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兄弟

ファイル 168-1.jpg著者 余華
出版社 文藝春秋
訳 泉京鹿

日本語版に寄せた著者後書きより
長い間ずっと、こんな作品を書きたいと考えていました。極端な悲劇と極端な喜劇一緒くたになった作品を。なぜかといえば、この40年余り、我々の生活はまさに極端から極端へと向かうものだったからです。

その言葉以上にこの作品をあらわす表現など思いつかない。
すでにこれは文庫化されているが、私はこの小説が発行された2008年に買ったまま、読みそこなっていた。

文革篇・開放経済篇の上下2冊。
文革篇の初めのうちとんでもないトイレのぞき話が展開される。
この小説に手を伸ばした方、お願いです、耐えてください。少しずつ読み進もうとすると挫折します。時間を作って一気に読んでください。

再婚した二人にそれぞれ連れ子があり、その子供たちの話。片や女便所(中国のトイレ事情のすごさはかつて有名だった、今でも内陸部の貧しい地区はそうなのだろう)の覗きをやろうとしておぼれ死んだ(!)男の息子であり、片や、男の中の男、例えば高倉健の持つイメージそのままの実に望ましい男の、息子である。
文化大革命という言葉のもとに行われた暴虐はすでに様々な映画などで見ている。この余華という作家の作品「活着(生きる)」も、張芸謀監督により映画化されているし、覇王別妃さらば、わが愛(陳凱歌監督)、芙蓉鎮(謝晋監督)などなど。が・・・。
泣き、笑い、また泣き、一晩でこの上巻を読んだ。
下巻は打って変わって開放改革路線の中ですごい勢いで金儲けしていく男あり、一人の美女を得た男のほうは・・・。

中国の遊園地のわけのわからんガンダムとか、無許可の翻訳iブックとか、魚釣島はこっちのもんだ船長とか、そんなに金があるんだったらちったあ自分の国の福祉に頑張らんかいな大金持ち人種とか・・・まあ仕方が無いかと思えてしまうのですね、これが。ほんのちょっと前の世代は、ちょっとやそっとのトラウマで片付けられないような状況に翻弄され、そしてそこを生き延びた人々の、子孫たち。

あの国は何なんだろうと思っている人に一読をお勧めしたい作品です。
反日運動の起こったころまでが描かれているのだけど、しかし超金持ちになった兄弟の片割れ李光頭は、金色のTOTOのウォシュレットを使っているし、反日、抗日ってのはやはりかなりの程度政治的思惑で起こる運動でもあることが見えても来ます。

久しぶりに読み飛ばした感があるが、じっくりなんか読んでられない・・・と思うよ。本国では賛否両論、ゴミ小説とも呼ばれたらしい。

BOOK
comment(2) 2011.02.13 14:30

グリーンホーネット

ファイル 167-1.jpghttp://www.greenhornet.jp/
監督 ミシェル・ゴンドリー
出演 セス・ローゲン ジェイ・チョウ(周杰倫) キャメロン・ディアス

ブルース・リーがテレビで演じた、彼の出世作として知られる、コミック・ラジオドラマ・TVドラマとしてアメリカでは昔から有名な作品。

90年代からジェット・リー出演で制作の噂があったが、その後香港の喜劇王チャウ・シンチー主演・監督で話が進んで・・・つぶれて、まさかジェイがハリウッド進出するとは思いませんでしたぜ、ということになった。

ジェイ・チョウは、知らない人にはなんのこっちゃでも、中華圏では今トップスターのミュージシャンである。台湾出身、作曲から始まって、デビュー後は日本武道館でも公演している大スター歌手、そして映画俳優、監督と進出している。
が、台湾には王力宏やデビッド・タオ(陶喆)などアメリカ育ちで英語ペラペラのミュージシャンがいる中、バリバリの台湾育ち、英語が堪能などと聞いたことも無いばかりか、北京語が聞き取りにくいことで一部に有名な・・・男ではないか。そして、見た目に麗しいとか、すごくかっこいいとか、そんなことも無く(才能あるけど見た目が…ということで初め作曲家デビューだったって)。
インタビューでは3カ月の英語特訓をしたと言っているらしい。なんぼ訛りのある英語だってそんな!

