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わたしのマトカ

ファイル 208-1.jpg著者 片桐はいり
幻冬舎文庫

映画『かもめ食堂』を見た人にお薦めします。そして、この本を先に読んだ人は必ず映画かもめ食堂を観たくなるでしょう。

あのおじさん『過去のない男』http://www.eurospace.co.jp/kako/だったのかあ、気付かなかった。アキ・カウリスマキ監督の映画では人々が妙に無表情で恵まれなくて、どんな悲惨な展開に、と思いきや、淡々と可笑しくホッとする結末に落ち着くのだが、どうやらそもそもフィンランド人はなかなか無表情に見えるものらしい。
そして、ムーミンのアニメの景色って、現実であるらしい。

あの四角い顔の女優さん片桐はいりが、『かもめ食堂』出演のためフィンランドに出張(と本人が言っている)、そこで経験したことのあれこれ、なのだが、映画かもめ食堂を見たとき同様、フィンランドに行きたい気分にさせる。トナカイ肉を食えるか?不安だ。フランス料理でジビエという時よりもっと野趣に溢れた味なような気がする。それにジャムのようなものをかけて食えるか?うむ。
ともかく、人がいい率が高い、ことは確かなことのようだ。

この本を読んですぐに、NHKBSでかもめ食堂をまた見た。172センチと長身の片桐はいりサンは、あの国では特に目立たない気がする。ほとんど溶け込んでいた。ちょっと猫背でさえなければ。
彼女が初めて書いたエッセイだそうだが、うまい。マトカはフィンランド語で旅の意味とのこと。

母の病室で読むシリーズその2は、状況にふさわしい本でした。

BOOK
comment(0) 2012.01.24 21:22

四十九日のレシピ

ファイル 207-1.jpg著者 伊吹有喜
ポプラ文庫

NHKの夜のドラマで見て、とても面白かったのだ。で、骨折して入院している母の病室で読むために買った。
その目的のためにはちょっと失敗だった。読みながらウルウルが止まらない。ストーリーは分かっているのに。看護師さんやお掃除の人やたくさん出入りするところで、何泣いてんだよおい、であった。

義母が急死する。乙美という名前だから、“オッカ”と呼ぶようになった人。その時、娘の百合子は夫との離婚話のさなかにあり、疲れきって父のもとに行くと、井本(イモと呼んでください)という妙な娘がいた。リボンハウスという施設で乙美に世話になったのだという。もし自分が死んだら、片付けから四十九日の宴会まで面倒を見るよう、頼まれたのだという。
乙美の作った、料理だけでなく掃除のやり方など生活全般にわたるイラスト入りレシピカード集があり、そこには子供の頃の百合子と思われる少女の絵もあった。

立ち止まる。振り返る。新しく歩き出す。

これを、ほかの人はどんなふうに読むのだろう。二年前に父の急死を経験しているから?私が子供のいない人生を送っているから?私には、しみる話だった。

OTOMIを逆から読むとIMOTOとなる。

BOOK
comment(0) 2012.01.24 20:51

冒険王

ファイル 206-1.jpg監督 チン・シウトン
出演 ジェット・リー 金城武 チャーリー・ヤン

1996年作品。今までは、いわば中華版インディ・ジョーンズ、考古学者のジェット・リー、助手の金城武のコンビが由緒ある経箱を探すよう命じられ、情報を握る新聞社に侵入し、新聞社オーナー、その娘チャーリー・ヤンの協力の下、ナントカカントカ・・・美女ロザムンド・クワンが着物姿で出てきて日本軍のナンタラカンタラ・・・という北京語バージョンが、ビデオで出回っていた。
が、昨年、広東語の香港バージョンが出ましたのさ。するとなんと、ジェット・リーは作家で、その頭の中のストーリーが中華インディ・ジョーンズで、現実と劇中劇がリンクしてなにがなんだ?みたいになっているではないですか!と、いう、その香港バージョンを、大きなスクリーンで見ました。http://kagocine.net/hongkong_news.html先日の『過ぎゆく時の中で』もそのひとつでしたが、あれは練られた脚本の名画、これは・・・ですが、チン・シウトン監督で、まだまだ若い96年のジェット・リーのアクションのキレ、台湾アイドル時代の金城武やチャーリー・ヤンの可愛いこと、それに香港版にもあるジェット・金城コンビの女装、を、映画館で観られて満足です。暇があるなら、いくつ突っ込みどころがあるか数えにもう一度見に行きたいぐらいです。

