その本は

著者 ヨシタケシンスケ・又吉直樹

ポプラ社

15㎝近くもある太い帯を外すと、昔の革の表紙に金色の線を押した風の装丁、数十年は経っている本のように端にくすみが、ちょっとしたシミが、ある態の造り。隅になんだかわからないけれどちょっとした落書き?書き込み?があったり。

本の好きな王様が、もう目が見えなくなったので、世界中を回って珍しい本の話を聞いてくるように二人に命じた。千夜一夜物語のヴァリエーションですね。で、各章が、その本は、と始まる。実は私はと言えば、ソの本は と始まる短い文に爆笑してしまった…我ながら…。

この二人のコラボという時点で、売れるに決まっているのだが。あなたの好きなのはどの部分ですか?

ルート66

著者 キャロル・オコンネル

創元推理文庫

かつてイリノイ州シカゴとカリフォルニア州サンタモニカ全長3775kmを結んでいた国道66号線。1985年には廃線となったそうだ。私の世代はルートシックスティシックス♪と言う歌とドラマを覚えている。ドラマの方は何となく、程度に。

『氷の天使』に始まるキャシー・マロリーシリーズ9冊目。ニューヨーク市警刑事、完璧な美貌、感情を表さない氷の天使マロリー。ストリートチルドレンで、盗みをマーコヴィッツ刑事に見つかり、マーコヴィッツ夫妻に育てられる。が、パソコンを与えられると、すぐにマスターし、ハッカーとしての才能も発揮することとなる。盗みは悪いことだという概念が無いらしい。

作家はアメリカ人だけど、イギリスで先に出版されている。ルート66は2006年刊、日本では2017年刊。

このシリーズ、あんまり読みやすくは無い、のだが(翻訳の問題もあるか、と言うのはなにかしら指摘が見られる)、読み手の体調が良くて乗ってくれば面白いよ。そしてシリーズの中でもこの「ルート66」は、マロリーの生まれにつながって・・・うわあ、と終わり近くで思うのでしたよ。あ、ストーリーね、旧ルート66を行くキャラバン、いなくなった子供を探している。元神父で心理学者でもある老人が率いている。マロリーはそれを追っている。マロリーの部屋では女の死体が見つかった。FBI捜査官、州警察、ニューヨーク刑事マロリーとそれを追いかけるマロリーの相棒ライカーと友人チャールズ。ルート66沿いに幼い子供が埋められている。…だから読みにくいんだってば。

80年代90年代に、女性の探偵とか検視官とかシリーズ物がベストセラーになっていたね。検視官の姪っ子もハッキングの天才だったよね、確か。『ミレニアム』のリスベットは言うに及ばず。ただ、今2022年から見ると、2006年のパソコンのセキュリティはどんなものだったかなあと思わないでもない。

シリーズはまだ続いている。ここからどう発展するのだろう?

湖畔荘

著者 ケイト・モートン

創元推理文庫

1933年、青春期の少女アリスの視点が主に描かれる場面と、2003年、女性刑事セイディとその周辺が描かれる部分とが行ったり来たりしながら、70年前の乳児が行方不明になった事件を追う。ので、初めはなかなか話が見えない。

間に、セイディが係わった女の子置き去り事件の話が絡んでくる。その件で何かしら失敗をして、今は休暇中と言うセイディ。読み進むと、はい?セイディあなた若い時に?と言う引っ掛かりが…それでなの?と。

アリスの母エリナ、祖母コンスタンスも、初めはある種典型的な、と見えていやいやそうですか、と言う背景が見えてくる。そして、戦争によるPTSDを抱えた男たち。

エピソード、物語の重なり具合がまことにパズル。上巻の後半あたりから面白くなってくるのだが、初めの方で理解が追い付かなかった部分から、なにかと伏線が隠されている。最後に至って、おおお!

