星空

監督 トム・リン(林書宇)
出演 シュー・チャオ(徐嬌)リン・フイミン(林暉閔)レネ・リウ(劉若英)ハー   レム・ユー(庾澄慶)ケネス・ツァン(曾江)シー・チンハン(石錦航)グイ・ルンメイ(桂綸鎂)

ジミー(幾米)の絵本が原作の映画にハズレは無い!と楽しみにしていた。観始めて、あれ?ちょっとこの状況は子どもにはつらいな、幾米っぽくない…と感じたけれど。
劉若英がマダムだ―!と、つい思ってしまった、そりゃそうだ、キロロの「長い間」や「未来へ」のカバー曲を歌っていたのはいつのことだか。母親役の彼女は、フランス語で電話している美術商で、夫との関係がうまく行っていない。名画のジグソーパズルがいくつも飾ってある家。

娘のクラスに、スケッチブックを抱えた男の子が転校してくる。

おじいちゃんが亡くなった。そのおじいちゃんが住んでいたところへ、星空を見るために旅に出る二人。

絵本の中の動物が実写の中に入って来たり、あ、銀河鉄道の夜だ、というシーンがあったり。絵本と実写のコラボ部分が多い。二人の子どもは、柔らかい心には厳しい現実を乗り越えていかなければならない。そこに寄り添う映像。

やっぱり大好きな映画でした。
父親役の人、誰だっけ?とずっと思っていた、最後の字幕に庾澄慶と出て。台湾版「花より団子」の主題歌を歌っていた人。学校の先生役で『五月天』の石頭こと石錦航がちょっと出ていて、映画終わりの音楽、ああ、五月天の歌声。おじいちゃん役曾江さんがまだこのとき生きてた、懐かしい、とか、桂綸鎂が大人になった役で出てきた!とか、中華圏の歌や映画をよく見ている人のほうがいろいろ別の意味で楽しめるけれど、きっと、この映画を好きだと思う人は多いはず。幾米原作の映画はほかに金城武主演「ターンレフトターンライト君のいる場所」とか、「恋の風景」など。この2作は絵本も持っているのだが、本作の絵本も,見つけたら買いそうだ。

同じ監督の「百日告別」もとても好きな作品だった。
女の子は周星馳(チャウ・シンチ―)監督の『ミラクル7号(原題:長江七号)』で男の子役をやった子だそうだ。

日本での版権の所在が分からなくなっていたので、上映までに5年かかったんだって。上映にこぎつけてくれてよかった。とても聞き取りやすい中国語なので、中国語学習者の方、お薦めですよ。

52㎐のラヴソング

監督 魏徳聖(ウェイ・ダーション)
出演 林忠諭 莊鵑瑛 舒米恩 陳米非 林慶台 趙詠華 李千娜 張榕容

「海角七号 君想う、国境の南」「セデック・バレ』『KANO~1931海の向こうの甲子園』の魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督が、それらとは全く異質なミュージカル映画を撮ったもの。
「ラ・ラ・ランド」と「アメリ」がぶつかったようなオープニング。バレンタインデーの台北。
バレンタインデーに女性から男性にチョコレートを贈る習慣は、日本のチョコレートメーカーが始めたものだから、基本的に日本の習慣。中華圏では薔薇の花束99本とか999本とか男性から女性へ、が主流、まあ中華圏や韓国では日本の影響でチョコレートも増えてるとか。

花屋の店主、小心は今日は忙しい。けれど自分には一緒に過ごす相手がいないのだけど。パン職人、小安は、チョコレート菓子づくりに励んでいるが、それは自分が片思いしている女性蕾蕾からそのボーイフレンド大河に送られる物。

蕾蕾は合同結婚式のイベントの準備中、その華やかな中にあって、10年このかた進展しない作曲家の恋人大河との関係を思い悩んでしまう。

台湾ドラマの何かで見た顔、誰だかわからないけど見たことのある顔、聞き覚えのある声、など、出てくる。女性同士のカップルは、それぞれドラマで見た顔と映画で見た顔の人。パン屋の親方、どこで見たかさっぱり思い出せない。後で資料を見てびっくり、セデック・パレのあの!

