エリザベスの友達

著者 村田喜代子
出版社 新潮社

老人介護施設に入所している人々。
若い頃の記憶が、現在の生活に混入してそのことが何ほどの不思議もない人々。
誰かが 帰る と言うと、次々に、帰る 帰る と言う。

満州開拓団で苦労した女性。天津でイングリッシュネームで呼び合い、豊かな暮らしをしていた人。

垣根の垣根の曲がり角 と言う“たきび”の歌が昭和16年生まれで、歌詞の焚火が敵からの攻撃目標になる、とか、落ち葉は風呂を焚く資源である、なんぞと言われてラジオの放送予定が縮められた、なんて話や、“蛍の光”には昔、3番4番の歌詞があった、と言う話、ロンドン橋落ちた、の歌は実は結構怖い、とか、初耳、へーえ、なことがいろいろと。
みみそらコーラスと言うボランティアが、アリランや軍歌や、古い歌を歌ってくれるのだ。

エリザベス は、満州皇帝溥儀の皇后婉容のイングリッシュネームなのだが、自分の英名だったサラを忘れて、エリザベスと名乗るひと。

みんな、帰る っていうんだよねえ、と介護の日々を思い出す私である。ここではないどこか、帰ってきても又、帰ると言う母は、昭和の実家に帰りたかったのだろうか。その母が大腿骨骨折で入院していた時、よく見かけるとても知的な認知症女性がいたことも思い出す。認知症であることと知的であることは両立するんだよ、不思議と。

もう誰も私を名前で呼ばぬから エリザベスだということにする
という松村由利子さんと言う歌人の短歌が契機となって、書かれた小説だそうだ。

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