こちらあみ子

著者 今村夏子

ちくま文庫

ヘンな女の子、あみ子のお話。これが、アルバイト先で明日休んでくださいと言われ、突然、小説を書いてみようと思いつき、思いつくままに書き始めた、半年後に出来上がったって…。

そのヘンさが、誰にも似ていない。巻末で穂村弘が書いているように、『長靴下のピッピ』に似ていなくもないが、ピッピにあった怪力などあみ子には無いし。自閉スペクトラム症と言われるような発達障害があるのだろうが。本人は何も困っていないようだし。まあ、家族やクラスメートにとっては困ることが多いのだろうが。良かれと思って行動したことが母の心を傷つけ、一途な思いがのり君には迷惑で、好きじゃと言ったら殴られて前歯を3本失ってしまう。なんだか隣の席にはあみ子に風呂入れ、食べろ、とちゃんと言ってくれる男の子がいるのだが、一途なあみ子にはその子の名前も記憶に残らない。ほかからは奇行に見えることもあみ子にはちゃんと理由がある。

良かれと思ってのことや一途な思いが、人を傷つけ迷惑になることは、格別障碍の無い普通の人々(だと思っている)の中でもいくらも起こる。私たちはそのことによって自らも傷ついてその記憶が残る。が、あみ子にはそんな昔の記憶など無い。いっそすがすがしくも見えてくる。

この文庫に収められている『ピクニック』も『チズさん』も、ちょっと乾いていて切なくて、とても佳い。解説で町田康が書いているように、名作だと私も思う。だからこれが、アルバイトしながらでも短い小説なら二週間ぐらいで書けるのではないかと書き始めた、なんて。なんて。映画化されてる。いつか観たい。

161回芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』も、必ず読もう。

 

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