シャン・チー テン・リングスの伝説

監督 デスティン・ダニエル・クレットン
出演 シム・リウ トニー・レオン ミシェール・ヨー オークワフィナ

マーベルファンの皆様にはごめんなさい、わたくし映画館でマーベル作品を観たのはこれが初めてです。なのでテン・リングスが一体何なんだか知らなかったし、初めの方の中国語ナレーションを聞き取ろうと頑張ってたけどちゃんと聞き取れず、ちょっと曖昧な理解で始まりました。アイアンマンに出てきた?テン・リングス。

長年の我がアイドル梁朝偉トニーさんがこーんな映画に出る日が来るなんて!それで不要不急の最たる映画鑑賞へ。
数千年前のアジアのどこか、テン・リングスを手に入れて、永遠の命と強大なパワーを我が物とした男、シュー・ウェンウー、腕に5本ずつ嵌めた腕輪こそがそのテン・リングス。あっという間に時は移り、美しい女性に出会い、パワーを捨てて妻子と平和な家庭を築いていたけれど。

現代、シャン・チーは真面目なホテルマン、同僚女性ケイティは車を運転するとなると大変な暴走ぶりとなる。二人がバスに乗っていると、突然武装集団に襲われる。そこで、実は子供のころから武力・殺人術を叩き込まれていたシャン・チーはキレキレの格闘!
そして舞台は急にマカオへ。妹と再会するがまた謎の武装集団が襲って高層ビルの狭い足場で大格闘。えーと、今でも竹を組んだ足場を使っている?とにかく映画の中ではしなる竹組みの足場だった。

妻を失って復讐に燃える父、父から逃げ続けていた息子。

ふっふっふ、面白かったわあ。時々聞こえる中国語は残念ながら広東語ではなく北京語だけれど、香港カンフーアクションの香り、トニーさん楊 紫瓊ミシェール・ヨーねえさんのばりばりのアクション!おいくつになられたかと帰宅後お二人の年齢を確かめましたよ、1962年生まれ!
最後の字幕にベン・キングスレーとあって、はい?どれが?と思ってしまう始末でありました。
マーベルって映画館で観るものよねえ、そりゃわかってはいたけど。おそらくシャン・チー物も続編出来ますね、その節にはまた行きましょう。主役のシム・リウさんどこから湧いてきた人?

ネプチューンの影

著者 フレッド・ヴァルガス
創元推理文庫

この作家を初めて知った。

警察物だが、主人公アダムスベルグ署長は突然のインスピレーションによって事件を解決に導いたりするし、その部下のダングラールは読書家で物知り度が過ぎるし、同じく部下のルタンクールは179cm体重110kgの身体に頭脳も観察力も攻撃力も備えている女性である。そのほかにも誠に異能と言いたい優れた能力を持つ老女が出てくる、いわゆるキャラの立った登場人物たちがぞろぞろ。
3つの刺し傷のある死体が発見される。ネプチューンの三叉槍(トリダン)で刺されたような刺し傷。
ダングラールの弟は、かつて恋人を同じような刺し傷で殺したとされ、追われた。ダングラールが犯人と確信する高名な判事はすでに亡くなっている。

その、犯人の件で、そりゃ無理だろー、どうやってその、と思われることとか、まあミステリーとしては問題がある、ので、好き嫌いは分かれるだろう。私はと言うと、久しぶりにちょっと追いかけたいシリーズにお目にかかった感。好きですよ、この突拍子もなさ、なにしろ女性たちが魅力的過ぎる。『ミレニアム』のリスベットとどっちが?っていうもはや手も震えている天才ハッカーの老婦人とか。
パリ十三区警察署長がカナダのケベックに出張する話で、ケベックと言えばフランス語圏だが、そんなに妙な訛りがあるのか?パリの住人から見ると。古語っぽいのか?そこの翻訳もう少しなんとかならんかったかなあ・・・。

彼岸花が咲く島

著者 李琴峰
出版社 文藝春秋

台湾生まれの女性による第165回芥川賞受賞作品。

白いワンピースを着た少女が、島の砂浜に流れ着いて倒れている。砂浜を覆いつくすように彼岸花が咲いている。
記憶を失った少女は宇実と名付けられる。その島では、ニホン語と女語が使われていた。宇実の話す<ひのもとことば>と似てはいるが、うまく通じない。

現実の地理を思うなら沖縄あたりであろう島。語られているニホン語は、台湾訛りの中国語と、沖縄方言が混じった言語。ノロの女性たちが、<女語>によって島の歴史を受け継ぎ未来へ伝える。男は女語を習うこと、歴史を学ぶことが許されていない。大ノロによって宇実はノロになる修行をすることになる。浜辺で宇実を見つけた游娜と共に。