台湾ドラマや魏徳聖映画をいろいろ観ている人のほうが楽しめるだろうけど、まあねえ、これ、情人節バレンタインデーの季節に観たかったな。

52hzっていうのは、おそらく世界に一頭だけ存在するという、その周波数で鳴くクジラがいて、世界で最も孤独な鯨と呼ばれている、のだそうで、それから来ているタイトル。

長いお別れ

著者 中島京子
文春文庫

フィリップ・マーロウ「ロング・グッドバイ」じゃなくて、アメリカで認知症がゆっくりと進んで行く様子をlong goodbyeと言うのだそうだ。
認知症を描いた小説やドラマはいろいろあるけれど、しばしば、それは違う、と思う。、わかってない、と思う。が、この小説には、そうそう、と共感しながら、時に笑い出しながら読み進んだ。ゆっくり、ゆっくりと進んでいて、ある時、急に何を言っているかわからなくなる。会話が成り立たなくなる。そうだったよ。

かつて教師で校長や図書館長をつとめた東昇平は、しばらく前から認知症になっている。同窓会にたどり着けなかった日から、これは、と、物忘れ外来に連れて行かれ、アルツハイマーと診断された。

妻と二人暮らし、娘3人の中にはサンフランシスコで夫や子供たちと暮らしている者もいる。それぞれ父や母のことをちゃんと気にかけている。

私は母を在宅介護していたが、入れ歯行方不明、排泄の問題、よく似たことが起こっていたのだった。夜に洗濯機を回したよ、私も。

今現在介護中の人は、なかなか読書の時間さえ作れない状況だろうけれど、ちょっと暇を見つけられたら、読んでみてください。共感できるし、安心できると思う。帰りたがるよね、どこかに。家にいるのに帰ると言うよね。ここではないどこかに帰りたがるのはなぜなんだろうね。みんな、そうみたいだよ。

髪結い伊佐治捕物余話

著者 宇江佐真理
文春文庫

第一作「幻の声」に始まり、シリーズ23作が刊行されている。
伊佐治は髪結いだが、町方同心の下、情報収集などの役目を負っている。深川の芸者文吉と恋仲である。

これ、私の弟が最近はまっている、と言うので読んでみたのだ。で、落ちた…すぐ3作目まで読みましたぜ。あやうく文庫になってるものは全部、となりそうだったので、そこでひとまず休止することにした、という勢いで。

江戸弁の物語を北海道出身の女性が書いているんだねえ。これがデビュー作。デビュー作でこのクオリティ。作家さんて凄いね。
「余話」と付いている。捕物と言うより、登場人物の背景、人となりがすっくと立ってくる描き方。

1999年に、当時の中村橋之助主演でTVドラマになっているそうだ。BSのどこかでやってくれないかな。

えーと、これも余話ですが、“処女作という言葉があるが、男性が書いても童貞作とは言わないのはなぜか”なることを平野啓一郎さんが呟いていて、まあ処女作という言語は翻訳語でかな、ほんと、平野啓一郎サマご指摘の通り、処女作、ってふと気づくと気持ち悪い言葉だね。

そして、その後、私は「幻の声」「紫紺のつばめ」「さらば深川」に続いて「さんだらぼっち」「黒く塗れ」と読み進みましたぜ。未読の6作目は「君を乗せる船」ですぜ、タイトルよろしいでしょう!

草原に黄色い花を見つける

http://yellow-flowers.jp/
監督 ヴィクター・ヴ―
出演 ティン・ヴィン チョン・カン タイン・ミー

1980年代のベトナム農村部、貧しい生活。
小学生の兄弟と、近所の女の子。兄はその女の子が気になっている。

女の子たちのゴム跳び、男の子たちがビー玉遊び、今では全く見かけないが、昭和30年代には日本のどこの路地でも見かけたものとよく似た遊びをしている。のどかな様子が続いて途中眠気に襲われてしまったよ。

