阪急電車

阪急電車著者 有川浩
幻冬舎文庫

阪急宝塚駅から西宮北口駅へ、そして折り返して西宮北口駅から宝塚駅へ、その、各駅ごとに起こるエピソード・そこにかかわる人物たちが、クロスしていく、それぞれの短編が、つながって長編に編まれる作り。

宝塚南駅のお話が、『阪急電車』という映画になっていたね、中谷美紀主演で、真っ白なウエディングドレスで電車に乗っている、という、宣伝の部分だけしか私は見ていないけど。

友人から回ってきたこの小説は、ほとんどどなた様にもお薦めできると思う。読みやすいし、ちょっと痛かったり切なかったり羨ましかったり、ああこんな人いるよなあと思ったりしながら、でもねえこんなにはいかないだろうけどこんな風に行くといいねえ、と、ちょっとうるっとする。

阪急今津線という電車を知っていたらもっと楽しめるだろうな。「くだらない男ね」と切り捨てるおばあちゃんに会っていたかった、若いころに。

 

海角7号 君想う、国境の南

海角7号http://www.kaikaku7.jp/
監督 魏徳聖
出演 范逸臣 田中千絵 中孝介

台北でミュージシャンになるという夢破れて、台湾の最南端の恒春に戻ってきた青年。郵便配達の仕事に就くが、郵便物の中に、今では存在しない住所宛ての小包を見つける。開けてしまう青年、阿嘉。中身は、1945年12月、台湾から敗戦国日本に戻る船の中で、台湾に残った恋人に充てて書かれた手紙だった。

ある日、日本の歌手、中孝介のコンサートの前座バンドのメンバーとして選ばれる。子どもから爺さんまでいる寄せ集めバンドである。

モデルとして活動するはずだった日本人、友子は、モデルたちの世話役をやらされた挙句、中孝介や前座バンドの通訳・監督を命じられる。思うようにならない状況に爆発寸前である。

都会でうまくいかなくて田舎に戻ってきた男、外国で夢を見て破れかけている女、それを取り巻くいかにも田舎の大人たち。の、中に、文箱に入った数通のラブレター、60年前の。

ちょっと勘違いしていて、日本人名宛てだから、なぜその娘は台湾に残ったのかな?なんて思ってしまったが、1945年8月まで日本の統治下にあった台湾人は、日本名を名乗らされたのだなあ。失礼失礼!
その日本人役・田中千絵さんは、以前よくTVでも見かけたものだったメイクアップアーティストのトニー田中さんの娘。日本人の反応じゃないよな、と言う感じの役柄なんだけどね、まことに直截的な言葉、反応、そりゃあ台湾人だよと思うけど。
主役の范逸臣は、韓国映画『猟奇的な彼女』の主題歌“I Bilieve”の中国語カバーを歌った歌手。その後はあまり売れていなかったらしいバラードの歌手だったけれどこの映画ではロックバンドのギタリスト兼ボーカル、さてどんな結末が待っている?

2008年、台湾で大ヒットした作品。最後の最後、月琴をベースに持ち替えようとしていた自称国宝のじいさんが、素敵な演奏をしますよ。
上映後に参加した、台湾人の青年を囲んでの会で聞いたのだけど、台湾南方の方言は、北方の人には聞き取れないことの結構あるらしいし、方言でちょっとした下ネタ・くすぐりの類が入っていてそれが台湾公開時には笑いを誘ったんだって。

恐怖分子

 

恐怖分子監督 エドワード・ヤン楊徳昌

出演 コラ・ミャオ リー・リーチュン ワン・アン

カメラを構えて街の様子を撮っている青年が事件現場に遭遇、その場から逃げようとする少女を撮影する。
帰宅した少女は、母親と言い争い、気まぐれにいたずら電話のダイヤルを回す。たまたま電話を受けた、小説家でもある人妻。医者の夫は、その妻のために昇進をもくろむ。

いくつかの無関係な物事、小さな事件、が、たまたまつながってしまい…と、いうことが、映画が進んでいってもなかなかわかりにくい。以前、ビデオで見たことがあり、友人は面白くなかったと言っていたけれど、そんなことは無かったぞ、という記憶があった。

