在りし日の歌

http://www.bitters.co.jp/arishihi/
監督 王小帥
出演 王景春 詠梅

原題は確か『蛍の光』の中国語タイトル『地久天長』だった。友情はいつまでもずっと、と言うような意味の歌詞。元のスコットランド民謡の歌詞に近い。

1980年代中国、改革開放、そして一人っ子政策が推進された時期。地方都市で暮らす夫婦と息子シン。同僚夫婦にも、同じ日に生まれた息子がいる。二人は兄弟のように育つ。
ある日、川遊びの事故で、シンが亡くなる。
その前に、二人目を妊娠していた母は、一人っ子政策に従わせられ堕胎した時に、もう子供を産めない体になっていた。
悲しみを抱えて見知らぬ地に移り住む。
養子を迎え、シンシンと呼んでいたいたが、結局その子は離れていく。

2010年代までの、大きく変化を遂げた中国で生きてきた、二組の家族の思い。

ラストが、良かった。
個人的に、家族ということを思うことの多いこのところの事情があり、ついうるうる。
そこに生きている、と感じさせる演技だった。

象は静かに座っている

監督 胡波
出演 チャン・ユー パン・ユーチャン ワン・ユーウェン

中国の北方の田舎町。
女に、そこよりも2300km先の満州里に、一日ずっと座ったままでいる象がいる、と言う話をする男。その部屋に、女の夫が戻って来る。鉢合わせの男二人は、友人だった。お前だったのか。飛び降りて死ぬ夫。

高校。友達をかばったはずみで、相手が階段を転げ落ちてしまう。そのまま町に飛び出す少年。
その同級生の少女は、仕事に明け暮れ家の事をしない母親との暮らしにいらだっている。

子どもの教育のために良い環境を求めた娘夫婦。狭い部屋なので老人ホームに入ることを求められている父親。

行き場の無いそれぞれの人間が、座ったままの象のイメージになぜか惹かれ、満州里に惹かれる。その人生が交差する。

中国人その状況でようしゃべるなあ、とちょっとあきれるよ。その、が、どの、だかは観ないとわからないが、何と言ってもこれは4時間近い作品で。ちょっとイラっとしたりもするし、もしも居間のテレビ画面で観ていたらはいもう退出、となることがほぼ確実な気が。映画館で、お願いだから少しだけでも希望の光の見えるラストにしてくれ、と祈ってたもの。

ですが、そうは言っても、この作品は私にとって今年のベスト1候補です。
長編映画としては第一昨だったこの映画一本を遺して、若くして死んでしまった監督。なんと惜しい才能か。

エドワード・ヤン監督の『クーリンチエ少年殺人事件』を思い起こすのは皆さん共通のようで、あと、私はジア・ジャンクー監督の『プラットホーム』を、ふと思ったが、ストーリーも思い出せないので当てにならない。

セブンシスターズ 「蘭の館」「影の歌姫」

著者 ルシンダ・ライリー
創元推理文庫

アイルランド生まれでイングランドで女優として活躍していた著者なのだそうだ。

血のつながらない6人姉妹、世界のあちこちから彼女たちを連れてきて、不自由ない生活を与えた養父が突然亡くなった。湖のほとりの館に集まる娘たち。プレアデス星団にちなむ名前を付けられた彼女たちに、天球儀に刻まれたそれぞれの名前と、座標が残された。それが出生地につながるものらしい。
長女マイアの座標は、リオ・デ・・ジャネイロにある蘭の館を示していた。
曾祖母の悲恋の物語、現代の進行形の物語、時代がくるくる代わるので初めは戸惑う。が、一気読みさせる物語。そういうのをページターナーと言うのか。

『蘭の館』上下巻を読み終わって、あれえ?養父の事とかなんにも情報が無いままだし、なにこの中途半端感!怒るぞ、と思ったらこの話は姉妹分ずっと続くのだった。
『影の歌姫』次女アリ―の物語。フルート奏者としての才能に恵まれながらヨット選手になったアリー。大切な人を続けて亡くすことになる彼女の舞台は、ノルウェー。音楽家のルーツが明かされていく。これも上下巻。

