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ポエトリー アグネスの詩

ファイル 216-1.jpg監督 イ・チャンドン
出演 ユン・ジョンヒ

中学生の孫と暮らすミジャ、生活は楽ではなく、ヘルパーをしているが、お洒落な60代、思い立って詩の講座に通い始める。その矢先、アルツハイマーの初期であると告げられる。
少女の溺死体が発見され、孫がその少女の死に関わっていることがわかる。6人の仲間とレイプ。

韓国の映画にありがちなことだが、途中まで男性論理で話が進む。誠に席を立ちたくなってしまう。我慢して見続ける。

暴行の仲間の男親たちは、我が子や学校を守る?保身で結託して、少女の母親と示談をまとめようとしている。ミジャは、詩の講座で教えられる、よく見ること、耳を傾けること、を、その事件にも適用していくかのように、女の子の足跡をたどる。

よく見ること、を言われて、りんごや、木や、周りのものをじーっと見ても、詩は生まれてこない。詩の朗読の会にも出かける。そこで、朗読したあと卑猥な説明を加える男に出会う。実は彼は誠実な警察官であると聞く。

ふわふわと浮き世離れして見えるミジャが、最後に選ぶこと。

身近にアルツハイマー老人を見ている身には、いくら初期でもそりゃあ無理だろ、と思うところもたくさんあり、違和感を禁じ得ないのではあるけれど。
思いの外、後味のいい作品です。16年ぶりの映画出演だという女優ユン・ジョンヒが、とてもいい。
イ・チャンドンは『オアシス』の監督と知ると、なるほどそうかと思える。

MOVIE
comment(0) 2012.05.22 14:34

捜査官X

ファイル 215-1.jpghttp://sousakan-x.com/
監督 ピーター・チャン(陳可辛)
出演 ドニー・イェン甄 子丹() 金城武 タン・ウェイ ジミー・ウォング      姜武

山村の美しい風景から始まる。例えば『山の郵便配達』のような叙情的文芸作品になってもおかしくない。
二人の余所者がやってくる。あ、と声を上げてしまったのは、小柄な方は谷垣健治(香港をはじめ中華圏及び日本で活動しているスタントマン・アクション監督)だと気づいて。
強盗を働こうとする凶悪犯二人、その場に居合わせた紙職人リウ・ジンシーが巻き込まれ、一人にしがみついたまま必死に抵抗し、何かの弾みでならず者二人とも死んでしまう。
捜査官がやってくる。検死を行なった捜査官シュー(中国語のフリガナのようなものではXUと表記してシューと発音する、それが日本語タイトル捜査官Xの由来)、シューは、死んだ一人の目が充血していることに注目する。もしやリウ・ジンシーは武術の達人なのではないか?こめかみのツボを心臓停止に至るまで的確に攻撃したのでは?
シュー捜査官の脳内妄想のシーンがえげつない。私は映画情報を細切れに収集していたから見知っていて、ああこのシーン、と思うのだが、初めて見た人には…どんなもんでしょう。

しつこい脳内妄想にも理由がある。かつて情けをかけた結果、まだ子供だった犯人養い親を死なせ、自分も鍼によって生き延びる身になったのだ。

素晴らしい、面白い、どのキャスティングも良い、この映画のアクション監督でもある甄 子丹が普通の人を演じるのを初めて見たかも。シュー役の金城武は、この映画の中で四川訛りてしゃべることを提案し、明らかに訛った中国語をしゃべっている。『武侠』という原題にふさわしいアクション映画でもあり、ドラマもあり、親子の葛藤あり。そしてあー無理に時間作ってジミー・ウォング『片腕ドラゴン』見といてよかった!という、オマージュシーン有り。

ピーター・チャン監督、あなたはすごい。

MOVIE
comment(2) 2012.05.06 13:46

困ってるひと

ファイル 214-1.jpg著者 大野更紗
出版社 ポプラ社

帯に“とにかく読んでほしい”とある。それ以上の言葉は思いつかない。
25歳の若さで、自己免疫系の難病(原因不明)を発病した女性。表紙裏の著者紹介には、一年間の検査期間、9か月の入院治療を経て、今も都内某所で生存中、と。

恐ろしいよ、この現実は。病名、治療法がわからないまま病院をたらい回し、これが最後と決めて自分でインターネットで調べた某大学病院に電話、そしてやっと、治療が始まるのだが。
骨随穿刺、筋電図、麻酔なしの筋生検、そしてステロイドの大量投与、etc,etc。

と、いう事情、経過を、読みながら読者の私はクスクス或いはガハハと笑う・・・そういう文章になっているんですよ、本当です、私が冷血人間なわけではないと思う、思うぞ。それがすごい。生きるか死ぬかの文字通り崖っぷちで生存している人の、笑いを誘う表現力が。

日本の医療制度の矛盾、欠陥、福祉行政の問題、それから、援助とは?と様々な問題を考えさせられる。読み手の私には考えさせられる、ですむが、この著者には、その体を押して向き合い、一つ一つを処理していかなければならないことである。

