土を喰らう十二ヵ月

監督 中江裕司

出演 沢田研二 松たか子

長野の山荘で、愛犬さんしょと共に暮らす作家、ツトム。十三年前に妻は亡くなり、その遺骨はまだ墓に収めないままである。時折、編集者で恋人の真知子が訪ねてくる。山の恵みや畑の作物で作る料理を、真知子と一緒に食べることが格別の喜びである。

雪降り積もる中、茅葺きの家に真知子がやってきて、囲炉裏にあたっている。私の小さい頃、まだ祖父母の家は茅葺きで囲炉裏があった。囲炉裏って、体の前側は暑くなるが背中は寒かった、と思う。そんなんで暖まるか?とか、60代の男と言う設定のツトムがランプの明かりで原稿を書くのか?とか、まああちこち疑問符は湧くが。ともかく、ツトムの作る素朴な食べ物がまことに美味しそうで、午前11時20分からの回を観ている私はお腹が空いてくる。畑で育てた大根や芋、山のキノコや実などで、少年のころ寺に預けられたツトムが身に着けた精進料理の手法で作る。皮がついたままの里芋を囲炉裏の炭火で焼く。皮がおいしいのだと言う。真知子がまたそれをうまそうに食べるのだ。料理は料理研究家の土井善晴さんが手がけたもの。映画のためにスタッフが畑を作って作物を育てたという話だ。

時代設定は昭和だろうけれど、あちこちファンタジーな気配。奈良岡朋子演じる頑固な義母が亡くなったあと、義弟夫婦がお通夜の場所をツトムの家に、と押し付けてくる、遺影のサイズを写真屋にまかせたら、巨大なものができてくる、通夜振る舞いも読経もすべて、ツトムの役割となる、など。お葬式はどうしたんだろうね。

あいよ、という返事と共に通夜客のためのごま豆腐作りやミョウガ入りのおにぎりやいろいろと手伝う真知子。その後、ツトムは自分のための骨壺を焼くことになる。焼きあがった窯に入るツトムに声をかける真知子。窯の中で倒れているツトム。

九死に一生を得たツトム。そして。

私はほとんど雪が降らない地で、畑の真似事をやっているし、そこには父が趣味で焼き物を焼いていた窯がまだ残っている。灯油窯だけど。だから、あの地で、心筋梗塞だったか何かで倒れた男が一人で今まで通りに暮らすのは、どうなのよ、と思うし。真知子さん、ねえ。まあ、いろいろファンタジーと受け止めよう。

今の沢田研二、をイメージして脚本を書いたのかなあ、と思うほどの、はまり役だと思う。ちゃんとじいさんになっているからできる役。

最後に流れるジュリー沢田研二の歌声が艶やかで、泣きそうになる。

帰りに水上勉の原作『土を喰らう日々』新潮文庫を買いました。

 

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