MOVIE
comment(2) 2012.01.06 16:02

過ぎゆく時の中で

ファイル 205-1.jpg監督 ジョニー・トー
出演 周潤發 シルビア・チャン ン・マンタッ

1988年香港映画。主演の二人が原案に参加したという。

監督ジョニー・トーさんだったのか。

かつてバイクレーサーだったアロンは、今はトラック運転手の仕事をしながら息子ボーキーと二人暮らしをしている。貧しくも楽しい生活。
ある日、友人の誘いで息子はCMの子役に応募、採用される。承諾の書類を書くためCMプロデューサー似合いに行くと、それはかつての恋人ボーボーだった。
かつて、バイクレーサーとして派手に暮らしていた頃、アロンは女癖の悪い浮気者だった。妊娠中だったボーボーに現場を目撃され、ボーボーは階段を踏み外し・・・。

子供は死んだと聞かされていたボーボーはアメリカへ。
アロンが育てている息子ボーキーは、その二人の間の子供だった。

今ではシルヴィアと名乗っている彼女とヨリを戻したいアロンだが、シルヴィアには恋人がいる。だがシルヴィアは子供とは別れたくない。アメリカに連れていこうとする。

バイクレーサーとして再起をはかるアロン。それまで、なんだそりゃなモジャ長髪だったアロンが、髪を切っていつもの周潤發らしい姿に戻り、ジャンパーとブーツで立つ後ろ姿のなんと素敵なこと!韓流スターさんの中にも後ろ姿のかっこいい人はたくさんいるが、何かが違う!

台湾のシンガーソングライター羅大佑の曲である“恋歌1990”が流れるが、歌詞が広東語だ。誰が歌っているのだろうと思っていたら、昔の香港スター、ホイ三兄弟のサミュエル・ホイ(許冠傑)だって。

そして、レースに復帰したアロン、事故!
映画館で、アッ、と声をあげてしまった。

子役ウォン・コンユンがとにかく自然でうまい。そしていい俳優二人、ジョニー・トーという暗黒街物の秀作を撮っている監督が、こんな映画も撮っていたのね。そして優れた俳優、女優。
まさに香港映画!

年末、入院中の母の食事介助の合間にマルヤガーデンズシネマ香港映画特集に走りました。いやあ、名作!ベタなストーリーだと思われるでしょうが、スタッフ、キャストが揃うと(そして当時の香港映画の勢いがあると)こうなりますのさ。

MOVIE
comment(2) 2012.01.02 08:27

新少林寺

ファイル 204-1.jpghttp://shaolin-movie.jp/
監督 ベニー・チャン
出演 アンディ・ラウ ニコラス・ツェー ジャッキー・チェン ファン・ビンビン

1980年代初期にあのジェット・リーを一躍スターにした『少林寺』を、なんとなくイメージしてしまうでしょう、やっぱり。で、すっかり別物でした。

時は1912年、辛亥革命で戦いに荒れる時代。
傲慢な将軍(アンディ・ラウ)が、義兄を裏切って権力を一手に、と企んだとたんに、弟分(ニコラス・ツェー)に裏切られ攻め込まれ、馬車に蹴り飛ばされた幼い娘の命を救おうと少林寺に逃げ込むが、あえなく娘は息を引き取る。ちなみにその娘を演じたのは嶋田瑠那ちゃん、母親が中国人、父親が日本人、金城武と同じような境遇です。日本語はあまりしゃべれないらしい。

アンディもニコも、いやあな役が似合うようになったのねえ…と一種感慨にふけりつつ。少年ニコだったのに(いつの話だか)。

何もかも失ったアンディさんは頭を丸めて少林寺で修行する身となる。寺の料理番ジャッキーと人々に饅頭を配るなどから始める。うーん、どうなんだよ、いくら坊主頭だからって御尋ね者となった身が簡単に外に出ていいのかあ?