宇実がかつていた国の<ひのもとことば>は、かつて疫病が流行り、それがチュウゴク起源のものだったために、チュウゴク由来の物は排斥され、言語からも漢字語を追放した結果、漢字語でしか表現できないものはイングリッシュであらわされることになった言葉である。そして先祖にチュウゴクの血がある人間も排斥された、どうやら宇実が流れ着いた理由もそこにあるらしい。

女語をひそかに習得している少年、拓慈の存在、そして普通は彼岸花が砂浜に咲くはずは無いが、麻酔薬として使われることがある特殊なその花は、ニライカナイとされる場所との交易で重宝されている。

現在のコロナ禍でアジア人差別が起こっていること、日本で韓国・中国に差別発言をする人が絶えないこと、ジェンダーの問題、侵略。そう長くないファンタジー仕立の小説の中で、様々なことが語られている。作家が台湾人だからだなあ、と思う作品。1989年生まれ、2013年来日、早稲田の大学院日本語教育研究科修士課程修了の、日中翻訳者でもある人。
芥川賞か?とちょっと思う。いや、悪いと言っているのではなく、例えば上橋菜穂子作品のような私好みのファンタジー、SF的なので。
それにしても、中国や台湾にルーツのある人が文学賞を獲ることがそう珍しくなくなってきて、すごいね、半端な中国語学習者としてはつくづく感じ入りますよ。
基本的に言葉というものに関心のある方にお勧め。

アーモンド


著者 ソン・ウォンピョン
出版社 祥伝社

この表紙、書店でよく見かけたなあ、と思ったのは、友人から(勝手に)貸し出された数冊の中にあったからで。しばらく前の書店押し本だったはず。

失感情症・アレキシサイミア と呼ばれる,扁桃体が小さいことやそのほかの原因で、喜怒哀楽などをあまり感じない症状を持って生まれた少年。おばあちゃんは、少年を怪物と呼んだけれどそれは愛情を込めた呼び名だった。母親は、扁桃つまりアーモンドを。たくさん食べさせ、懸命に、喜怒哀楽愛悪欲の感情とは?の基本概念を覚えさせ、口角を上げたら笑う表情になるなど教える。

事件が起こる。おばあちゃんは亡くなり、母親は病院で植物状態となる。ほかにもかかわった数人が死ぬ殺傷事件。少年の誕生日でもあるクリスマスイブに。

もう一人、不運な生い立ちの少年が現れる。
そして、陸上少女も。

ストーリーはこの辺にしておこう。どっちに向かって行くか?
とてもうまい描き方・運びだと思ったら、この作家、短編映画の脚本などの仕事を先に始めていたそうだ。1979年ソウル生まれの女性。
まだ映像化されていないのかな?
昔々、一時的に、ではあるけれどおそらく他人様から見ればずいぶん無表情の少女であっただろう時期があることを思い出した。鬱傾向のため。

御都合主義な感はあるけれど、2020年の翻訳小説部門本屋大賞作品でしたか、なるほど。

鵞鳥湖の夜

監督 刁 亦男ディアオ・イーナン
出演 胡歌フー・ゴー 桂綸鎂グイ・ルンメイ 廖凡リャオ・ファン 万茜レジーナ・ワン

天下の美男美女をこーんな風に…と、まず思いましたよ、『琅琊榜 〜麒麟の才子、風雲起こす〜』(2015)の麗しの胡歌、『藍色夏恋』(2002)からとても好きな知的な台湾女優桂綸鎂、テレビの中国時代劇では高貴な役でよく見るレジーナ・ワン。

出会いのシーン、雨の夜高架下の暗がりで妻を待つ男。真っ赤なセーターの女が男に煙草の火を借りる。

刑務所で5年の服役を終えたばかりの男が、バイク窃盗団に加わろうとしている。窃盗団の縄張り争いが起こり、バイクで逃走する途中、間違って警官を殺してしまう。男には報奨金が懸けられている。
赤いセーターの女は妻の代理だという。女は水浴嬢と呼ばれる水辺の娼婦。男は、女に通報させ、妻子に報奨金を残したいと思っているのだ。

警察と窃盗団の両方に狙われ、追いかけられる男。どこか南方の地方都市、聞き覚えのあるディスコミュージックが流れ、なぜか底が光る靴の人々が広場でディスコダンスを踊っている。そこに紛れ込んで踊る女。
汚い狭い建物の中で逃げる追う、そこの影は誰の?

