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楽老抄ーゆめのしずく

ファイル 224-1.jpg著者 田辺聖子
集英社文庫

単行本は1999年に刊行されたそうだ。著者は1928年生まれ、60代後半から71歳にかけて書かれているようだ。

本人ではなくその夫、カモカのおっちゃんと呼ばれた人の言葉で、<六十過ぎたら、自分が神様(カミサン)じゃっ>というのがあるそうだ。常常私も思っていた、60過ぎたら勝手させていただきたいと。今までだって勝手しとらんのか?と言う心のどこかのツッコミは置いて。<ヒトの神サン頼ることあるかい。六十まで生きたらそれなりにみな神サンになるわい。遠慮すなっ>いいね。

田辺さん本人の言葉だと、老いて傲慢偏狭になってなにわるかろう。いつも同じくりごとをのべて、なにわるかろう。くりごとは何べん言ってもよい、だからくりごとなんだ。
ああ、いいねえ。
地金あらわれ、本音で生きるというのも、品のいいことだ。人が生きるとき、品がありつづけるには、かげで品のないこともしなくてはいけない。そういう必要がもうなくなったのだ。すごい。
と、言えるのが、すごい。

まあ、ほぼそのあたりを書店でめくり読んで、買う気になったのだ。

老眼鏡をかけるようになってウキウキと二つ三つ、奇抜で派手な眼鏡を注文した、とか、閉経したら極地探検も月旅行も行けると勇み立った、とか。

かつてハイミスだった頃、田辺聖子さんの恋愛小説を沢山読んだ。周りのハイミスたちも読んでいた。『窓をあけますか?』とか『苺をつぶしながら』とか、タイトルは覚えているが、どれがどれだったっけ?

久しぶりに読みました、田辺さん。素敵な人には素敵な連れ合いがいるもんだ。喜界島出身の医師だったカモカのおっちゃんは2002年に亡くなられたとのこと。

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comment(4) 2012.08.16 14:31

ピナ・バウシュ 夢の教室

ファイル 223-1.jpghttp://www.pina-yume.com/
監督 アン・リンセル
出演 ピナ・バウシュ ベネディクト・ビリエ ジョセフィン・アン・エンディコット

まずスーツ姿の男たち、ドレスの女たちがこちら向きに並んで踊るシーン。ん?ダンサーにしてはだいぶ太めの人も?

実は全く素人のティーンエイジャーを集めて、ピナ(ドイツ生まれの振付家です、知らない方に、念のため)の代表作のひとつである“コンタクトホーフ”を、10ヶ月かけて教えこみ、公演する、その過程を記録した映画なのでしたよ。
ヒップホップなら踊ってる子、演劇が好きな子、ロマ(ジプシー)の子、父を亡くした少女…。はじめはそれぞれ戸惑い、恥ずかしがる。ダンスと言っても、男女の肉体的触れ合いの多い、演劇的でエモーショナルな、動き、どうして?これは何?と。

戸惑っていた普通の少年少女たちが、表現と深く向き合うことを経験しながら自分と向き合い、或いは他者と係わることを発見していく、その有り様がいいですよ。
日本の学校でダンスが必修科目となったらしい。私の中学高校時代にも体育の時間に創作ダンスをやったけど(私はとんと苦手だった)、それは教育舞踊という系列のもの、今度からのはヒップホップだったり社交ダンスだったりいろいろだと噂に聞いている。この映画のような、素敵な経験が出来る・・・と、いいね。でもそのためには、優れた表現者であり指導者である人が、必要なんだよね。上手に背中を押してくれる人が。
ピナは09年に68歳で亡くなっています。映画の中でもずっと煙草を吸い続けだったもんなあ。

ガーデンズシネマで、珍しい人の入りでした。ダンス関係者?それとも私と同じくコンテンポラリーダンスを見るのが好きな人が実はたくさんいるのでしょうか?