で、やっぱりその存在を知られるところとなり。悪いニコ率いる兵隊たちが騎馬で少林寺に乗り込む、少林寺の僧たち戦う戦う。

30年前の『少林寺』にも出ていたというおヒゲの師父ほか本当に武芸の世界から映画界に入った俳優や、それから『1911』にも出てたよね、余少群、『花の生涯 梅蘭芳』やドラマ『蒼穹の昴』ではいかにもなで肩の女形だったけど、ちゃんと少林寺僧に見えるのがさすが。それに、この人見たことあるなあ、と思ったらこの人がクマキンキンこと熊欣欣かあ、という敵方の強ーい坊主…など乱れ飛ぶ。アンディ50歳、いや頑張る。

最後にはうるうるしちゃいました。なぜか今年の震災なども思い出し、全てを失ってもなお生きることなども思ったのであります。
香港映画はこうでなくちゃ、という正統香港映画らしい作りですが、しかし北京語なのね。少林寺だから仕方ないけど。広東語映画が少なくなりました。

MOVIE
comment(0) 2011.11.30 21:51

1911

ファイル 203-1.jpghttp://1911-movie.jp/
総監督 ジャッキー・チェン
監督 張黎
出演 ジャッキー・チェン ウィンストン・チャオ リー・ビンビン 胡歌 ジェイシー・チャン ジョアン・チェン 寧静 余少群

辛亥革命100周年,成龍映画100本(実はよくわからないらしい)を記念して作られた中国近代歴史大作ですが、中国人には常識でも外国人である私たちにはよくわからない状況が・・・あの女性誰?はじめの方で頭を挙げて死んでいく秋瑾という人は?どこかで名前を見た気もする、女性革命家。
てな状況で、オールスターキャストな中国人のための映画です。日本がより悪者になっていくより少し前の時期の、孫文はじめ、その頃はいろいろな人が日本に留学しているはずだけどそんなことには触れられない、革命はいかに成功したか?そこには黄輿という人がいて、という話。今ひとつその黄輿の活躍ブリがよくわからない。成龍だ、と思ってしまうのであります。
でもまあ、お勉強にはなりました。

実はジャッキーの父親は、孫文が作って蒋介石が継いだ国民党員だった、共産党との戦いに敗れ、香港に逃げてきて“房”という姓を“陳”に変えた、と、言う話があります。陳を北京語読みでチェン、だからジャッキー・チェン。この映画にも出ている息子は房祖名という名前なのになぜかジェイシー・チャンもしくはチェンと英語名を名乗っていますが、本来の苗字を名乗っているのでしょうね。それにしてもイングリッシュネームのしくみってよくわからない。

MOVIE
comment(0) 2011.11.30 19:31

死んだら何を書いてもいいわ‐母・萩原葉子との百八十六日

ファイル 202-1.jpg著者 萩原朔美
出版社 新潮社

学生の頃、著者・萩原朔美のエッセーのファンだった。
最初のエッセー『赤い自転車』にはfor mother and tei と、母・葉子さんと当時の奥さんに献詞があった、という記憶も間違っていなかった。その頃まだ寺山修司の劇団“天井桟敷”の演出部の美青年として一部に名高かった彼の、う、うつくしい横顔と。[友人が、ある劇場で若き朔美氏を見かけた、その頃茶色の服しか身に付けないので知られていた彼、そこだけ光っていたわよ、と、聞かされたことがある]

高校生の時に朔太郎を読み、その後、葉子さんのエッセーや小説『天上の花』や『蕁麻の家』を知り、三代にわたる彼らの読者であり、そこそこの消息は目にし耳にしてきた。葉子さんがダンスに熱中しているとか、オブジェ制作をしているとか。
しばらく見かけることがなくなっていた朔実は、ある日多摩美の先生としてTVに出ていた。ブルーの服を着ていて驚いた。

前置きが長くてゴメンね、葉子さんが体調を崩し(老い)、朔実家族と同居することになるところからのお話です。
62歳でダンスのレッスン場のある家を建て、一人暮らしをしてきた母・葉子から弱々しい声で電話が来る。行ってみると、玄関ドア全体に「ベルは鳴らさないでください」などの張り紙だらけ、コンセントにはコードが入り組んでいる。どの部屋もモノに占領されている。パッチワーク・コラージュ・オブジェなどの素材、工作道具、大工道具。
涙ぐむほど笑うほど私には身につまされた。去年、最後までたくさんの遊び道具と楽しく過ごして突然亡くなった父が残した山のようなモノどもといかに戦ったか、そして我が身も、そうなりかねないいやほとんどそうなってしまうものすごくよくわかる。

