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小さいおうち

ファイル 152-1.jpg著者 中島京子
出版社 文藝春秋

143かい直木賞受賞作。

緻密に構築された、ちょっとミステリー仕立ての、佳作。

昭和初期の、中流の上?くらいのおうちに女中さんとして奉公することになったタキさんの回顧録の形で話が進んでいく。
赤い三角屋根の小さいおうちには美しい若い奥さんがいて、奥さんの連れ子の息子、少し年の離れたおもちゃ会社にお勤めの旦那さん、そして、気働きのすぐれた女中さんである語り手(書き手ですが)。

ほとんど戦争の影も感じられず、東京オリンピックの話が進んでいたころから、次第に戦争へと進んでいく時代にあって、このくらいのクラスのおうちではそんなだったんだろうなあ、というような、かなり優雅な戦争前夜暮らし。優秀な女中さんによって者が少なくなってからも、いろいろと工夫を凝らして美味しそうなお料理があらわれるのは、ちょっと真似させてもらいたいものがあります。

読み進むと、ん?という気配が・・・うーん、そうか。そういうことね・・・。
まあべつに、どんでん返しとかそんな大げさなものではなけれど、小さな、え?がいくつかあって。

『ちいさいおうち』というバージニア・リー・バートン作石井 桃子訳の絵本があるそうです。それも読んで見ようと思っています。

BOOK
comment(2) 2010.09.14 18:40

ベストキッド

ファイル 151-1.jpghttp://www.bestkid.jp/
監督 ハラルド・ズワルト
出演 ジェイデン・スミス ジャッキー・チェン

ウィル・スミスの息子ジェイデンの身体能力の高さ!
言わずと知れたあの『ベスト・キッド』のリメイクですが、どうも変な日本人ミヤギ師匠になじめなかった前作よりも面白いと、私は思うぞ。師匠があのジャッキーだから本物のカンフー・アクションを見せてくれるし。
ジェイデンは3歳のころから空手を学んでいたそうです。何かそれを生かせる企画は無いか?というところから、この映画が生まれたらしい。

そりゃあちょっと無理があると思うぞ、というシーンはたくさんあります。母親の転勤で北京へ、という設定ですが、今の北京では黒人の少年は珍しくない?もう少し珍しがられそうな気がする・・・。まあそれでいじめられたって話かもしれない。ハンさん、子供相手にそんなに本気出したら骨の一つや二つ折れるでしょうよ、子供の体と体をぶつけてるだけったってさあ。カンフーだって流派あるでしょう、そんな理念の違う流派ぶつけた試合ってある?とか。
まあそれはそれ、難しいことは言わずに楽しみましょう。山の上での太極拳系の修行シーン面白いです。その神聖な水に顔突っ込むのはやめてくれよと思うけど。

MOVIE
comment(0) 2010.09.02 00:09

キャタピラー

ファイル 150-1.jpg監督 若松孝二
出演 寺島しのぶ 大西信満

http://www.wakamatsukoji.org/
キャタピラーってもともと芋虫の意味だったと、知らなかった無知なわたくしでした。

2010年ベルリン国際映画祭で寺島しのぶ最優秀女優賞(銀熊賞)受賞、ということで話題になった。

江戸川乱歩の同名の小説と、『ジョニーは戦場へ行った』を参考に作られたそうだ。戦争で両手両足を失い、顔の半分焼けただれた夫が、勲章とともに帰って来る。その武勇をたたえる新聞記事も飾られる。軍神さまと村人に呼ばれる。
男は、食べて、寝て(交合して)、食べて、寝る。戦争に行く前から、乱暴な男であったことが分かってくる。

竹槍訓練をする婦人たち。

男と女の立場が逆転して、妻が夫を強姦するような状況をきっかけに、男はかつての戦地で村の女を暴力で犯したことを思い出す。何度もフラッシュバック、PTSD。精神を病んでいく。

見るべき映画だと思う。が、途中から私はひどく冷静な観客になった。なぜこの男優に賞がこなかったのだろう?とか(もちろん寺島しのぶサンは熱演だし、とても好きな女優さんだが)、寺島しのぶサンの裸は、無知な農婦のものというよりやはり育ちのいい身体に見える、と思ったり、竹槍訓練の役者さんたちはこれは無駄だと思っている芝居をしていたのだろうか、と思ったり。熱心なようでそうでないように見える訓練。

とても正しい映画、たとえば『キューポラのある街』のような正しさ。

昨日、TVでかつての大映作品『氷点』をやっていた。少ししか見ていないのだが、その若尾文子の表情の恐かったこと。脇に出ていた無表情な森光子もなかなか恐かった。恐さの質を比較したか。