MOVIE
comment(2) 2012.07.31 13:28

台北カフェ・ストーリー

ファイル 222-1.jpghttp://www.taipeicafe.net/story
監督・脚本:シアオ・ヤーチュアン (蕭雅全)
製作総指揮: ホウ・シャオシェン(侯 孝賢)
出演 グイ・ルンメイ リン・チェンシー 中孝介

OLが念願のカフェ開店にこぎつけ、手作りの日替わりケーキなども作っている。その開店を前に、カラーをいっぱいに積んだ花屋のトラックと山道でぶつかってしまい、修理代代わりにその山ほどのカラーをもらってくる。
物々交換でカラー進呈!という訳で元の会社の同僚たちが持ち込んでくる開店祝いの品々がまた、なんの役にも立たないが図体だけはでかい、とか、妙なモノたち。

店は開いたが、なかなか客は入らない。妙なモノは溢れている。妹が、物々交換のアイデアを思いつく。
ある日、一人の男性が、世界各都市で集めたという35個の石鹸をもってやってくる。

『物の価値は、人の心が決める』という言葉が出てくる。だからまあ、そういう映画です。

後になって思い出すと、誰かに説明するのが難しい映画なのだけれど、私は見始めから“これDVD欲しい”と思いました。桂綸鎂(グイ・ルンメイ)は好きな女優だし、BGMが心地好いし、聞き取りやすい中国語だし、ということもありますが。

最後、世界旅行に出かけようと家を出た彼女は、あれは戻ってきてる?別の選択をした、そういうことだよね?やっぱりDVD欲しい。

MOVIE
comment(0) 2012.07.11 15:50

上野先生、勝手に死なれちゃ困ります

ファイル 221-1.jpg著者 上野千鶴子 古市憲寿
光文社新書

atconさんが古市憲寿の著書を紹介しているので、そうだ同じ名前だ、と今気づいた…という次第。僕らの介護不安に答えてください、と副題がついた対談。
上野千鶴子先生は、ジェンダーという言葉に関心がある人なら知っているでしょう、東大の先生。2011年に大学院教授を退職、今は名誉教授とのこと。団塊世代の上野千鶴子と、1985年生まれ、東大大学院総合文化研究博士課程在籍中、社会学専攻の古市憲寿。

現在、認知症の母を一人で介護している私には、この本の初めのあたりは昔の話過ぎて、えーと、もういいんだけど、と思う内容。親が老いて親子の関係が変化することへの不安についての話から始まる。

以下、抜き書き。

 お金に関していえば、今は介護保険のおかげで本当によくなりました。介護保険事業は中産階級にとって、まさに福音だったの。

 介護保険は、足りないようにできている。

 介護のために仕事を辞めるのは絶対にダメ。

 介護保険スタート時に、当時の自民党政調会長の亀井静香が、「古賀親を看る美風というものがある」って言って、介護保険1号被保険者の保険料徴収を半年間遅らせたのは知ってるでしょう。

 百姓というのは、百(くさぐさ)の姓(かばね)のこと。一年間の気候とか時期に合わせて、自分の仕事をコントロールする事業主のことを言う、と。

 自分の仕事をシングルインカムソースに依存しない。(中略)一人でもいいし、複数でもいいからマルチプルインカムで小銭をかき集めて暮らす。これを持ち寄り家計という。

 90年代から2000年にかけて、10年の間に矢継ぎ早に拡大した非正規雇用の規制緩和を許したのは、正解と財界、労働組合の共犯よね。(中略)ひとつは若者が投票にいかなかったことによって現状維持に暗黙の支持を与えた。二つ目には、彼らが実際に小泉に投票した。

 シングルマザー支援、特に婚外子支援をやらない限り、日本の少子化対策が本気だとは決して思わない。

 あんた社畜になりたかったの?って聞きたいわね。

 雇用形態が、「女性」と「若者」で似てきているということですよね。

 介護保険を作る大きな推進力となったのは、「介護の社会化を進める一万人市民委員会」だった。(中略)「高齢社会をよくする女性の会」が、家族介護の担い手の女性たちの声を代弁した。そして連合の男たちが一生懸命になった。なぜなら、中産階級の家族介護の負担軽減は、彼らにとっても緊急の課題だった。自分の親の介護を女房にやらせる際に、女房の不満を減らすことができるから。