さて、映画ですが、大新聞社のオーナーのアホぼんが、その父の急死により社長就任、父の運転手だったカトー(と字幕では表記、発音はケイトー、で、上海生まれ…何人や?)と組んでグリーンホーネットとしてグリーンの服とマスクに身を包み、街の犯罪者たちをつぶしていく、のでありますが。ま、なぜかカトーは武術家で発明家でまことに都合がよろしいので、アホぼんブリットはへなちょこだったのであるけれど・・・。

私初めての3D体験で、平日昼間しか時間が取れない身の悲しさ、正規料金に3D分の300円追加、2100円も出してどないやねんと思いましたが、アジア芸能ファンである身には、それなりにストレス発散、3Dも、こんなものなの?という自然なレベル、元祖アメリカンコミックな作品。で、ジェイのことなど何も知らない方にお勧めできるかと言うと、それは?。

MOVIE
comment(0) 2011.01.25 10:10

かちこみ!ドラゴン・タイガ・ーゲート

ファイル 166-1.png2006年香港映画
監督 葉偉信(ウィルソン・イップ)
出演 ドニー・イェン ニコラス・ツェー ショーン・ユー ドン・ジェ

1954年生まれの成龍ジャッキーや1963年生まれのジェット・リーが演技派へと重心を移そうという中、今、アクションスターとしてNo.1と言われる甄 子丹ドニーさんの、
ドニーさんのための映画、ではありますが。
3D流行りの映画界ですが、きっちり鍛えた人間のアクションは良い!その上でCGを使う映画作りのほうが、私はやっぱり好き。

原作は香港で永年続いているマンガ、いかにもマンガっぽい造作のパッサリ頭(明日のジョーとか鬼太郎とか)で、原題龍虎門、カンフー道場もの。かちこみとは殴りこみとかそういう意味だそうです。短く言えば道場破りのお話、亡き父が龍虎門の道場主だったんだけど、子供の時に別れた兄弟のドニーとニコ、いろいろあってドニーさんはヤクザの片腕に。
そこへ羅刹門という悪の組織が・・・。

うわあ、ワイヤーアクション見え見え、なシーンがあるし、柱に身体がぶち当たってカケラがばたばた落ちたのにきれいなままの石柱が・・・とか、なーんでそのジェイソン鉄仮面マスクを最後までかぶって(羅刹門の悪役)、とか突っ込みどころは満載なのも由緒正しい香港映画テイストそのもので、昔ながらの香港映画好きな人には楽しい作品だと思われますよ。時代がいつだかわからない、と思ったら携帯電話が出てきて(スポンサーがノキア“中華圏でシェア一番の携帯電話”だって)現代ですかい。

ニコやショーンは、どのくらい自分で動いているのかなあ、結構頑張っているんでは?『至福の時』の目の見えない少女ドンジェちゃんがちょっと大人になって出ています。敵側のリー・シャオランがきれいなお姉さんなんだけど、他の作品も見てみたい気にさせます。

ところで、ドニーも1963年生まれ?この映画では若作りだけど、さーてドニーに続く本格アクションスターはいずこに?

このあとドニーさんはブルース・リーの師匠を描いた作品『葉問イップ・マン』を2作撮っているはず、そして年末に雲南で『武侠』という作品を撮り終えたはず、金城武主演です。
2011年が明け、やっと一人の時間ができたところで、録画しておいたこの作品を見ました。年末年始って時々香港とかどこやらアジア作品をやってくれるのでうれしい。

MOVIE
comment(2) 2011.01.04 13:06

ノルウェイの森

ファイル 165-1.jpghttp://www.norway-mori.com/index.html
監督 トラン・アン・ユン
出演 松山ケンイチ 菊池凛子

いつもその匂い立つような息苦しくもあるような色彩の映像を見せてくれるトラン・アン・ユン監督作品である。撮影が侯孝賢作品や先日DVDを見たばかりの『空気人形』の李屏賓である。
美しい映像であるのは、当たり前である。

もしも私に編集させてくれるなら、台詞やモノローグを9割がた削る。この作り方なら、映像詩のような作品に仕上げたほうが、良かったのではないだろうか。

高校生時代から始まるが、日本の高校生活には見えない。国籍がどこだってもいいけれど。
私がこの原作を読んだのは決して若過ぎない年齢のころだったが、精神的に不安定な時期だったから、ということもあるか、かなり深くこの作品にシンクロした記憶がある。
なんでYMOのオジサンたちが?笑ってしまった。

松山ケンイチ演じる主人公がニュートラルなところにいて、エキセントリックなほかの人たちがいる、という設計に見える。ひどく手前勝手な若者たちばかりに見えてしまう。緑サンとか。永沢サンとか。そのバックが、よく見えなくて。
早稲田っぽい大学だが(村上春樹が早稲田出身なのだから、おそらくそうなのだろう)永沢サンは慶応とか成城・成蹊あたりの大学生に見える。見た目にも普通の松山ケンイチに対して高良健吾や玉山鉄二のような超美男子を配したのか?玉山鉄二に昔の成城の学生みたいなヘアスタイルや服装をさせるとまことに美男子さが際立つ。わざとか?菊池凛子に対して水原希子というのもそれ?初演技という水原希子の台詞が下手過ぎて、ワガママお嬢にしか見えないのと、セックスシーンの時のレイコさんのスリップ姿の歩き方がものすごく下品に(或いは卑屈に)描かれているように感じたのを、なんとかしてほしかった。もう原作を覚えていないからもう一度読み返したいと思っているが、あのへんは救いになるべきシーンではないの?