MOVIE
comment(2) 2010.09.01 10:41

珍妃の井戸

ファイル 149-1.jpg著者 浅田次郎
出版社 講談社

再読。蒼穹の昴の続編。
珍妃、光緒帝に愛された美しい側室。西太后によって井戸に投げ込まれて亡くなったと、されている。おそらくそれが史実なのだろう。

誰が珍妃を殺したか?を、蒼穹の昴でも謎の女として神出鬼没(?)していたミセス・チャンの示唆を得て英国の提督・ドイツの大佐・日本の大学教授・ロシア銀行総裁が探っていくミステリー仕立て。その場に居合わせた(居合わせなかった新聞記者一人もいるが)と話す人ごとに犯人が違うのだ。その人が犯人であって欲しいと願う誰かを、それぞれがまことしやかに陥れる。
こんな形式でみんなが嘘をつく作品を読んだことがある気がするのだが、なんだったか?
ついには、光緒帝に面会する機会を得るのだが、なんと光緒帝の言うにはこの4人の外国人こそが犯人であると名指しされるのだ。

初読の時には、今ひとつ面白く思わなかったのだ。蒼穹の昴の壮大さを期待したからだろうか?前作からしばらく時間がたってこれを読んだからピンと来なかったか?

泣かせの浅田次郎らしい最後になる。
いやあ面白かった。『蒼穹の昴』に続けてすぐ読むことをお勧めします。
ところで、積んどいたその続編『中原の虹』をやっと読もうとしたらどこに行ったやら…見つからないよお。

BOOK
comment(0) 2010.08.25 16:14

音もなく少女は

ファイル 148-1.jpg著者 ボストン・テラン
文春文庫

新しく本を買うのはしばらくやめようと思ったばかりなのに、空き時間に書店に入ったら、出会ってしまった。帯に“いい小説だ。心に残る小説だ。”と、北上次郎の言葉があったのだ。北上次郎の書評でこんな風にほめられてる場合、私の好みに合致する確率は高い。

冒頭に、一通の手紙。私は殺人の隠ぺい工作の手助けをしました、と始まる短い手紙。そして①54歳のブロンクスの女性店主、麻薬の売人を射殺、というニュース。②21歳のチャーリーと17歳のイヴが、イヴが住んでいる建物の屋上に毛布を広げて空を見上げ、みずみずしい恋のシーン。

その三つのエピソードがどんなふうにつながっていくのか?

とんでもない最低の環境(ろくでなしの夫を持つ無学で信心深いクラリッサ、耳が聞こえないその娘イヴ、ヒットラーの時代、断種法により聾者の子を身ごもったために子宮を摘出された経験を持つフラン)、最低の男たちとの係わり、その中で女たちが、強い絆を結び、生き抜き、そして何が起こるのかは、どうぞ読んでください。クラリッサとフランの墓碑銘に、
 女、姉妹、友達、母親
と彫られるシーンがある。心身に深い傷を負った女たちの、(何かを守るための)靭さを、静かに描いて、本当にいい小説です。原題は『WOMAN』ですが、翻訳タイトルにまず魅かれるよね。

BOOK
comment(1) 2010.08.09 10:48

猫の心を持つ男

ファイル 147-1.jpg著者 マイケル・アレン・ディモック
出版社 早川書房

再読。
二階の瓦が一枚落ちて雨漏りが起こり、ふと気付くと壁一面の本棚の向こうの壁に雨がしみて・・・という事件があったために、この本を目にした。全く記憶になかった。
読み返すと、フレースなりエピソードなりに覚えがある。ストーリーは完全に記憶から欠落。

精神科医ケイレブは、人を猫型と犬型に分類する癖がある。タイトルはそこから。

家庭内離婚状態にある刑事シネスは、十代のころ、芝生に座ってザッパやジョプリンやB・Bキングを聞きながらマリファナ煙草を回し飲みした、という世代。野外コンサートで本物を、ってことよね。

ケイレブの家の本棚にはドストエフスキーからゾラまであり、多くはアメリカの作家フォークナー、ヘミングウェイ、スタインベック、アプダイク、ベロウなど、人ルの棚にはミステリ作家ドイル、チャンドラー、ハメット、ジョン・D・マクドナルドとロス・マクドナルド、それにグレンジャー、パレツキーなどシカゴの作家が並んでいるそうだ。

会計士が自殺を装って殺される事件が、まず起こる。

ケイレブはゲイであることがわかるのだが、ゲイであることで脅されるかのような事態になって、彼はいまどきそんなことがと一蹴する。最初にこれを私が読んだのがおそらく1995年、書かれたのが1993年、読んだ時に、ああ、そんなものなのか、と思ったことをよく覚えている。2010年の今でこそどこかの首相がゲイだと公言したとかゲイ同士で結婚したとか、国によっては政治家でも何の問題にもならないようだが、当時の日本ではまだ特殊なことと思われていただろう。

殺人事件の犯人探しとしてはさほどのものではないかもしれない。人間関係、社会性(まだエイズは不治の病の時代である)、いろんなエピソードが詰め込まれて、それが興味深い。