 日本位のスケールの国家で国民強制加入の介護保険が成立したってことは奇跡に近いし、希望だと思っている。

長い引用になりました。誰でもいずれ(長生きすれば)訪れる老後をどう生きるか、ひとつのヒントにいかがですか?介護保険はかつての仕送りであり、仕送りしてくれる子供がいない場合は悲惨だった とか、老後にソフトランディングする とか、引用したい言葉はまだ沢山。

BOOK
comment(2) 2012.07.11 10:16

父の初七日

ファイル 220-1.jpghttp://www.shonanoka.com/
プロデューサー・監督:ワン・ユーリン(王育麟)
原作・脚本・監督:エッセイ・リウ(劉梓潔)
 
出演 ワン・リーウェン(王莉雯) ウー・ポンフォン(呉朋奉) タイ・バオ(太保)

2009年台湾映画。
初七日 となっているが、台湾の(田舎の?)しきたりに従った結果、死後七日目に葬式をする、と言う話。
アジアのお葬式というのはそれぞれ趣が違って見るだけでも面白いものだ。この台湾のお葬式、道教の道士である叔父がしきっていくのだが、映画が始まってすぐ ハーバーナギラハーバーナギラ〜♫というBGMとともにその道士(いや、本人が歌っているわけではないが)が派手な衣装で登場、泣き女(韓国映画で見たことのあるそれとは随分な違い)、あの世にもたせる紙のお金を焼くシーンも、中華圏の映画ではよく見るものだが、紙でできた応接セット・自動車・家財道具・電化製品をも焼くのだ。灰を川に流して故人に贈る。
儒教のしきたりと道教のそれが絡んで誠に派手な賑やかな送りとなる。その金管バンドは何ですやろ?など。

突然の父の死に、台北から帰ってきた娘。女優らしくない、普通の娘、と思ったら、大学で脚本の勉強中、普段は裏方なのだそうだ。初めての映画出演という。
遺影がカラオケマイクを持った普段着姿なのを咎められた。スーツで花束を持った大きな写真を背中に背負ってバイクで走る娘。数年前、大学受験前の18歳の誕生日の父とのエピソードと重なる。

日本だって、家族の死に際しては、悲しみに浸る間もなく次々に手続きを踏み、目の前の用事をこなしていかなければならない。

あまりの派手さ、物珍しさについ吹き出しながら見ているけれど、どこの国でも同じ、ふとした隙間に染み込む亡き人への思い、悲しみ。

いい映画でしたよ。台湾で口コミで広がり、ロングランヒットとなったそうです。午前のガーデンズシネマで観客3人、もったいないな。

MOVIE
comment(0) 2012.06.26 13:28

天地明察

ファイル 219-1.jpg著者 冲方丁
角川文庫

まことに面白い、さすが第7回本屋大賞、なのだが、カケラもわかりましねえ・・・“おまえの数学は算数以下の算術以下の忍術だ”という中学二年のおりの担任の言葉がまたよみがえる。が、算術は決して算数以下のものなどではないことだけはよーくわかりましただよ。

江戸時代、徳川4代将軍家綱の世、新しい暦をつくりあげるというプロジェクトの中心で動く青年渋川春海の物語。実際の時間とわずかにずれている暦を800年使ってきたため、そのズレが大きくなってきたのだ。月食とか日食とかの予測も大きくずれてしまった。…暦デソンナコトノヨソクモナリタッテイタノカ、ぐらい無知なる私である。情けない。

囲碁の名門に生まれ、算術の面白さにはまり込み、道端でも命題に取り組み時を忘れる青年。関孝和という名前も出てくる、和算という言葉とつながる記憶があるなあ、和算というもののレベルはずいぶん高いものだったのね、今更だけど。