恋もする。同じく難病の“あの人”と。ものすごく良心的な医師たちの中で生存している彼女だけれど、“あの人”との逢瀬に絡んでつらい言葉を耳にすることもある、その医師や看護師の口から。

絶賛生存中、読んでみませんか?

http://wsary.blogspot.jp/ 大野更紗のブログです。
あ、もともとこの本はウェブマガジン「ポプラビーチ」連載のものだそうです。

BOOK
comment(3) 2012.04.29 14:43

舟を編む

ファイル 213-1.jpg著者 三浦しをん
出版社 光文社

新しい辞書を編もうとする編集者たち。この本の帯には
【辞書編集者】普通の人間。食べて、泣いて、笑って、恋をして。ただ少し人より言葉の海で遊ぶのが好き。
と書いてある。
馬締(マジメ)という名の、まさにその言語の海で正しく目的に合った魚を捕まえる努力を惜しまない男を中心に話が運ぶのだが。

読み始めしばらくのところで、昔、山田詠美のエッセーを立ち読みしたらそこに、行くとか死ぬとかいう言葉が別の状況で使用されることがあるが、イッタ?と聞く人はいるが、死んだ?と聞く人はいない、という趣旨の文章にぶつかり、ツボにはまって笑いをこらえるのに苦労した…ことを思い出したのでありますが。上る(のぼる)と上がるの違いについての辺り、病人のベッド脇でケタケタ笑ってしまい。

“西行”に不死身とか流れ者とかの意味があると知っていた人手を挙げてください。あの、花のもとにて春の西行です。

ところで、242頁に、『泰山鳴動して鼠一匹』という言葉が出てくる。これについて、大山だ、という人と泰山だと思っていた人(私はその一人)派で小さな論争をしたことがあり、その時は大山説が正しいことになった。辞書の編纂の物語の中でそんな間違いはありえないだろうし、と調べでみた。古代ローマの詩人ホラティウスが言ったんだって。その翻訳であり、大山 泰山 太山どれでも間違いではないということだ。

いささかワタクシゴトの多い感想文で失礼!
言葉の海、でなくてもせせらぎぐらいでも遊ぶことが好きなあなた、いかがですか?

BOOK
comment(0) 2012.03.26 21:39

ロング・グッバイのあとで

ファイル 212-1.jpg著者 瞳みのる
出版社 集英社

沢田研二ライブツアー最終日、日本武道館でのザ・タイガース復活コンサートの映像をNHKBSで見た。病に倒れた体で出てきて歌った岸部シローに切ない思い。ピーが、はっちゃけていた。ほとんどは還暦前後であろうオバサマ達が総立ち。私もその場にいたらそうしていただろう。どの歌も知っている。

で、買っちゃいましたよ、ピーが、慶応高校教師人見豊(これでミノルと読む)から瞳みのるに戻って書いた自伝。一冊の本としては、とっ散らかっている。が。
タイガース解散コンサートの夜、内田裕也が開いた送別会の後、その足で京都へ帰り、受験勉強を始めるのだ。睡眠8時間、勉強14時間の生活。洗髪に時間を取られたくないという理由で頭を丸めて。

頑固な、むしろ偏屈な、男だ。

伝説の(と、六本木から遠く離れて生活してきた人間は思う)キャンティの女主人から柴田錬三郎を紹介される。柴田錬三郎が慶応出身だから慶応大学に行ったのかも知れない。どこの誰がそういうつながりを想像できる?

おおきな病気を2度している。ひとつはA型肝炎、そして、2009年、この本を書いている最中だそうだ、中国雲南省昆明からまたさらに奥地、ミャンマーとの境に近いところで脳溢血。

そのせいだろうなあ、あのはじけかたは。よくぞ助かった、という、その命だからだろう。

みんなが生きていて、集まることができるうちに、(atconさんがファンだった)トッポこと加橋かつみも参加する、ザ・タイガースコンサートを、お願いします。トッポにみんなの声が届きますように。ジュリーはますます太ってきて彦摩呂化しているが、あの艷やかな声を支える体型として許そう。ジュリーと松坂慶子のデブは許す。

あの武道館の、総立ちの還暦すぎた昔のお嬢さんたちにも、それぞれ別れや裏切りや死が、訪れたのだと思いながら見ていましたよ。
そして、中断中とはいえ中国語学習者の私は、人見豊名義の中国語関連本も、そのうち読んでみる所存であります。

BOOK
comment(4) 2012.03.24 23:12

一瞬の風になれ

ファイル 211-1.jpg著者 佐藤多佳子
講談社

2007年本屋大賞・吉川英治文学新人賞。

羨ましい!が一冊目を読み終えての感想。

サッカーの天才を兄に持つ新二、天性の短距離の才能を持つが部活集団訓練の類に馴染めず中学途中で陸上をやめた連。この幼馴染二人が、高校陸上部(特に名門ではない普通の)に入部する。天然パーマの顧問の三輪先生は、新二が自分で染めた黄色い神を咎めもしない。