女の子ムーンの家で火事が起こり、ムーンは兄弟の家で一緒に暮らすことになる。

弟はヒキガエルをペットにしていて、カエルの王様とお姫様のお話も好きだ。そのヒキガエル、途中でおじいさんに食料にされてしまうのだけどね。

貧しく、食べるものにも事欠く生活、子どもだって海辺や畑で食べられるものを探す。小さな嫉妬、誤解により、兄は弟を傷つけてしまう。弟のダメージは大きく、寝たきりになる。良い子なんだ、この弟が。

展開はその後、ファンタジーの気配を帯びてくる。

兄役の子はきれいな顔立ち、女の子はまことに愛らしい。そして、最後に出てくるアニメがとても良い。あの感じのアニメーション作品があったら観るよ。

アメリカ生まれの監督が、原作を再構築した作品だという。翻訳は出ていないかなあ。かつては漢字を使っていた国ベトナム、中国語と似た発音の言葉は?お姫様のことを中国語では公主と書いてコンチューのような発音をする。韓国語でもそんな感じ。そしてこの映画でも、それに近い発音だった。

 

十年

http://www.tenyears-movie.com/
第1話『エキストラ』監督:クォック・ジョン(郭臻)
第2話『冬のセミ』監督:ウォン・フェイパン(黄飛鵬)
第3話『方言』監督:ジェヴォンズ・アウ(歐文傑)
第4話『焼身自殺者』監督:キウィ・チョウ(周冠威)
第5話『地元産の卵』監督:ン・ガーリョン(伍嘉良)

2025年の香港、という、ごく近い未来を舞台にした、短編5編からなる。2015年の香港亞洲電影節/ホンコン・アジアン・フィルム・フェスティバルにおいて、ひっそり上映されたインディペンデント映画だったという。2015年から10年後の香港を、5人の若い監督が描いた。
閉塞感に満ちた作品たち。
1997年にイギリスの植民地期間を終了、中国に返還されてから、いかに中国共産党からの支配に攻め込まれていると、住民が感じているか。
実際、この地味な作品が、香港に於いて大ヒットすることとなり、中国政府はこの作品の上映のみならず、ネットに上げることも禁止したという。

3話「方言」の主人公はタクシー運転手。1997年以前、香港では広東語が話せない大陸人は肩身が狭かったり田舎者扱いされたりした。2025年香港では、普通話(北京語)が話せない運転手は稼ぎが悪い。かつては英語が話せる運転手は稼ぎが良かったのだけれど。子どもの学校でも普通話教育である。4話「焼身自殺者」では雨傘運動と呼ばれた学生たちの民主主義を取り戻そうという動きを思わせる。5話「地元産の卵」には紅衛兵を思い起こさせる小学生たちが、反政府的表現を監視して回るというシーンがある。
この第5話の終わり方に、かすかな希望を感じる。

他人様の国のことじゃない、と、思う。希代の馬鹿総理がいて、どんどん戦争ができる国へと変えようとしていて、言論がどうにも不自由な気配が見えて、ネトウヨと呼ばれる頭の悪い若者たちもしくはおじさんが金でやとわれておかしなツイートを繰り返しているこの頃、うっかりするとぐにゃりとこの映画のような事態になる、可能性はいつでもある。

希望のかなた

http://kibou-film.com/
監督 アキ・カウリスマキ
出演 シェルワン・ハジ サカリ・クオスネマン イルッカ・コイヴラ

シリアから妹と共に国外へ出たけれども途中で妹とはぐれてしまい、たまたまフィンランドにたどり着いた男カーリド。難民申請をするけれども、結局受け入れられない。妹に会いたい一心のカーリドは、収容所を抜け出す。

妻とわかれ、死語とも辞め、ポーカーで一儲けしたヴィクストロムは、レストランのオーナーになる。ヴィクストロムの倉庫の前で野宿していたカーリドを、ヴィクストラムはレストランに連れてくる。

いつものカウリスマキ作品と同じく、出てくる人間たちはなぜか無表情で、どこへ行くのかこの映画、という雰囲気。
フィンランドですら、移民を排斥しようという極右の乱暴者たちがいるんだなあ。もっとも、日本にはほとんど移民受け入れ態勢自体が無いのだから、よその国のことは言えない。