泥臭い背景ながら、どこかフランスノワールを思わせ、また、王家衛や鈴木清順の色、時にはおいおい寺山修司か!と突っ込みたいようなシーンも。

ひどいシーンがいろいろ出てくるけど、なんとか「ブンガワン・ソロ」中国語バージョンが出てくるラストまで観てね。最後にちょっと息つけるから。

薬の神じゃない!

http://kusurikami.com/
監督・脚本 文牧野
出演 シュー・ジェン(徐崢) ワン・チュエンジュン(王伝君) ジョウ・イーウェイ(周一囲) タン・ジュオ(譚卓) チャン・ユー(章宇)

2002年上海、インドの強壮剤を売っている店の主チョン・ヨンは、家賃もなかなか払えない経済状態にあった。ある日、慢性骨髄性白血病患者の男が訪れる。中国国内では白血病の薬が高価であるので、インド製のジェネリック薬品を輸入してほしい、と言う。密輸、密売と言う犯罪に手を染めることになるので、断るのだが。金の力には逆らえず。

なーんでボリウッド音楽みたいなのがのっけから流れるんだ、と思ったら、そんなことだった。
次第に白血病ネットワークが広がっていく。初めに輸入を依頼した男、白血病患者のネットコミュニティ管理人の女性、英語を話せる牧師、金髪少年、など。いくらなんでもそんなに発病率の高い病じゃないと思うぞ、ぐらいにずいぶん人数が増えてくるのだが。
そうして警察に目を付けられる。チョン・ヨンは密輸をやめ、別の事業を始める。
が、正規の薬を買えない病人たちの状況を知らされ。
真的假的?と中国人はよく口にする。本物か偽物か?と言う意味だが、それだけニセモノがはびこっているということだ。そういう社会のど真ん中で生活している男、まことにベタな中国らしい描き方(どこから大ヒット映画らしくなるんだか、と思って観ていたよ)、が、だんだんと変化していく。

最後にはうるうるしてしまいますよ。大概の大人の周りには、難しい病気と闘っている身内や友人がいるものだからね。
チョン・ヨンを犯罪者として追う警察側の人間を演じる周一囲は、日中合作ドラマ『蒼穹の昴』で知った俳優、金髪少年は『蔵は静かに眠っている』の人、だけどパソコンで薬を広める女性が『瓔珞』のあの人だなんてちっとも気づかず観てましたよ。

バッカスレディ

監督 イ・ジェヨン
出演 ユン・ヨジョン ユン・ゲサン
iうという
「ミナリ」でアカデミー賞助演女優賞のユン・ヨジョン主演。
バッカスって韓国では有名な強壮剤の名前であるらしい。そして、バッカスレディとは何?高齢者を相手に春を売る、決して若くない女性のことですと。そういう交渉がどこぞの公園あたりで行われているらしい、現実にも。
韓国では年金制度が整ったのが90年代であると、先日テレビを見ていて知った。全く年金を受け取れない人がかなりいるのだと。そういうこともあるのだろうな。
そして、この主人公はその道において優れたテクニックを持つらしい60代後半か、という女性。

こんな映画を作れる、またこんな映画に主役として出演する女優さんがいる、というのが韓国だと思う。今やアカデミー賞のステージに上った女優であり、テレビでは普通のおばさん役でしょっちゅうお目にかかっているユン・ヨジョンさん。ベタッと下品になりそうなところを、細身の身体で淡々と演じているので、そんな人生もあるかと受け止めてしまう。

日本にだって、90年代半ばまで、《横浜のメリーさん》と呼ばれる白塗り白いドレス姿の老娼婦がいると、マスコミで紹介されたものだった。日本では米軍の軍人相手の女性と言うのは生きていてもかなり高齢になっているはずだが、朝鮮半島では米軍との関わりがもっと後々まで深かったのだから、始まりはそこだった、混血の子供をアメリカに養子に出した、という話がこの年代にも続いているのだ。

なかなかに露骨な状況が描かれるのだが、GYAOで観られます、興味があったらどうぞ。

ミナリ

監督・脚本 リー・アイザック・チョン
出演 スティーヴン・ユァン ハン・イェリ ユン・ヨジョン

ミナリとは韓国語で芹のこと。
1980年代、韓国からアメリカに移民としてやってきた家族。農業で道を開こうとする夫、アーカンソーの広い土地とトレーラーハウスを見た妻は、話が違う、と言う。夫婦共にひよこの雌雄を判別する職場で働く。
息子は心臓に問題を抱えていて、子どもたちの世話のため韓国から妻の母親を呼び寄せる。子供に花札を教える、おばあちゃんらしくない、と孫から言われるあまりお行儀よろしくもない庶民のおばあちゃん。おばあちゃんは離れた水辺で芹を育てる。