さて?まだまだ養父パ・ソルトについては何もわからないまま。本当に死んだの?と言うぐらいに何も明かされず。
そして、翻訳はここまでしかでていませーん。6人姉妹ですが、セブンシスターズ、なので7人目はどうなっているのか?
80年~90年代には欧米の贅沢な生活の出てくる「小説あったなあ、画家と女優の間に生まれてデザイナーになる女性、あの小説は何だったかなあ…。
とにかく、早く続きを出版してくださいませ。世界的ベストセラーだそうです。

忘れられた花園

著者 ケイト・モートン
創元推理文庫

ロンドン 1913年、幼い少女は、お話のおばさまの言いつけを守って待っていた。小さなトランクと共に。

なぜか置き去られてしまった女の子。
1930年の、2005年の、1976年のブリスべン、4年メアリーバラ、13年、2005年インド洋、など時代や場所を行ったり来たりしながら、ストーリーが展開する。
置き去られた子は、オーストラリア人夫婦に引き取られ、ネルと名付けられてすくすく育ち、21歳になった時に、育ての父によって実の子ではないことを知らされる。

時が経ち、年老いたネルを看取った孫娘カサンドラは、ネルが自分にイギリスのコーンウォールにあるコテージを遺したことを知る。

ゴシック風味ありつつさほどでもなく。タイトルですぐ連想される『秘密の花園』の作家バーネット女史の名前が、パーティ出席者として出てきたり。『秘密の花園』の登場者をちゃんと記憶していたら、もっと楽しめるらしいのだが、うーん、まあ読み返してみたい。

後書きに書いてあることだが、ちょっと突っ込みどころもチラホラ。
COVID-19で世の空気が重たい時期にはこんな小説は楽しめました。ネルが知った真実とカサンドラが知った真実はやっぱり違ったかな。

サイゴン・クチュール

http://saigoncouture.com/
監督 グエン・ケイ チャン・ビュー・ロック
出演 ニン・ズーン・ランゴック ホン・ヴァン ジェム・ミー オアン・キエウ S.T ゴ・タイン・バン

1969年ベトナム、9代続くアオザイ仕立業の娘ニュイは、アオザイは古臭いと思っている。60年代ファッションにしか関心が無い。母娘の対立。
ある日、ニュイは2017年にタイムスリップし、ぶつかったのは、中年になり自殺を試みようとしていた自分自身だった。

お話は他愛ないっちゃが他愛ない。のですが、ツイギーとかそういう時代よねえ、という、わたくしなどには懐かしいファッションから、麗しのアオザイのいろいろが、まあ眼福眼福。
どことなく『アメリ』を思い起こさせる気がしたのだけど、ストーリーとしては関係ありませぬ。

1969年だけどベトナム戦争の無い架空のサイゴン、タイムスリップ物では自分自身に出会っちゃいけないのが普通だと思うがばっちり若い自分と年がいった自分が、それをわかっていて会話している、など突っ込みどころはございます。ございましても気にならない、チャイナドレスやアオザイがお好きな方、ファッション雑誌が好きな方、お試しください。

コロナ禍で映画館を自粛していたのだけれど、今のところわが県では発生数少なく、観に行ってしまった。重たい空気の日々に観るには可愛くてね。アオヤイ と、ベトナム語では発音していた。アオのところを高く。

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

著者 ブレイディみかこ
出版社 新潮社

読み始めて、へっへっへ と我が身の笑い声、にんげんほんとにへっへっへなんて笑うもんだなあ と思いながら読み続けると、へっへっへ へっへっへ とまた笑っている私なのだった。

英国で暮らしているブレイディみかこさんと言う母親と、英国人の父親(ロンドンの金融街の銀行をリストラされたら、子どもの頃にやりたかった仕事だからと大型ダンプの運転手になった)との間に生まれた息子の、中学校生活の日常を描いたもの。
小学校はカトリックの公立で、お行儀の良い子たちと過ごしたこの子が、元、ではあるが「元底辺中学校」に入学し。入学前に親子で学校見学に行くと、音楽室へと進む壁にシャドウズ、アニマルズ、ザ・フー、ビートルズ、ストーンズ、ピンクフロイド、デヴィッド・ボウイ、ツェッペリン、それからセックス・ピストルズ!などのアルバムジャケットが並んでいた。レコーディングスタジオもあった。
なんて、私だってそんな学校があったら行きたい・・・と、いうのはちょっと待て、な、問題は何かとあるが、ともかく、息子はそこの学校に行きたいと言ったのだ。]