壁一面、たくさんの紙を使って大きく引き伸ばされた美少女の顔の写真。風に揺れる。

後半、夢?というシーンと現実のシーンが、交錯し、カタストロフィへ。

観終わった私の頭の中で、ふはあ、参った参った、と言葉が舞っていた。

途中、映画館の上映中のポスターの中に、薬師丸ひろ子・真田広之の『里見八犬伝』があった。そういう時代の作品なので、ソバージュや肩パットや、デビュー当時の少年隊みたいな髪の男の子や。そして、ビデオで観た時に気付かなかったこと、途中で聞こえた歌もそうだったのではないかな、最後に、当時、楊徳昌監督の奥さんだった蔡琴の歌声が流れた。

侯孝賢監督と共に台湾ニューウエーブを代表する監督だった楊徳昌監督は、2007年に59歳で亡くなった。惜しいことだ。

スクラップ・アンド・ビルド

スクラップアンドビルド著者 羽田圭介

出版社 文芸春秋

読み進みながら、芥川賞だよね、直木賞じゃないよね?と、帯を確かめてしまった。要介護の祖父と、前職を数か月でやめて求職活動中の孫。「早う迎えにきてほしか」が口癖の87歳の祖父に対し、ある日、それは言葉通り心底からの願いなのではないかと気づき、それに協力する方法は無いかと模索する孫・健斗。

母の、弱弱しく人を頼ろうとする祖父に対する態度は厳しい。
後期高齢者の介護生活に焦点を絞った場合、おそらく嫁姑間より、実の親子のほうがよほど険悪な仲になるのではないか
うん、病院の受付の人もそう言っていたな。お嫁さんは遠慮がちだけど、実の娘はビシバシ言うって。

弱ってはいてもそれなりになかなかしたたかな爺さん。

孫は孫で、絶不調の状態ではあるが再就職に向けて行政書士の勉強、筋トレに励みつつ、ガールフレンドとデートしたりして。

芥川賞受賞後、もう一人の又吉は元々お笑いの人だからTVに出るのは当たり前、騒がれて当たり前だが、羽田氏もなんだかヒョロンとした(いや、顔はそこそこ悪くないよ)妙なキャラクターでよくバラエティに出ている。全然作家然としていない。っどうしてもその雰囲気と主人公を重ねてしまう。おいおい、そんなに本気で鵜呑みにしてたのかよ、と、あの悪くは無いけどどこかぼーっとしたような顔の作家に向けてツッコミたい。いやいや、フィクションだから。別人だから(と自分にツッコむ)。

芥川賞直木賞の作品を、単行本の時点で読むことはあまり無い。今回はこれで三作品すべて読んだ。三作ともとても面白かった。本作に関しては、あ、介護を巡る話か、それは読んでみたい、と思ったので。私自身はもう両親の介護は終わり、おせっかいにも伯母の様子を時々見に行く生活だが、身近に正に今、介護問題に直面している友人がいる。この本のお母さんとおじいさんの関係のように、なかなかきつく当たっている親族を、気にしている。で、読み終わった今、彼女に貸すことになりました。笑える芥川賞小説。

 

 

白河夜船

白河夜船監督 若木信吾

出演 安藤サクラ 井浦新

原作よしもとばなな。昔、一度目に読んだ時よりも、数年後に二度目に読んで好きだった記憶がある。
安藤サクラの主人公が、だらしないぐうたら女に見えてしまって、しばらく違和感を覚える。よく眠る女。どうやって生活しているのか、とにかくよく眠る。

しおり という友人との過去のエピソードと、現在が、交互に現れる。

井浦新演じる岩永さんと言う男との裸のラブシーン、そう濃厚なことは何もなく、普通の行為である景色に、かえってリアリティを感じる。

次第に明かされる。不倫であること、変わった仕事をしていた友人が自殺したこと。岩永さんの妻は植物状態であること。

しばしば部屋でショーツ一枚の姿である小さな胸の安藤サクラ、あ、その背中、絵になる、と何度か思った。それは、監督が写真家であるからなのだろうか、そのままトリミングしたいシーンがいくつか。