作家は男性名だが、実は女性で、この作品で新人賞を取っているが、その時の本職はシカゴ市営バスの運転手。なぜかその後翻訳は出ていないようだが、英語版は続編などあるらしい。

BOOK
comment(0) 2010.08.06 14:11

蒼穹の昴

ファイル 146-1.jpg著者 浅田次郎
出版社 講談社

再読。
1996年刊、その年読んだ本のベスト1に挙げた記憶がある。小野不由美の『図南の翼』とともに、周りの人々にお勧めしたものだった。

清朝末期、極貧の暮らしの中、李春雲(春児)は自らの身体の一部を切り取る行為によって宦官への道に進む。西太后の側近となっていく。春雲の兄と親しかった梁文秀は、科挙にトップで合格し、光緒帝を支える高級官僚となる。その二人を軸に、歴史の大きな変換の流れが描かれる。

ああやっぱり面白い。実在の人物と架空の人物が入り混じり、中でも狂言回しよろしく出現しては重要な役割を演じる韃靼の老星占い師白太太(パイタイタイ)!

浅田次郎はこの作品でこの年の直木賞にノミネートされた。もしもこの作品で直木賞をとっていたら、彼の作風の傾向は変わっていただろうか?結局、次の年に『鉄道員(ぽっぽや)』で受賞するのだが。蒼穹の昴でも泣かせ方は心得たもの、要所要所でうるうるさせられる。が…個人的にはこっちで賞をとって欲しかった。

NHKハイビジョンでドラマ化されたが、どうにも田中裕子が中国語吹き替えで演じる西太后が中国人には見えず、ストーリーは忘れている、どうやらずいぶん脚色されている、とあって、どうせいずれ再放映される、その前に読みなおそう、と思ったのであります。李春雲役の余少群には興味あったんだけどね。映画 『花の生涯 梅蘭芳』で若き梅蘭芳を演じた役者。

『珍妃の井戸』まで再読し、その後、買ったまま積んである『中原の虹』へと読み進めることといたしましょう。

BOOK
comment(0) 2010.08.04 20:51

高峰秀子の流儀

ファイル 145-1.jpg著者 斎藤明美
出版社 新潮社

婦人画報で連載されていた。某待合室でいつも読んで、読むたび驚愕していた。

子役は大成しないと言われる。最近でもよく、あの人は今、なんぞのTV番組でかつて子役スターとして一世を風靡しただれかのその後を伝えている。子供の収入に頼った大人がいた場合、およそせつない話になる。そういえばあのマーク・レスターの名前を、マイケル・ジャクソンの死に絡んで久しぶりに見かけた。洋の東西を問わない。

元祖子役上がりの高峰秀子さんはその後今でいうアイドルへ、その当時は少女スターと呼ばれ、そして演技派女優の名をほしいままにする、のであるが。

4歳半で実母を亡くした彼女は、叔母の養女となり、ほどなく子役デビューする。この叔母を彼女はデブと呼んでいるがこのデブ、とんでもない生き物であるのだ。もちろん初めから食い物にするつもりはなかったに違いない。かわいがったのだろう、が、想像を超える巨額のお金を手にするようになると、普通の人間が怪物に変化するらしい。自分ばかりか、親戚を呼び寄せて一同が一人の若い女性に寄生することになるのだ。

普通はつぶれる。精神に破綻をきたしても不思議はない。何より読者の私自身が腹が立つという言葉ではおさまらない思いをしたのが、長兄がたった一枚残った実母の写真を持ってきてくれた時、継母はその写真を跡形もなく破り捨てたというエピソードである。他人の私が殺意を抱く。

ほんとにね、稀有な人だ。
スターである人は大概、複雑な背景をしょっている、そしてそのことこそ演技や歌に深みを与えたりするものだろう。その代わりに、どこかでなにかを深くあきらめたことがあると、見えたりもする、ような気がする(ただ気のせいかもしれない、ごめん)。が。
4歳にして,「わたしがあんたのほんとのカアサンなんだよ」と言われた時に人間不信を植えつけられたと、高峰秀子さん自身のエッセー『にんげんのおへそ』で最近読んだ。その同じ『にんげんのおへそ』の中に、自分のきれい好きと食べ物の好き嫌いが無いことについて、養母に感謝している文章がある。…信じられない。信じられないがしかし、実際、いつでもその住まいも冷蔵庫の中も、大変にきれいなのだそうだ。うう・・・。いや、そういう話ではなくて、この品格というのはなんでしょうか。どんな育ち方をしようと、本人が見事な原石であり、ほとんど学校に行けなかった中でのちに名文家として知られることになるまでの学びを重ね、身の丈に余る欲を持たない、と、こんな風にもなりうる、か。

大女優は結婚して幸せになれないというジンクスも破って松山善三というパートナーと添い遂げようとしている、完璧に表舞台から降りて悠々自適、前半生のすさまじさを思うと恭喜恭喜!

BOOK
comment(3) 2010.07.28 12:43

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