老いた80歳過ぎの母にも、介護する息子にも、老いの意識というのはなかなか無いものだということ。

葉子さんの母、朔太郎の妻だった人は、姑との関係などもあって出奔し、奔放な生活をして、後に葉子さんが探し出して再会するのだが、さもありなむ、という綺麗な姿が写真に残っている。そりゃあ原稿用紙にばかり向かっている朔太郎と暮らしても・・・と、思わなくはない。

朔美の奥さんに向かって「一緒に食べてもいい?」と聞き、二階で暮らしていた葉子さんが一階で一緒に食事をしたというときに(朔美自身は不在だった)、「人生最良の日」と、猫のイラストと共に弱々しく書いてある紙切れを渡したというエピソード。それは、朔美の後悔と共に書かれている部分であるが、普通の家庭生活に恵まれなかったけれど、自分の人生を存分に生きた女性が、最後に自力では望み得なかったその普通を手ににしたのだなあ、良かったねえ、と、読者としては思う。けれども子としては、たくさんの後悔が思われることも、身にしみる。

そういえば朔美がチラッと顔を出していたにっかつロマンポルノがあった、タイトルを思い出せない。ググッてみたら『マル秘色情めす市場』というものであります。タイトルはすごいですが、田中登監督の名作でした。

BOOK
comment(0) 2011.10.29 09:20

うほほいシネクラブー街場の映画論ー

ファイル 201-1.jpg著者 内田樹
文春新書

この本を知ったのは金城武ファンサイト、『不夜城』評の中で、チョウ・ユンファを継ぐ亜洲映帝は金城君だ、と出ていると紹介されていた。

もちろん本人によると、アジア映画専門ではない。ハリウッド、スペイン、日本、台湾、新作も旧作も、様々な分野が取り上げられている。そして、本人が最初に断っていること、「あらすじ」「バックステージ情報」「監督、プロデューサーなどの自作解説」には触れず、「映画とそれ以外のものとの関連性」を論じる、のだそうだ。

これを読む前の夜、NHKBSで小津安二郎の『秋刀魚の味』を見た。定点観測か、と突っ込みたくなるカメラ、そして、なんちゅうスケベオヤジどもだこいつら・・・という笠智衆おとうさんの同級生ども、淡々と普通に過ごしてまんまとなんだかしみじみ見終わったのだが。
そうか、あのオヤジ共はほかの作品にも出てきていたか。この時代だから男子校育ちの最高学府出の中流の上クラスのオヤジだちが同級生で集まるとこうなるのか。おいおい勝手に仲間を殺すな、みたいな冗談も淡々と出てくる。ちょっと頭のいい連中にありそうだなあ。そして、こんなおじさんたちがなんだかんだ口出しして縁談を進めたからこの時代娘たちは結婚していったのだそうだ。それぞれ娘たちは結婚したがらない理由を持っていたらしい。

後期の黒沢映画はつまらない説、まことに大賛成。仲代達矢という人は演技ということを何か思い違いしている、『椿三十郎』の時を除き、という説にも大大賛成、であったが、後の記述に、『天国と地獄』の刑事役の仲代達矢がとてもよいことに気づいて訂正している。えーと、山崎努が出てた、くらいしか記憶にない・・・いつか見直そう(ごく最近の仲代サンは死んだような冷たい目をしていないと、私は思っています)。

『男たちの挽歌』評の中で、チョウ・ユンファいついて「暖かいエネルギーを放射できる人」と言っている。わかっているなあ。その章の最後を引用する。ほんとうに優れた俳優は、くだらないメロドラマを感動巨編にできるだけではない。彼らは無生物に生命を吹き込むことだってできるのだ。

侯孝賢の台湾映画の話とか、そうたくさんは出ていない中華圏の映画評が、私にはドツボである。その一つ、『ウォーロード』について、葛藤する人間‐長男のジェット・リー、次男のアンディ・ラウ、葛藤のない人間‐三男金城武の間に起こる悲劇、諸悪の根源はウーヤン(金城演じる三男)、と言われれば、そのとおりだ・・・。

そして、村上春樹の長編について、『コンスタンティン』評の中で述べていて、(ご存じなかったですか?)と書いてあるのだが、存じませんで、ほんとにまあ指摘されれば誠にその通りで、なんとうかつだったことか。
それについてはよろしければ書店にお運びください。

BOOK
comment(2) 2011.10.26 12:08

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