へっへっへという声が湧いてきていたのは入り口からしばらくのあたりまでで、レイシズム、貧富の差、などの問題が次々に出てくるし、日本ではまず見られない教育など、ふーむ、である。たとえばシティズンシップ教育。『エンパシーとは何か』シンパシーではなく、エンパシー。その問いに対し、息子が書いた答えが「自分で誰かの靴を履いてみること」だった。日本語では共感・感情移入・自己移入などと訳される言葉。
『タンタンタンゴはパパふたり』と言う絵本があるそうだ。動物園で恋に落ちた二羽の雄ペンギンが・・・つまりLGBT問題なのだがそのペンギンの話は実話に基づくものだって。そういうのを、日本の幼稚園で子どもに読ませるって考えられる?
なんだか、コロナウィルス問題でこのところ欧米ではアジア人差別が顕在化している話をよく見聞きしたが、あっという間にこのウィルスが世界に広がってしまい、差別もへったくれも無くなったかもしれない。まあ、さまざま差別する人はどこにでも湧く。日本ではネトウヨと呼ばれるお馬鹿ピープルが中韓に対して排他発言を繰り返している。差別語を投げられる側になった時の対応。

元々、「波」と言う雑誌を叔母が購読していて、叔母が読み終わった数冊を譲り受けてきた中に、この連載があったので、単行本になったら読みたいと思っていた。日本しか知らない日本人は読んでみてほしいような本です。子供や孫がいる人にはとくにお勧め。

第三夫人と髪飾り

http://crest-inter.co.jp/daisanfujin/
監督 アッシュ・メイフェア
出演 グエン・フォン・チャー・ミー トラン・ヌー・イエン・ケー マイ・トゥー・フオン(Maya) グエン・ニュー・クイン

“女の一生”ではなくて“女の三生・四生”とか“女たちの生・性”の、お話。
19世紀北ベトナム、大地主の家に、第三夫人として嫁ぐ14歳の娘。
第二夫人は男子を生んでいないので、奥様とは呼ばれない。
まだ子どものような第三夫人メイに、第一夫人も第二夫人もやさしく指導してくれる存在である。性についても。

大奥のような女の闘いはひそかなところに隠れていて、夫人たちは協力し合いながら生活している。そうせざるを得ないほどに女の仕事は多い。

メイの視点から描かれる物語。恋愛している使用人同士の性交シーンを目撃する。女は妊娠し、髪を剃られて寺に入り、相手の男は叩かれて追放される。

美しい第二夫人には知られるわけにいかない秘密がある。

美しい渓谷、水辺の風景の中で、水浴びする女たち。

女性の監督、そしてトラン・アン・ユン監督が美術監修。
この人知ってる、と思う年配の女優さんとか、なんだか見覚えがあると思う俳優さんが出ていたのだが、なんと、第一夫人がそのトラン・アン・ユン監督『青いパパイヤの香り』などでおなじみのトラン・ヌー・イエン・ケーであることに気づかずに観ていた。
日本でも沖縄とか奄美とか南のほうでは働き者の女たちと怠け者の男たち、と言うことが多い気がする。
あの息子、何か仕事してたのか?

とにかく、とても美しい、なかなかにエロティックなシーンもある、でも現代の女性の監督が描くとこうなる(どうなる?)作品。その官能描写により、東南アジアでは問題視されたというが、世界の各映画祭では賞を取っているとのこと。髪飾り?何か象徴的なものあったっけ?