北極出地って聞いたことある?『おのおのの土地の緯度は、その土地にて見える北極星の高さに等しいのです。ゆえに緯度とその計測を北極出地と称します』だって。計測する方法も出てくるけど、ごめんね理解不能。

で、もう一回読み直している最中でありますが、理解はできなくても面白いので。
あんりゃ、渋川晴海って実在の人物、この小説は事実であったのか・・・http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B8%8B%E5%B7%9D%E6%98%A5%E6%B5%B7

BOOK
comment(2) 2012.06.20 22:54

二流小説家

ファイル 218-1.jpg著者 デイヴィッド・ゴードン
出版社 早川書房

ポルノやSFやヴァンパイア小説やミステリーや、様々な筆名(女性名義も)を使って多作して生活している二流小説家ハリーに、チャンスがやってくる。連続殺人鬼ダリアンがハリー(のポルノ)のファンで、告白本の執筆を依頼してきたのだ。

恋人には愛想をつかされ、女子高校生(中坊か?)クレアからはいいように扱われる中、ハリーが刑務所で服役中のダリアンに会いに行き、そして・・・という経過を、初めて本名を使って書くという形になっている。

ところがダリアンは、彼をなぜか信奉するファンの女性を登場させたポルノを書けという。女性にインタヴューするハリー、そしてまた起こる殺人。

間に別名で書いたというヴァンパイア小説やそのほかの作品の一部なるものが出てくるのだが、それ読みたい!という気にさせる。また、ミステリー小説にそこそこ詳しい人なら知っている作家の名前がいろいろ出てきたり、それから私が読み進まないまま我が家の隅でほったらかされているハックスリー『すばらしい新世界』だとか出てきて、そこそこの読書家の方がストーリーと別のところで楽しめる作りになっている。

肝心の・・・ところはどうなの?ちょっと無理があるでしょ、そこ・・・とか、思わないもんでもないのだが、まあ面白い作りです。
割に厚めのこの本を読み終える間に軽く読めるものを2册だったか3冊だったか挟んでしまった私は、プロローグがどんなだったか忘れてしまい、読了後に改めてめくってその(どの?)ちょっとした仕掛けに気づきました。

“このミステリーがすごい”2012年版ほか三冠達成だそうです。

BOOK
comment(0) 2012.06.01 12:18

無言歌

ファイル 217-1.jpghttp://mugonka.com/
監督 王兵
出演 ルウ・イエ シュー・シェンツー ヤン・ハオユー

百花斉放・百家争鳴 という言葉は知っていた。中国語学習者だったから。でも、これが毛沢東が「共産党への批判を歓迎する」として始めた運動のスローガンだったことは知らなかった。まもなくその毛沢東が、右派分子が社会主義を攻撃している として弾圧を始めたというのが反右派闘争というものだった。

目を覆う、という言葉がある。atconさんは先日の『捜査官X』の8割がた目にしなかったらしいが、ああいうアクション物の血腥さなど笑ってみていられる私が、実際に目を覆って目をそむけた部分があった。
右派として辺境に送られ、開拓を命じられる。その場所が、ゴビ砂漠の収容所であり、砂、石、風の他に何もない。死者が続出する。生きている者も、ほとんど水のような粥しか与えられず、壕の中でただ眠リ、また労働する日々。鼠を捉えて食べる。

ある日、上海から女が夫に会いにやってくる。が、夫は7日前に亡くなっている。女の嘆き、泣く声。日本の女とは違う、と思うのは、周りの疲れきった男たちにどう迷惑をかけようが、夫の墓を探すところだ。

1960年の話なのだ。

事実を下にしていて、出演者の一人、乾いた植物の種を集めている老人は、そこで生き残った人だという。

こんな酷い映画見たくない、と思う気持ちを抱えながら見続けた。酷い事実を描き、中国では上映できない作品。酷い、凄い映画である。

MOVIE
comment(1) 2012.05.30 20:21

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