ケイト・モートンはオーストラリア生まれだそうだ。先に読んだ『忘れられた花園』と同じく、コーンウォールが主な舞台だから、イギリス生まれと思うではないか。まあ現在はロンドンで生活しているということだが。

いやミスは読みたくない人(私の事だが)にお薦めしたい。

 

所轄刑事・麻生龍太郎 (再読)

著者 柴田よしき

角川文庫

13年ぶり新作収録で再文庫化。その13年前あたりに、このブログに感想書いておりますんですが。新作読んでみたかったので。そして、『小綬鶏』と言うその新作、好きでした。

でね、我が愛する麻生龍太郎と山内錬の出てくるものを次々読み返すこととなりました。『聖なる黒夜』、『私立探偵・麻生龍太郎』、それから『RIKO』シリーズ第一作には錬は出てこないけどその後の二作に出てくるのだから全三作読みましたさ。

『RIKO-女神(ヴィーナス)の永遠ー』の単行本が出たのは1995年。改めて読み返すと、かくも型破りな性に奔放な造形だったのか、と思う。で、たぶん山内錬の初登場である『聖母の深き淵』(1996年)では麻生龍太郎はもう警察をやめて私立探偵になっているんだなあ。そして、トランスジェンダーと言う言葉はこの時代に世に出て来たのか。と言うよりこの時代には性的マイノリティに対する認識というものはこのレベルだったのかー。ハラスメントについてもひどいもんだなあ。まあ今この2022年でも、男女平等は反道徳の幻想だとかLGBTは生産性が無いとか抜かす女性議員が、総務大臣政務官だかになられましたが。わきまえた女性がどうとかの森の爺さんは言わずもがな。少なくとも真っ当な大きい企業では社員にちゃんとパワハラ・セクハラやジェンダーについての教育をしているだろう。政治家こそジェンダー認識をちゃんと世界レベルに上書きするべきなのに。が、昨今の統一教会関与問題で、与党及びそれに準ずる党派のお方が、宗教系のご意見を取り入れて、その票を取り込んでいらっしゃったことが判明、そこかあ、票集めが一番大事なのねえ。

『月神の浅き夢』のラスト近くの、緑子が錬に事情聴取しているときに「シャツのボタン外してくれない?」からのシーン、いいよね。

ところで、龍太郎を映像化しようとすると、どうしても(その年代のね、今じゃなくて)三浦友和になってしまう。小説上の実年齢だとそのくらいになりそうだが。イマドキの30代後半~40代の俳優さんで、となると、西島秀俊?周りの警察官役をあれこれキャスティングしたりはできるが、錬の映像化は厳しい。

時系列ではRIKO の後に花咲慎一郎シリーズに出てくる錬になるようだ。花ちゃんの時代には、自己認識が女である男の子、というのが出てきて、そういう存在を受け入れることも無くはない状況に変わってきている。さっきTVで、高校かな、教師が、自分はゲイであるとカミングアウトするドキュメンタリーを観たところだ。バイセクシュアルを公言している芸人さんとかいるし、10年後には日本でも多様性と言うものが、絵に描いた餅でなく、ごく普通に権利を行使できている社会でありますように。馬鹿な議員が少数派になっていますように。

 

教育と愛国

監督 才加尚代
語り 井浦新

2017年に『映像‘17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか』と言う番組がMBSで放送されたのだそうだ。2019年には書籍化もされている。それに追加取材、再構成して映画化。

道徳の授業。おはようございます と言いながらお辞儀をする・言った後でお辞儀をする・言う前にお辞儀をする 正しいのはどれでしょう?
あちこちでプッと吹いてしまう私である。ほかに教えることはたくさんあるでしょう・・・。
教科書にパン屋さんで働く姿が出てきたら、検定ではねられて和菓子屋に変わった話は、前に目にしたことがあったが、まことにやれやれ。
イザナギ・イザナミから始まる神話を詳しく紹介している歴史の教科書!古事記は日本文学で学ぶもんだろ。

今このタイミングで、安倍元首相が自衛隊と共に立つ図を見てしまう。

私の場合、テレビでその人を見かけたらすぐチャンネルを変えるかテレビを消す、ということになる人物が何人も出てくる。今回の選挙で人数を増やした関西方面のアレとかソレとか。あの女性とか。が、極め付きは、東大名誉教授のお方。ちゃんとした日本人とは?と問われて(ちょっと間があったね)、左翼ではないということかな、と言うお答え。歴史から学ぶ必要は無い、とか。
凄いね、知性ってなんだっけ?

