竹青荘というおんぼろアパートがある。そこの管理人もどきの役をしている学生・清瀬灰二(ハイジ)が、偶然銭湯帰りに見かけた走る男・蔵原走(カケル)を追いかけて、声をかける。走るの好きか?
カケルはパンを万引きして逃げていたのだが、そこにはそれなりに理由が・・・ってそれは正しくない行動ですよ、ですが。
実は高校陸上界で有名だったカケルをスカウトしてアパートに引き入れる。全室埋まって計10人の、まことに個性豊かな寛政大学の学生が住むことになり、そして、年月に薄れ汚れたアパートの表札には寛政大学陸上競技部錬成所と書いてあることが明かされ、箱根駅伝出場を強制される。

数十年前には、中学駅伝なんてものがあった。当時中学の体育教師だった父が駅伝部の指導もしていたので、襷を作ったり、その襷にゴムを通してひらひらしないようにしていた母の姿を覚えている。
で、昔から正月はいつも箱根駅伝を見ているが、ほとんどは陸上で有名な高校からスポーツ推薦で大学進学して、何十人もいる駅伝部員の中から選抜され、なのに運悪く体調万全でその日を迎えられなかった人は、当日にメンバーチェンジとなることも珍しくない。

そんな中、ぎりぎり10人ぽっきりの、ハイジとカケル以外は長距離経験の無い学生が集まり、訓練開始。無理やろ、そりゃ・・・失礼やろ、目指して生きてきたほかの学生たちに。と、思うが。

脚を傷めて陸上を続けるには致命的な欠陥を負ってしまったハイジ、高校時代、徹底管理型の指導に反発して部活を飛び出すことになった経歴を持つ走りの天才カケル、そして、それなりに周到なる観察を持って選ばれてアパートの住人となった残り8人。
実に、よく考えられた訓練であるように思われる。情けない状況に始まり、商店街を巻き込み、次第に、みんなが長距離を走る事に夢中になっていく。速くなることではなく、強くなること、という言葉のもとに。
―優勝できなきゃ、走れないのか?じゃあおまえら、いずれ死ぬからって生きるのやめんのかよ―
軽くビミョーな恋愛物語を絡めつつ、襷をつなぎ、人とつながり、成長していく。

後ろに著者による謝辞、並ぶ名前の中に大東文化大・法政大の駅伝関係者がある。徹底管理型ではなく、若者をどう伸ばしていくかに腐心している小さな陸上部、というものを求めて問い合わせ、推薦されたのだそうだ。そうか…その雰囲気のまま続いていることを願おう。来年の箱根駅伝の見方がちょっと変わりそうだ。

ラジオドラマ・演劇・映画化されている。映画は小出恵介、林遣都出演。

かつて読んだ『まほろ駅前多田便利軒』先日の『月魚』と、まことに面白かったので、続けて三浦しをんを読んでみました。守備範囲が広い、それぞれに面白い、かつ、この人のエッセー『夢のような幸福』まで読んでみましたところ、あの中島みゆきの歌としゃべりの落差を彷彿とさせるトンでも無さ(褒め言葉です)でありました。

BOOK
comment(0) 2011.08.30 09:30

月魚

ファイル 193-1.jpg著者 三浦しをん
角川文庫

古書店「無窮堂」の店主、本田真志喜24歳、着流しの着物姿。やはり古書業界に身を置く瀬名崎太一25歳。
読み始めて少しで、ん?時代設定は?と、確かめた。匂ってくるものが昭和初期の雰囲気でセピア色の映像を思わせるけれど、設定は現代である。瀬名崎は、お年寄りの原宿とげぬき地蔵土産の仏像模様のシャツなど着ている。

とても仲の良かった男の子二人が、ある事件をきっかけに、間に一枚見えない壁を作ってしまったような関係になっている。とは言え、成人した今も、何かの用があればやってきて、泊っていく瀬名崎である。今回の用は、M県に亡くなった人の蔵書の買い付けに行く、というものだ。

祖父、父、子・・・親子のディスコミュニケーションがあって、そして。

私は、ここに流れているものが好きです。とても。私自身が本さえ読んでいれば幸せ、といった子供だったことなど思い出したりもします。

で、微妙に巧妙にぼかされつつ引っかかるぞおい!この二人、心がつながってるのみならず、のみならずなんだな?その、子供のころはたいっちゃんと呼んでいたのに今は瀬名崎と読んでいる、というくだり、“呼んでるだろ、名前で”って・・・ところとか。

水底の魚・水に沈んだ私の村・名前のないもの の三篇収録。タイトルをなんと読むのだろう。つきうお げつぎょ 英語タイトルのままFish on the Moon・・・この古書店の庭に池があって、主が住んでいるのですよ。

BOOK
comment(0) 2011.08.25 08:00

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