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神の狩人-2031探偵物語

ファイル 192-1.jpg著者 柴田よしき
文春文庫

近未来、西暦2031年。私立探偵サラが受けたのは生き別れた姉を探してくれという女性からの依頼。風祭という元探偵の男がその姉のことを調べていたという情報を得る。人工の雲でおおわれているという空の下で、このごく近未来の人々は生きている。

柴田よしきサンはキノコ大好きさんです。ブログによく野生のキノコを採集する話がでている。で、ギンダケという名前が出てきて、基本的には人工栽培されたキノコしかない時代に、風祭元探偵は天然のギンタケの炒め物を出すくだりがあって、ギンタケ?それは実在するものか?と調べると、シモフリシメジという別名を持つ実在のキノコだそうで。それはさておき。

この、いくつかの連作の最初のものは、若い女性探偵に、ベテランの偏屈なリタイアおじさんが手を貸し、解決を見る、と、ありがちなお話な感じだが。

どうも説明しにくい。
一作目が書かれたのは1999年だという。
カルト教団、自殺へと導くドラッグ、ルシファーという本名(!)を持つらしい女性井瀬崎香織、美形の医師才賀京介、らが織りなすこのSFミステリー世界は、連作の過程で起こった9,11をとりこんだりしながら、近未来の形を借りて現在を描くものだったようだ。作家本人の後書きにもそうある。
今、日本では3,11の大地震があり、原発事故があった。

この船はどこへ向かっている?終末へ向かうのか?サラは救いとなり得るのか?

現実世界が先が見えないからね、小説に向かってはっきりさせてくれ、と言っても・・・。現実のほうから、オマエハモウオワッテイルと告げられたような事態ではあっても、生きて世界を続けていかなくては、ね。

BOOK
comment(0) 2011.08.24 21:51

海洋天堂

ファイル 191-1.jpghttp://kaiyoutendo.com/
監督・脚本 シュエ・シャオルー(薛暁路)
撮影 クリストファー・ドイル
音楽 久石譲
出演 ジェット・リー(李 連杰) 文章 グイ・ルンメイ(桂綸鎂)

海に浮かぶボートに男二人、二人の足首を縄でつないでる、え、重石付けて、飛び込んだ!・・・えーっ・・・。

帰宅する男二人、親子であるらしい。直角に曲がったりする行動によって、息子はどうやら自閉症であるらしいとわかる。
よかった、そのまま天国へ、というわけでは無かったようだ。

父は肝臓癌で余命宣告されている。息子の母親は、息子がまだ子供のころに海の事故で死んだので、二人で生きてきた。父は水族館務めをしており、その水槽でイルカと泳いだりするのが好きな息子だ(なんで海で死のうとするかなあ、ねえ)。

死にそこなって、父は息子の受け入れ先を探しまわる。その一方で、卵のゆで方、バスの乗り方、服の脱ぎ方、ひとつひとつを息子に教えようとする。
父に好意を抱く隣人女性がいる。水族館にやってきた小さな移動サーカス団でピエロをしている女性と、息子は仲良くなる。

脚本を読んで感動したジェット・リーがノーギャラで出演したという。全くアクション無しの演技は、これが初めてだろう。

陳凱歌の、これも親子の愛情を描いた映画『北京バイオリン』の脚本を書いた女性シュエ・シャオルーは、学生時代に出会った自閉症児施設のボランティア経験をもとに脚本を書き、監督したのだそうだ。

障碍のある子供を持つ人は、どこの国でも同じようなことを思うだろう。でき得れば子より長く生きて面倒を見たい、でも自らが残り少ない命と知った時・・・。私には子は無いが、日々世話をする必要のある認知症と呼ばれる母がいる。なにがしか身にしみる。施設が見つかり、初めてそこで寝るとなったとき、手がつけられなくなる21歳の息子。認知症の大人でも、慣れないところではなかなか眠れないらしく、時にショートステイから不眠で戻ってくる母を思った。