あー、反射神経とか筋肉とか瞬発力とか生まれ持ってみたかった。ストイックに自分の肉体・能力と向き合い訓練する時を、持ってみたかったぜ。
で、1は古本100円で買ったが、2と3は近所の書店の文庫本新品をすぐ整えた。高校生のスポーツ青春ものか・・・と数年敬遠した私が悪うございました。

きっちり取材し、研究して書かれている、よーくできた話。人物描写も、小さな恋のメロディも。あざとい部分がひとつもない。

ワタクシ体育教師を父にもって生まれたのに運動能力がどこにも見当たらない娘だったのでありました。今でも熱血根性話は好きではありませんが、さて、あさのあつこ『バッテリー』や、森絵都『DIVE!』に、手を伸ばしたろかという気分になっています。

BOOK
comment(0) 2012.02.14 21:09

ビブリア古書堂の事件手帖

ファイル 210-1.jpg著者 三上延
メディアワークス文庫

本の雑誌が選ぶ2011年度文庫べスト10第一位だそうだ。
1冊目は〜栞子さんと奇妙な客人たち〜といいう副題、2冊目には〜栞子さんと謎めく日常〜と副題。おそらくこの先も続くだろう。

ビブリア古書堂という、鎌倉にある古びた古書店の主がうら若く美しい本の虫の女性であり、あるトラウマから本を読むことができなくなったプータロー青年が、亡くなった祖母の本に絡むちょっとした事件により、そこの店員となり・・・。

映画『時計じかけのオレンジ』を、確かatconさんはとてもお好きだったはず、そして、アントニー・バージェスの小説の方、古いハヤカワ文庫を、お貸ししたんじゃなかった?
で、その、私が持っていたハヤカワ文庫版は、実は映画に合わせて最後の部分がカットされているのだそうだ。現在出ている翻訳では、終わり方が全然違うんだって!
とか、たとえばそんな、本の虫の古書店主ならではの知識を持ってちょっとした事件が解決されていくのです。

子供の頃はちょっとした本の虫だった私だけれど、今となっては、知らんわそんな本…がいろいろ出てくる。私でも、あー、サンリオ文庫って今やそんな、そりゃそうだよなあ、と遠い目になったり。

これに出てくる私は読んでいないけど読んでみたい本は、例えば小山清「落穂拾ひ・聖アンデルセン」梶山季之「せどり男爵数奇譚」坂口三千代「クラクラ日記」国枝史郎「定本 蔦葛木曽桟」それにその「時計じかけのオレンジ 完全版」など。
ま、そのうち。っていつだろう。

BOOK
comment(2) 2012.02.10 15:56

片腕ドラゴン

ファイル 209-1.jpg監督 主演 ジミー・ウォング

1973年作品。
香港映画という括りになっているはず、実際、ガーデンズシネマの香港映画特集の中に入っていた、が、台湾の、香港第一影業という制作会社で北京語で作られている。
さてさて、知る人ぞ知る、カンフー映画なのだが、カンフーできない人が作ったカンフー映画は、すごいよ。映画館で笑いをこらえきれないがギャグとして作られてはいない、と、申しましても全編これギャグのような・・・。
話は良い師匠のいる道場と師匠からして悪い奴の道場の争い。悪い道場が助っ人として呼んでくる面々、沖縄唐手の頭と手刀で瓦割りをする「坂田」と「長谷川」 柔道家「高橋」 韓国からは、ビール瓶を口でヘシ折った後そのビールをゴクゴクと呑むテコンドーの名手「キム」 タイからムエタイの師弟「ナイ」と「ミー」 、インドからヨガの達人「モナシン」 坂田達の師匠でキバの生えた「二谷」、どこからこんな妙な役者を集めてきたか?と思ったら、実はジミー・ウォングさん、本物のヤクザ屋さん業界とつながり深く、みなさん本物の黒社会人との噂あり。

でも、当時のジミーさんは70年代の慶応とか成蹊とかの学生さんみたいな爽やか系お醤油顔(古い表現で失礼)、片腕を失ったのに、腕の神経を焼いて秘伝の薬に一箇月漬けて鉄腕になったのさ、人差し指で倒立しちゃうのさ。

今年日本でも公開されるはずの『武侠』ドニー・イェン、金城武の映画に、このジミー・ウォング王羽が、出演していると言うので、伝説のこの映画を見てみましたが、いや、すごかった。

追記
『武侠』は『捜査官X』というタイトルで4月日本公開決定だそうです。タイトルが・・・どっかのパクリだろー!金城武演じる丸めがね探偵の名前が徐百九(中国語ピンインで徐という字をXUと書いてシューと読みます)であるところからだって。

MOVIE
comment(3) 2012.01.26 14:44

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