“岩永さん”が、電話で「よく寝る人だねえ」だったかそんなことを言う。ばか、自分のことだけ悩んでんじゃないよ、この娘鬱をこじらせてるじゃない!と、どうやら自分が電話したときはいつも出て欲しいらしい、そのために、彼女がいつも部屋にいて眠っていることがむしろ好都合であるらしい、優しいけれど相手をちゃんと見ていないよくありそうな男!(よく、は、いないか?)にいらついた。

そのあと、公園のシーンで、ちょっとうるっとすることになりました。
安藤サクラがこの役にあっているのか?は、やはり疑問です。が、ばななさんの世界によくある、深い喪失からの復活の兆し、ちょっとした異世界感、が、嫌いでないのと、井浦新が嫌いでないのでね。私にはいい映画でした。

タイタニックを引き揚げろ

タイタニックを引き揚げろ著者 クライブ・カッスラー

新潮文庫

友人が貸してくれたこの本は、なにしろ昭和61年に印刷された古い文庫なので、活字が小さい。それが500ページ以上というまあまあの厚さ。「レイズ・ザ・タイタニック」という映画があったなあ、という記憶はあるが、さてTVかなんかで見たか?全く覚えが無く。

沈んでしまったタイタニックには、実はビザニウムという多大なエネルギーを生み出す鉱物が積んであった、という。それを手に入れるために、タイタニックを引き揚げようというのだ。そこに、その時代だからソ連とアメリカの対立、国家の目論見、スパイが暗躍し、その中に夫婦の問題もアクセントとして取り込み。

ダーク・ピットという名のスーパースターが活躍して、引き揚げようという途中にはハリケーンまでも襲来し。

ビザニウムって放射性物質なんだろー、そんな扱いで平気なのかー、とか、そーんなハリケーンの目の中で作業だって?とか、突然のラブシーンサービスとか、まあ盛りだくさんの海洋冒険小説。寝る前にちょーっとずつ読んでいたので、人名とか関係性とかあいまいになって(私の寄る年波によるせいですが)、読み進む途中はなかなかしんどい感があったけど、終盤に近づくにつれ、おお、面白いじゃないか。B級活劇。でもまあそんなに簡単に引きあがらないと思うぞー!

なお、映画のほうはかなり駄作だったとか。日本ではそれなりに観客が入ったらしいけれど。ダーク・ピットさん物もう一冊借りていて、次はもう少し早く読めるかな。むやみと長くかかって読み終えた夜、あっという間に前記の「神様」を読んだのでしたよ。

神様

神様著者 川上弘美

中公文庫

短編集。くまにさそわれて散歩に出る。と始まる表題作。

あだ名だと思う、と、それは実際に熊である生き物のことなのだ。とても大きくて、三つ隣の305号室に引っ越してきて、引越しそばと葉書十枚を同じ階の住人に配るという配慮の行き届いたくまなのである。

結論から言うと、とても好きな作品。ふわっと異世界を踏んで、ふっと帰ってくるような作品の集まりたち。

第9回(1999年) Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞
第9回(1999年) 紫式部文学賞受賞                      なのだそうだ。この人のものは「センセイの鞄」ぐらいしか読んでいないと思う。もっと早く知りたかったよ。

二十歳よ、もう一度

二十歳よもう一度http://20again-movie.jp/index.php

監督 レスト・チェン

出演 ヤン・ズーシャン グァ・アーレイ チェン・ポーリン ルハン

韓国映画『怪しい彼女』(http://art-container.net/movook/archives/560参照)の台湾版リメイク。

どうにも渡辺美佐子さんそっくりに見える帰亜蕾 グァアーレイさんが、口うるさい姑でもあるおばあちゃん、その若返った姿が楊子姍ヤンズーシャン。歌手でもあるそうで、達者。孫役は、韓国のアイドルユニットの一員だった鹿晗ルハン、なので韓国アイドル顔に作りこんである感。そして、音楽プロデューサー役は陳柏霖 チェンポーリン、あの『藍色夏恋』の少年も、すっかり大人なのねー、と、古くからの中華映画ファンは思いますのさ。