地味だがいい作品だと思う。中華圏では有名なスタッフ、最後に流れる歌がジェイ・チョウ。が、日本では(鹿児島では)観客4~5人でしたよ、ガーデンズシネマ。

MOVIE
comment(2) 2011.08.24 16:06

たとへば君

ファイル 190-1.jpg著者 河野裕子 永田和宏
出版社 文藝春秋

四十年の恋歌 と副題がついているこれは、ともに歌人である夫婦、妻・河野裕子は乳がんの再発により平成22年8月死去。夫によって編まれた、40年にわたる二人の相聞歌、エッセー。タイトルは、

たとへば君 ガサッと落ち葉をすくふやうに 私をさらって行ってはくれぬか

という、妻21歳、二人の出会いのころの歌から。

きまぐれに抱きあげてみる きみに棲む炎の重さを測るかたちに  (永田和宏)
君をすこしわかりかけてくれば男と言ふものがだんだんわからなくなる(河野裕子)
「私が死んだらあなたは風呂で溺死する」そうだろうきっと酒に溺れて(永田)
真一文字に切られしむねをあはれめど君は言はずも湯をかけくるる(河野)
ポケットに手を引き入れて歩みいつ嫌なのだ君が先に死ぬなど(永田)
乗り継ぎの電車待つ間のじかんほどのこの世の時間に行き会ひし君(河野)

ランダムに拾ってならべてみたこんな歌たち、そして
手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が(河野)
あほやなあと笑いのけぞりまた笑ふあなたの椅子にあなたがいない(永田)

夫・永田氏の後書きに、最近、私は次のような一首を作った、とあって

わたくしは死んではいけないわたくしが死ぬときあなたがほんたうに死ぬ


感想文、というものが書けなかった、ので、いくつかの歌を紹介するだけで終わります。テレビでも見た人がいるでしょう。最後まで、暗い夜中にティッシュの箱を手繰り寄せて書いたらしい歌、など。
夫婦と、子供たちも歌人である家族、この濃密な、想いのあり方。

BOOK
comment(0) 2011.08.22 13:09

100000年後の安全

ファイル 189-1.jpghttp://www.uplink.co.jp/100000/
監督 マイケル・マドセン

未来のみなさんへ

ここは21世紀に処分された
放射性廃棄物の埋蔵場所です。
決して入らないでください。

あなたを守るため、
地中億深くに埋めました。

放射性廃棄物は大変危険です。
透明で、においもありません。

絶対に触れないでください。

地上に戻って、我々より良い世界を作ってほしい。

幸運を。

GoodLuck と言われてしまいましたよ。
フィンランドで、世界初の高レベル放射性廃棄物処分場が建設中という。監督自らその建設中の施設に潜入する。この建設を決めた専門家たちに質問を投げる。

この東北大地震後に、モンゴルに廃棄物処理施設を造るというニュースがあった。東芝だったかな、どこか日本のメーカーが関係するもの。
地震前には、原子力発電が如何にクリーンなエネルギーであるか、どんなに気遣って地中深くに廃棄物処理しているかと電力会社のCMが流れていましたね、某映画監督とか、鹿児島ゆかりの某女性歌手とか出演して。

10万年後、地球が無事で、人類が無事に生存していたとして、現在のホモサピエンスではないかもしれない。まあ運よく今の人類の進化型であり、意思伝達方法もさほど違わないとしても、古代言語であることは間違いない。千年前の日本語の文章でさえ一般人には読み説くことが難しいのに。ここに近づくな、触るな!と、どうやって伝える?この施設の存在を忘れることを忘れるな、と、矛盾した言葉が何度も出てくる。

巨大な経済効果の持つ力とは、知性や感性をかくも押しのけるのか。あまりにもわかりきったことが平然と行われていることに、あきれる。このドキュメンタリーの形の映画の初めのあたりから、すでに胃かなにか肉体的に痛みのようなものを感じた。

もともと、原発反対派が気にしていたのはこの廃棄物処理の問題が多かったのだが、地震、津波という自然災害によって、日本は今、被害者であり加害者でもある。
列車事故の真相隠ぺいで騒がれている隣の国で、もしもその手の事故があったら?真実が隠ぺいされたら?黄砂のようにその物質が流れてくるだろう、というようなことを、つい思った。