レストランの従業員として拾われたカーリドだが、店は繁盛しているとは言い難く、唐突に寿司屋に衣替えするが、そこに出てくる寿司のお姿!握った寿司の上にワサビがてんこ盛り…。早々に元の姿に戻る。あちこちにとぼけた感じが配されているのも毎度。おじさんバンドが良い味。

カウリスマキ作品にはしばしば日本テイストが現れるが、まあこの寿司屋、フィンランドでも林立して流行っているらしいことだけはわかった。そこはかとなく小津安二郎を感じさせるが、実際監督は小津ファンだということだし、日本の何かが好きなのだろう。

そして、うーん、それは…というラストを、どう受け取るか?監督の飼い犬だという犬に寄り添われて、穏やかな顔には見えたけれど。

 

雪の鉄樹

著者 遠田潤子
光文社文庫

この作家の名前も小説も、全く知らなかった。友人が置いていった本の中の一冊。鉄樹とは蘇鉄の別名だそうだ。
解説を北上次郎が書いていて、その書き出しが、凄い小説だ、息の抜けない小説だ。とあった、のでそれはきっと面白いに違いない、と、読み始める。

庭師の仕事。造園業の家の三代目、まだ若いらしいが、きっちりと仕事をしているのが分かる。中学生の遼平とはどういう関係なのか?
庭師の親方である祖父は、70歳になっても女が絶えない、たらしである。父も又、同じく。母親は早くに出て行き、親の愛を感じること無く育った。

いつ何があったということか、物語半ばまで知らされない。

久しぶりにぐいぐいと引っ張られるように一気に読んだ。

この作家の「月桃夜」は奄美を描いたものだそうだ。続けて読んでみたい。

バーフバリ 王の凱旋

http://baahubali-movie.com/
監督 S.S.ラージャマウリ
出演 プラバース ラーナー・ダッグバーティ アヌシュカ・シェッティ

『バーフバリ 伝説誕生』に続く完結編、ああああ凄い!このスケール!
前編がどんな形で終わったか、などもう忘れてしまっていて、父バーフバリか息子バーフバリか混同してしまった、のは私だけか?初めに前編のまとめがあるが、その時点でもう笑う、そのとんでもないスケール、重力どこに行った感に。

残念なことに小さな映画館の小さめのスクリーンで観たのだが、できれば大スクリーンで観たかったなあ。一昔前の香港映画では、お前30回ぐらい死んでるだろ、ぐらいに何度痛めつけられても生きて戦っていたが、さすがインド、3000回分ぐらい死にそうな戦い、荒唐無稽極まれり。象軍団!

ストーリーを要約すると、父王が裏切りにより王座を奪われ、命も奪われたことを知った息子が、裏切り者である暴君に挑んでいくお話。古代インドの叙事詩マハーバーラタが元になっている、のだそうで、うっかりそのマハーバーラタに手を伸ばしたくなるのだが、概訳でもきっと長いんだろうなあ。

アントニオ・ガデス舞踊団inシネマ「カルメン」

http://www.tk-telefilm.co.jp/gades/
芸術監督 ステラ・アラウソ 芸術監督 アンヘル・ルイス・ラミレス
出演 バネッサ ・ベント アンヘル・ヒル ハイロ・ロドリゲス ホアキン・ム  レーロ

ウォーミングアップ?リハーサル?ダンサーたちがそれぞれに動いている。『カルメン』を上演する劇団(舞踊団?)、という仕立て。アントニオ・ガデスの遺志を継いで愛弟子たちによって結成された「アントニオ・ガデス舞踊団」が2011年、ガデス生誕75周年を記念してスペイン・マドリード王立劇場(テアトロ・レアル)で行った特別公演の模様を収録したもの ということである。

まず音。手拍子、足音、サパテアードというやつ。
フラメンコ舞踊だけじゃないだろう、バレエやコンテンポラリーダンスの要素も感じる。男性舞踊手の身体がピタリと決まる形の美しさ。

日本人が歌劇カルメンをやるなんて、暴挙に等しいな、と思う。この背中、この激情、無理やん。

ずいぶん長いこと、バレエやダンスの舞台を観ていない。ああ生の舞台を観たい。と、思いつつ、時々小さく拍手するのでありました。特別料金だから、ちょっと調べてから観に行ってください。