国家が破産する日

http://kokka-hasan.com/
監督 チェ・グクヒ
出演 キム・ヘス ユ・アイン ホ・ジュノ チョ・ウジン ヴァン・サン・カッセル

経済成長が続いていた1997年韓国、韓国銀行の通貨政策チーム長ハン(キム・ヘス)は通貨危機を予測する。が、政府の対応は遅れる。
女性であるチーム長に対し、差別的対応をする財政局次官だが、ひそかに対策チームを作り、国家危機に乗じて自分たちの利益をもくろむ。
また、金融コンサルタントの男は大勝負に打って出る。

金融危機の中、自殺した中小企業経営者がたくさんいたという。危機の時こそ稼ぎ時、と大儲けした、目端が利くもしくはずる賢い人間たちもいたことを描く。

IMF経済危機、と言う言葉の記憶はあるが、そもそも国家が破綻するとは?と、経済問題にうとい私などなかなかわかりにくかったのではあるけれど。

2020年2月半ばの現在、コロナウィルス対策が遅れて、日本でも死者がでている。海外から、客船に閉じ込めた対策に批判が出て、やっと動き始めようかという状況。中国だからああなった、日本では大丈夫、ぐらいに思っていなかった?その当時の韓国も、タイではすでに起こっていたことだけれど、韓国は右上がりの成長を続けている、と言う認識だっただろう。

韓国映画を見るたびに、日本と違って政府批判的な骨太の姿勢をそこに見る。
いずれ後の世になって、世紀の馬鹿首相がいて、漢字が読めない、国会で自らヤジを飛ばして無駄に遅れさせる、国民の税金を個人で使う、などして国の評価を落としていった、と日本映画が作られるだろうか。

夢みる帝国図書館

著者 中島京子
出版社 文藝春秋

年初めに読んで、今年の私のベスト3入りほぼ確実。

物語の初めではまだライターの仕事をしている小説家希望、でしかない若い女性“わたし”と、若くない頭陀袋のようなスカートをはいている喜和子さんが出会う。上野の国際子ども図書館に行った帰りに。
図書館が主人公の話書いてよ、と言う喜和子さん。

喜和子さんと私の話と、作中作“夢見る帝国図書館”の部分が交互に出てくる。まずは明治政府要人たちが、西洋にはビブリオテーキなるものがあると知る、それを日本にも作ろう、となる話が夢見る帝国図書館編1。4の初めにに出てくる『今まではさまざまの事してみたが 死んでみるのは之が初めて』淡島椿岳・最後に出てくる椿岳の息子というじせ寒月の『針の山の景しきも観たし極楽の 蓮のうへにも乗りたくもあり』という辞世の歌、よろしゅうございましょう?

東京大学と言うものの初めに当たり、医学部とか理学部とかそういう学部が重用され、文学哲学が軽んじられた事とか、今、同じこと言ってるよね。あちこちに、今の政治の問題に通じるエピソードが出てくるんだなあ。

宮崎生まれ宮崎育ちだと言うのに、戦後の上野で小さい頃を過ごしたらしい、一緒にいたお兄さんが、図書館の物語を書いていたらしい喜和子さん。
段々と、喜和子さんの人生が明らかになって。

樋口一葉をちゃんと読んだことあったかなあ。読んでみよう。

パラサイト 半地下の家族


http://www.parasite-mv.jp/
監督 ポン・ジュノ
出演 ソン・ガンホ チャ・ヘジン チェ・ウシク パク・ソダム

半地下と言う場所に住むことが韓国にはあるようだ。当然湿気が高いし不衛生、電波も弱い。それでもそこに住むには経済的な問題があるからだ。
その住人が、ある日、友人が留学する間、家庭教師の代理を頼まれる。実は大学を落ち続けていることをごまかして。
とんでもない豪邸。
一人、一人と、知り合いを紹介する、と言う形で、家族がその家の使用人として採用され、“パラサイト”していく。

韓国ドラマでよく見る顔が出てくる、しょーもないドラマの顔と、全然違う、うまい!のですよ。
まあそもそもそこまで詐欺師の能力に満ちた家族が存在するの訳もないだろうけど、うまーく化けるのですよ。

コメディーでミステリーでホラーな展開。
とんでもない、ひとさまにお薦めしにくい韓国映画を、かなり見てきているのだけれど。
いやあ、観続けるに苦労しました。が、帰り道、なんかしみじみしているのでありました。

カンヌのパルムドール受賞作品。