ヒロシマ・ナガサキへの原爆によって、原子力への抵抗が強かった日本人に対して、平和利用と強調する手段によって原発開発させた、アメリカが・・・みたいな記事も最近目にしましたぜ。

そして、残念なことに、この種の映画は、すでに基礎知識を持つ人が観客であるケースが多いだろう。みんな、見に行こう!
管理人atconさんのところにもポスターが貼ってありますよ。

MOVIE
comment(2) 2011.08.02 14:10

彼女について

ファイル 188-1.jpg著者 よしもとばなな
文春文庫

久しぶりに読むばななさん。しばしば身近な誰かの死ということが根幹にあって、そこから始まる、が。カルトな雰囲気もばななさんの作品には珍しいことではない、が。
なにしろ亡くなったママは魔女だったという。ママと双子のおばさんと、ある日を境に会わなくなり、いとこの昇一とも会わなくなった。そのいとこが訪ねてくる。おばさんは、“私はお姉さんとは縁を切ったけれど、由美子ちゃんのことはドロドロした世界から助けてあげられなかった、あの子を助けてあげて”と遺言に残したというのだ。

成人している(と思われる)由美子ちゃんは、なぜかそこそこ周りに恵まれ、お金をくれる元ボーイフレンド(イタリア人かもしれない)がいたりする。地に足が付いている生活ぶりでは無い。

魔女だった母からかけられたと思われる呪いを解くために、昇一と過去をたどる旅に出る。

ずるいよ、ちょっと、と、いう仕掛けが、最後に現れるのだが、それを言っちゃあ・・・なので。まあ、ファンタジーな仕掛け。

ばななさんは子どものころに目が悪くて、治療のために全く見えない状態で過ごした時期があるという。そのせいか?或いは彼女の両親の結婚にまつわることのせいか?何か深く心に傷を負う事態があったようだ。実際に文庫版後書きにもそれらしいことが書いてある。
なにか絶望の淵のようなところにいて、だからこそ淡々と生きていて、というシチュエーションでしばしば描かれるように思う。

ある種の、再生の、物語。

BOOK
comment(0) 2011.07.29 13:00

大鹿村騒動記

ファイル 187-1.jpg

http://ohshika-movie.com/
監督:阪本順治
出演 原田芳雄 大楠道代 岸部一徳 石橋蓮司

長野県に実在する村の実在する歌舞伎、原田芳雄さん自身がそれを舞台にした物語を望んだのだという。

最初のほうに出てくる村歌舞伎の観客がいい。なにしろ本物の村人、本物の観客だから。

ディア・イーターなんぞという食堂の主、サングラスにテンガロンハットの親父は、村歌舞伎の花形でもある。リニアモーターカーの導入をめぐって意見が割れる村、村歌舞伎の役者たちももめている。
ある日、そこへ、かつて駆け落ちした妻と親友が戻ってくる。妻は認知症になり、駆け落ちした記憶も無くなっている、それを持て余したのだ。

豪華な、達者な役者たち。観客のあちこちに笑いが起こる。たった2週間で撮った映画だという。
大楠道代さんは“ツィゴイネルワイゼン”で、石橋蓮司は“竜馬暗殺で、”岸部一徳は坂本監督映画常連、小野武彦は確か俳優座養成所仲間、阿吽の呼吸が、変に器用な気配にならない(と、私は思う)。おそらく、原田芳雄さんの体調についてわかっていて、この豪華なキャスティングになったのだろう。・・・どうしてここに優作がいないかなあ、などと思ってしまう。

いい大人の遊びの映画を残してくれてありがとう。エンドロールに流れる清志郎の歌声に、やっぱり泣けてしまった。
昔々、ミドリブタパックによく桃井かおり、松田優作と一緒に現れては唄ってくれたね、リンゴ追分。こちらは、横浜ホンキートンクhttp://www.youtube.com/watch?v=0e2jJUXt6kQ&feature=player_embedded作詞は藤竜也さん。