『怪しい彼女』のポスターだと思われるものが、ベンチの後ろに大きくある、とか、青春写真館のショーウインドウに、ん?昭和の皇后さま?だったと思うよ、三日月に腰かけた姿でちらっと。などと、なんだかちょっとしたくすぐりがある、もっとほかにもあったのかもしれない。

ストーリーは、韓国版とほぼ同じ。台湾語の混じらない中国語映画は久しぶり、中国語学習者にお薦めしますよ。原題は“重返20岁”だと思われます。台湾らしいバラードがいろいろ聞けるのが楽しい。

日本では、倍賞美津子サンと多部未華子チャンでリメイクだって。ほとんど同じお話でも、やっぱりお国柄が出るもの、日本版も見たい。倍賞美津子サンと未華子チャンは全然似てないと思うけどね。

やたらアジア映画月間となりし今月でした。

雪の轍

雪の轍監督 ヌリ・ビルゲ・ジェイラン

出演 ハルク・ビルギネル デメット・アクバア メリサ・ソゼン

カッパドキアが舞台で、カンヌでパルムドール受賞、で、それは見てみようと思ったのだが、久しぶりに、私が見なくてもいい映画に当たってしまいましたよ。

名優ですよ。トルコの映画を見たのも多分初めてだと思うけど、シェイクスピア劇が似合いそう。で、カッパドキアでホテルを経営している、まさしく元舞台俳優、という役。悠々自適。

が、若い妻とも、同居する妹との関係も、うまくいっていない。・・・これが、語る語る。日本人だったら喧嘩売られたと思うほどズバズバ批判する、自己主張する。つい笑ってしまう。

家を貸している一家が家賃を払わない。恨みを買う。

もうねえ、だんだんもういいようるさいよいいかげんにディベートやめて離れようよ…と思ってしまうのだね、日本人としては。

ほぼ会話だけで進んで行く。

カッパドキアの岩窟の中のホテルには、泊まってみたいものだと思います。実際、日本人カップルが泊まっている設定。

箱入りの世界文学全集に今も手を伸ばす人には面白いかも。

シフト 恋より強いミカタ

シフト監督 シージ・レデスマ

出演 イェン・コンスタンティーノ フェリックス・ローコー

ウォン・カーウァイの『恋する惑星』になんか全然似てないじゃないか、眠たいよ、と、7割がたのところまでは思っていた。主人公の女の子がギターの弾き語りで歌う歌はなかなかいい。女の子のピンクの髪もきれい。

で、最後のシーンで、腑に落ちた、というか、うん、面白い、と思った。面白かった、ではなく。新人女性監督の作品だということも、なるほど。

英語圏向けの、商品のコールセンターに勤めるフィリピンの女の子エステラ。先輩の面倒見のいい男性が教育係としてつく。仲良く仕事をしていくうちに、だんだんとエステラの気持ちが恋になっていくけれど、彼はゲイだ。

なんだかなあ、ゲイ率の高い職場に見えたけどなあ、タイじゃあるまいし、そんなことあるのかなあ、フィリピンで。・・・ほー、監督のインタビューで、コールセンターは国際的な多様性を求めていて、ゲイ・レズビアンに寛容なのだそうだ。ただ、バイセクシュアルに対してはまだ偏見があるのだそうだ。

その職場でリストラにあったエステラが、やはり同じような職場の面接を受けている最後のシーン、その、最後の最後、質問される。「では、5年後、どうなっていたいですか?」

カメラマン?シンガーソングライター?何を目指しているのか今一つはっきりしていなかったんだよねえ、テーマってそれだったのねえ。

歌がとてもいいと思ったのもそのはずで、フィリピンでは有名なシンガーソングライターなんだって、彼女。

鹿児島にもフィリピン人たくさんいるのね、映画は英語交じりのタガログ語だったけど、小さなガーデンズシネマの外で待つ間、タガログ語交じりの日本語の会話の陽気な人たちがいました。