だからね、中途半端に説明するよりもっともっと説明をはずして、わかりにくくてもいい、と、いう作品に、仕上げてくれたほうが良かったと、私は思います。
菊池凛子サンが、菊池百合子だった時代だったら良かっただろうな、とも。

MOVIE
comment(0) 2010.12.22 23:23

台北に舞う雪

ファイル 164-1.jpghttp://taipei-snow.jp/main.php
監督 霍建起フオ・ジエンチー
出演 陳柏霖 童瑶 楊祐寧 莫子儀
2009年 台湾 中国 日本 香港 合作

大陸出身の新人歌手メイは、声が出なくなって失踪、台湾の田舎の町でモウと出会う。父が早く亡くなり、母は行方をくらまし、祖母に育てられたけれどその祖母も亡くなり、町のみんなに育てられたというモウは、街の人々を手伝いながら暮らしている。育ててくれた街の人たちへの恩返しの気持ちで。

メイを演じる童瑶(トンヤオ)は、すごーく感じの良い葉月里緒奈見たいな顔立ち。中華圏ではチャン・ツィイーに似てると言われているようだが。

心やさしい青年役の陳柏霖(チェン・ポーリン)は、デビュー当時に台湾のキムタクなどと呼ばれたことがあるが、なるほどちょっとそんな面影が、という時がある。

心やさしい青年だからメイのために何かと手助けするうちに好きになっていく、メイのほうも、だけど立場の違う二人だし・・・。

と、説明してしまうとベタなお話なのだけれど。
私には大好きな作品の一つになりました。霍建起ってなんの監督だっけ?と思いだせないまま見ていたけれど、そうか『山の郵便配達』ね、そうか、この映像。湿気を帯びた緑の山々。

お母さんはいつ帰ってくるの?と祖母に聞くと、台北に雪が降ったら、といつも答えた、それがタイトルになっている。沖縄より南だもの、降らないよね。そこのところの中国語、雪が降る、というのは下雪と書いてシアシュエと発音するのだが、何度か上雪シャンシュエと言っていた。雪におおわれるという意味に・・・なるのか、あり得ないこととして言っているのか?私の中国語力ではわからないのだが。

メイを治療してくれたもと漢方医の爺さんの家が火事になり、消火剤の白い泡が雪のように降り積もる。そして。

歌声は別人、陳綺貞。いわゆる癒し系の歌声が心地よい。

MOVIE
comment(0) 2010.12.22 21:29

娚(おとこ)の一生

ファイル 163-1.jpg著者 西 炯子
出版社 小学館 フラワーコミックス

このマンガ家さんが鹿児島出身と聞いて読んでみようと思った。

染色家だった祖母の葬儀のシーンから始まる。大企業に勤めている女性・堂園つぐみが、長い休暇をとって帰郷し、祖母宅で暮らしていたら、入院していた祖母が亡くなったのだ。
そこへ、とぼけた表情の中年もしくは初老の男性が小川で顔を洗うが、メガネをかけたままだったことに気づく、という、なんじゃ?なシーンが続いて。

作者のつぶやきのコーナーに、篤姫の生家のすぐ近くに住んでいた、とあるし、海辺の設定なので指宿線界隈だと思い込んで読んでいたが。とぼけた男・海江田は大学教授で、角島(カドシマ)大学のある市まで新幹線で30分・・・鶴水市、ってそうか出水ね。そのあたりの古い田舎家、男はその祖母から離れの鍵を預かっていたのであって、学生時代、20歳くらい年上の祖母に恋していた。

数年前、50歳は中年か初老か?という疑問を周りの50歳前後の男女に投げかけたところ、大概の男は“中年だ”と主張し、大概の女性は“中年とはいえん、初老か・・・”であったが。まあ30代半ばの有能な企業人である女性の目からは、初老寄りに見えるだろうこの海江田教授が、ええ男やのう・・・こんなんおらんやろ、おらんんなあ、パンいちでうろちょろしててもさあ・・・。
女は、まあ不倫に傷ついてこんな田舎で休暇をとっているわけだが、いるよね、なんか何がよろしくてそういうおとこばっかえらんでるかなあ、そこそこイイ女なのに、って人。そこそこイイ女のくせに無駄に自信がない女。で。