今から出てくる若い俳優さんは、もう原田芳雄さんと共演する機会は無いんだよ。

葬儀日時:2011年7月22日 12時より
場所:青山葬儀場にて 
その時間に、自分の居場所から、送りましょう。

MOVIE
comment(0) 2011.07.21 21:16

テンペスト

ファイル 186-1.jpg著者 池上永一
角川文庫

はあーここまで滅茶苦茶な・・・。

19世紀琉球王国末期、一人の娘が生まれました。誰よりも聡明で向学心あふれるその娘(真鶴)は、男装して孫寧温と名乗り、学問を修め、役人になります。絢爛たる王宮というものは古今東西伏魔殿と決まっており・・・。

池上永一と言う人の作品を読んでみたいと思っておりましたさ。NHKBSドラマを見たらちょっと面白そうで、手に取りました。
…この人どうやって小説を書いているのかな?時代設定して登場人物を決めて、あとは勢いでダーッと書き進めていって、気が付いたらつじつま合わないけどまあいいや、なんとか前後を合わせよう、とかなんとか、してらっしゃいませんか?
気味の悪い宦官はあっけなくいなくなるし(蛇の化身じゃなかったんかい)、龍は?その玉の威力は?ぶつぶつ、ぶつぶつ。

なんだってそんな中途半端なファンタジー度になっちゃうんだよー、と、文句を言いつつ、まあ荒唐無稽な話は、嫌いじゃない、マンガの原本?マンガは、嫌いじゃない、その上、宝塚、韓国ドラマがお好きなら、はまるでしょう。私は宝塚や韓国ドラマはさほど好みではございませんが(なんかありますよね、似たような時代物ドラマ)、ばんばんぶん回されて一息に読みました。
それにしても、王様の側室の台詞が“真美那、泣いちゃう”ですからね、ライトノベルならライトノベルと言えよ!違うんかい、ぶつぶつ。

ではございますが、琉球の歴史、清国と琉球、清国と薩摩、学べます。そういうことだったか、と。

原田芳雄さんが深刻な病であるようだと知り、彼と同じ年の知人女性が亡くなったことを知り、そしてその二日後には原田芳雄さんの訃報、という日々に読み進むにはこのまことにいい加減な荒唐無稽さ、軽さは、救いでもありましたよ。

BOOK
comment(0) 2011.07.21 00:00

息もできない

ファイル 185-1.jpghttp://www.bitters.co.jp/ikimodekinai/
製作・監督・脚本・編集・主演 ヤン・イクチュン

細胞の一つ一つが暴力でできているかのような男がいる。男がそうなるには背景がある。借金の取り立てを生業としている。根性のある女子高校生がいる。そうなるには若いなりに人生がある。二人が出会う。最低の出会い。

韓国映画と韓国ドラマの間には大きな大きな違いがある。

劣悪な家庭環境に育った者同志、そんな話など何もしていないまま、魂が寄りそっていくように親しくなる。
最低の男だが、殴った相手である女に向かって、“殴られっぱなしでいいのか”と聞く場面に、何かが象徴されている…母親?

韓国暴力映画というジャンルがあると言っていいと思う。傑作が多い。が、その暴力は、この手の男が実際この国には少なくないのだろうというリアリティがある。アクション監督が振り付けた香港映画とまるで性格が違う。この国の成り立ちに係わるものなのか。
しかも、この作品は、すべてヤン・イクチュンという一人の男によって制作されているのだ。

高校生役の女の子がいい。若いけれどキャリアの長い女優だそうだ。

殴る蹴る半殺しにする、口汚くののしる。その対象であった父親が、自殺を図る。必死に助ける。それがきっかけで、取り立ての仕事から足を洗おうとする、が・・・。

キネマ旬報昨年度の外国映画第一位。ほかにも、東京フィルメックスほか数々の映画祭で受賞。韓国暴力映画史上(?)に残るであろう傑作であることは間違いない。が、居間のDVDプレーヤーで昼間見るようなものでは決してない。映画館で見そこなったら、もうどなたさまにもお勧めできない。夜中に灯りを消して大きな画面で一人見ることができる環境があったら、そして暴力映画に抵抗がないなら、是非。

MOVIE
comment(0) 2011.07.13 19:15

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