広大な土地。井戸を掘って水を供給、トラクターで耕し、隣人の手助けはあるもののほぼ一人で
野菜を育てる。
井戸が枯れる。

狭い日本の片隅でそこそこの菜園をやっている私としては、その広大な土地は、魅力的なものとして映る。が、無理でしょ一人でその作業は。肥料はどうするんだろう、など思うよ。

息子の心臓が良くなってきてるんだよね、それって今の環境が向いてるってことでしょ、そこへさあ・・・と、ちょっと思うが。夫の側、妻の側、どちらに肩入れするにせよ、イラっとする場面あれこれ。

そして事件が。

おばあちゃんを演じるユン・ヨジュンさんはドラマで見慣れた女優さん。

好きな映画でした。様々な映画祭で受賞、さて、アカデミー賞前夜です。
基本、美形も出ないし淡々と生活が進む、という作品なので、退屈する人がいるのはわからないでもない、というところ。

我らが少女A

著者 高村薫
出版社 毎日新聞出版

この作品で合田雄一郎は57歳、警察大学校教授になっていた。
久しぶりに高村薫を読み始めて、緻密だなあ、うまいなあ、と、思っている。初期のものだって、何だろうこの銃の取り扱いについての詳しさ、とか、思った記憶があるが。うまいなあ、なんぞ一介の読者から言われる筋合いはなかろうけれど。

上田朱美という女性が殺された。同棲していた男が出頭する。朱美が使い古しの絵の具のチューブを持っていたエピソードが、供述の中で出る。前に野川公園で殺された人が持っていたものだと言っていたと。

コールドケースを扱う特命捜査対策室(って実在する?虚構?)に連絡が行き、当時担当していた合田へとつながる。

長身、ショートカットで女優志望と言っていた上田朱美、その中学高校時代の同級生たち、それぞれの視点で当時の思い出が描かれる。同級生の母たちや合田の記憶もまた。そして忘れていたこと、改めて知ったこと、少しずつ繋がって焦点を結んでいく先に。

それぞれ登場人物の嫌な部分も描かれるが、中でも一番最低な奴は、高校時代の朱美と付き合っていたらしい今では電通マンの玉置悠一だね。会田誠愛を自負するスノッブ変態男。東京高裁判事となっている加納祐介が澁澤龍彦など好きでも、それはさもありなむ感はあれど汚さは感じない。その加納祐介は、悪性リンパ腫を患い治療中。

収斂の先の結論は描かれない。推測を任される。
ADHDの男子同級生が、うーん……。それにしても薬の名前までしっかり調査して書くんだね。府中・三鷹・調布、武蔵野界隈をよく知る人には店の名前なども懐かしかったりするのだろう。

だいぶ前にactonさんもブログで紹介している『われらが少女A』、遅れ馳せの感想文?でした。ああ、高村薫サンは私と同学年という年齢だと思いますが、67歳の元美術教師・栂野節子を、老婆として扱っているね。だから何だって?いやいや。
直木賞作家だけれど、直木賞と芥川賞の違いは?を、問いたくなる作家の一人です。

飛ぶ孔雀

著者 山尾悠子
文春文庫

シブレ山の石切り場で事故があって、火は燃え難くなった。
と、始まる、火が貴重な世界、日本の、京都のようなどこかが舞台の話。
次の章で、四季咲きの桜などと言う馬鹿なものがあって、 とか、馬鹿馬鹿しいほど毒々しい取り合わせのツツジの満開 とか、同意!まことに!という思いで乗せられる。始まりは散文詩のようだ。
が、Ⅰ 飛ぶ孔雀 Ⅱ 不燃性について で構成されるこの物語、たいそう好みではありながら、2回読んでもわからない。なにがどうなったんだっけ?
普通、文末にある解説というものは、読者の理解を助けるものだが、解説者が金井美恵子と来ては、何の解説にも助けにもなりませぬ。ちなみにこの本は友人から貸し出されたのだが、その友人は解説を金井美恵子が書いている、という理由によって、手を出したらしい。

まあ、ある種のSFであり、異世界の物語である。
泉鏡花文学賞・日本SF大賞・芸術選奨文部科学大臣賞の三冠達成!と帯にある。それもわかる。が。もうしばらく借りておいてあともう一回読む日を待とう。その前に、この作家の別のものを読みたい。この作家の名前は記憶にあるのだから、何かを読んでいるはずなのだが。

なんのこっちゃな紹介文で申し訳ないが、なんだか地面がぐらぐらしている世界の、稀有な物語であるのは確かです。