ちらほら遊びが放り込まれていて、小さな書き込み♪京都~大原さん全員~ が一瞬何のことかわからなくて。おーはらさんぜんいん。

鹿児島ゆかりの名字が多く出てくるから、海江田さんという小太りのオジサンを思い出したりしてちょっと邪魔はされるのであるけれど、そしてそんな育ちだったらもっとあからさまに弱い、微妙な屈折が見えるはずや、と思ったりはするが、いいんです、大人の女にはこんな夢の男が。少女マンガに分類されているけど。

「このマンガを読め!2010」で第5位。なお、祖母の家は作家の実際の祖母の家そのままだそう。

BOOK
comment(0) 2010.12.21 09:14

1Q84

ファイル 162-1.jpg著者 村上春樹
出版社 新潮社

すみません。私は村上春樹の良い読者ではなく、たぶん『ノルウェイの森』からこっち読んでいないのであり、無知を許してね、フリークの方。

天吾という男と、青豆という女と、空気さなぎと、ふかえりという少女を中心に進んでいく物語。

たまたまその前に読んだのが、子供のころに深く傷つき、そこからの人生を如何に生きるか?と、いうテーマで描かれたもの続きだった。ブレイブストーリー・疾走・金色の野辺に唄う・・・。それらは、読みながらいくつかのヴァリエーションで着地点が予想できた。

さっぱり予想がつかないのだ、これは。どこに行くのか、どのジャンルに所属するのか、さっぱりわからぬまま引き込まれる。三冊読み終えた今となっては、あれ?やっぱり主人公たちは子供のころのトラウマを抱えて生きていたんだ、と思う始末で。

ジョージ・オーウェルの『1984年』を、しばらく前に読み始め(そっちは挫折したのだが)、それはビッグブラザーと呼ばれる独裁者に支配される(今なら北朝鮮を思い浮かべる)社会だ。それを土台に、近過去の話を書きたい思いがあったそうだ。

まだサリンなど現れるよりもずっと前の設定で、たとえばエホバの証人を思わせる宗教団体や、ヤマギシ会(名前を思い出すのに時間かかった)らしき団体が出てくる。オウム真理教風味でもある。

リトルピープルって?空気さなぎってだから何?

これSFだったの?でもパラレルワールドなんてものじゃないんだと言われてしまうし。青豆が“失われた時を求めて”を読んでいる、するとマドレーヌを差し入れようなどというギャグ?出てくるし。

なるほどこれがいずれノーベル賞をとると言われる小説家の書くものかと思うのであります。面白い。でも着地してない、この物語はまだ。

ねえ、私の感覚だと、少数のファンに激しく支持されるカルトな物語、という感じなのだけれど、でもすごく売れているんだよね、ちょっとそれが不思議な気が。しない?

BOOK
comment(3) 2010.12.08 12:30

空気人形

http://www.kuuki-ningyo.com/index.html
ファイル 161-1.jpg監督 是枝裕和
撮影監督 リー・ビンビン 
美術監督 種田陽平
出演 ペ・ドゥナ 板尾創路 ARATA
原作 業田 良家 「ゴーダ哲学堂空気人形」

私は 「心」を持ってしまいました 持ってはいけない 「心」を
と時折つぶやく、空気を入れて膨らませ、性の道具になるために作られた人形を、韓国女優ペ・ドゥナが演じる。

平たく言ってしまえばダッチワイフの彼女だから、映画が始まってしばらくのその持ち主板尾創路とのシーンは、おーい、こんな映画だと思ってた?ペ・ドゥナ!なえげつなさだけれど、ある種の韓国映画に近い匂いもあり。

彼女が人形から人間らしいものへと変わっていく経過の、ペ・ドゥナがいろいろ経験していく過程のまあなんと可愛いこと!おそらく特に演出せず、状況だけを与えて彼女の表情にまかせたものだと思われる。私はペ・ドゥナのファンの一人なのだが、こんなに可愛い子として映っている彼女を初めて見た。

なぜかレンタルビデオ屋さんの店員となって先輩のARATAに初歩から教えてもらい、少しずつ賢くなっていくのだけれど(中は空気なのになぜ?とか聞いても仕方が無いので)、ちょっとした勘違いが混じっていて、それが後々の結果へとつながる。

猥雑なものと、透明感に満ちた映像とが混在している。人形が人間になっても、やはり人魚姫の物語のように、なにかがずれていくので・・・。
悲惨なような、救いがあるような、その結末。

中に出てくる詩がある。「生命は」
http://ym212152646.fc2web.com/poem-h.y.html
覚えがある気がした。終わり近くのの字幕に吉野弘と出ていたので、本棚を探したら、『北入曽』昭和52年刊の詩集に入っていた。ずいぶん久しぶりに開き、いい詩集だと思う、かつての私はどの詩に魅かれてこれを買ったのだろう。

MOVIE
comment(0) 2010.12.03 09:51

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