日本書籍って無くなったのかー。

そして、この度の選挙では、与党が増えた日本。愛国というおまじない、形式が好きな人がたくさんいて、日本会議という神道系の団体さんや、昔、隅っこに勝共連合と書いてあった統一教会の支持固い党。頼むよ、売れなくなったタレント候補をスカウトするの止めようよ。

atconさんのブログでも先に紹介してありますが、7月再映で観ました。

大いなる救い


ハヤカワ文庫

スコットランドヤードの警部にしてアシャ―トン伯であるトマス・リンリ―が主人公であるシリーズ第一弾。
イギリスの上流階級にありがちな妙な組み合わせの服を無造作に着込んだ姿、とはどんな姿なのだかわからないのが残念。
なんだか出てくる男性も女性もどこか変、めんどくさい感があったが。まあ特にリンリ―警部と共に捜査に当たるバーバラ・ハヴァーズの屈折。
1988年に原作が出ている。その頃、このテーマの推理小説が多かったと思う。
読み進んで、不幸なおよそ胸糞悪い状況が見えてきて、読み終えて、もう一度初めのほうを読み返す、ああ、ここにこんなことが仕込んであったのか・・・。それぞれ登場人物が書き込まれていることも、後になってそういうことか、となる。

農場で、首を切り落とされた死体が見つかる。側に娘がいて、あたしがやった、でも悪いと思っていない、と言う。
と言うのが事件の始まり。

シェイクスピアの台詞がしばしば引用されたり、幅広い読書量の人の方が楽しめそうなことがいろいろ、と、思ったら、作者はイギリス文学を教えていたアメリカ人だそうだ。

エリザベス・ジョージと言う名前には覚えがあるので、前にも何か読んでいるかと思うが、さて。久しぶりに、シリーズを続けて読みたいと思うものに出会った。ドラマ化されているそうで、そのドラマシリーズを観たいものだ。

月とコーヒー

著者 吉田篤弘
出版社 徳間書店

あとがきに 一日の終わりの寝しなに読んでいただく短いお話を書きました とあって、本当に一日の終わりの寝しなに本を読むのが子どもの頃からの習慣の人間には、ぴったりの本。短い、きちんと着地しない、ふわっと終わる物語の連続。まあ、ヘンなお話。
装丁、挿絵がとても良いなあと思ったら、グラフィックデザイナーでもある著者だった。クラフト・エヴィング商會名義で吉田篤弘・吉田浩美の二人のユニットを組み、実在しない書物や雑貨などを手作りで作成し、その写真に短い物語風の文章を添える、という形式の書物をいくつか出版している って、へ?ですが、存じませんで失礼。
三人の年老いた泥棒の話、絵の中の星だけを盗み出して…と言う話とか、青いインクの連作とか、私は好きだけれど、あなたは?

タイトルは見覚えがある、ぐらいで読み始め、この作者の著書をまた読みたいと思っています。

去年の雪

著者 江國香織
出版社 角川書店

kozo no yuki と、タイトルの上にある。
だけど、去年の雪はどこに行ったんだ?
というフランソワ・ヴィヨンの詩の一節から取ったタイトルであるらしい。

人が事故死するシーンがまずある。
一行空くごとに、登場人物が代わる。時代もずれる。ずれるどころか、平安時代と思われる話の中に、現代で起こっていることの欠片が迷い込む。死んだ男の魂なのか、別の時代の状況を眺めている。江戸時代の景色に、現代の誰かが遊んだシャボン玉がいくつも浮かぶ。ここでふいに無くなったトイレットペーパーが、別のどこかの買い物に紛れ込んでいる。烏が別の時代の物を運んでくる。

今死んでいることを進行形で感じながら死んで、どこかの時代に魂か何かの姿で迷い込んで、ぼんやり眺めている、たまにはその姿を見られる。いつか少しずつ意識が薄れていく。と言う死に方(ではないか、存在の無くなり方)は悪くないなあ、と思ってしまった。
久しぶりに江國香織を読んだ。好き嫌いが分かれるであろう作品、私は好きです。装丁も好き。

エリザベスの友達

著者 村田喜代子
出版社 新潮社

老人介護施設に入所している人々。
若い頃の記憶が、現在の生活に混入してそのことが何ほどの不思議もない人々。
誰かが 帰る と言うと、次々に、帰る 帰る と言う。

満州開拓団で苦労した女性。天津でイングリッシュネームで呼び合い、豊かな暮らしをしていた人。

垣根の垣根の曲がり角 と言う“たきび”の歌が昭和16年生まれで、歌詞の焚火が敵からの攻撃目標になる、とか、落ち葉は風呂を焚く資源である、なんぞと言われてラジオの放送予定が縮められた、なんて話や、“蛍の光”には昔、3番4番の歌詞があった、と言う話、ロンドン橋落ちた、の歌は実は結構怖い、とか、初耳、へーえ、なことがいろいろと。
みみそらコーラスと言うボランティアが、アリランや軍歌や、古い歌を歌ってくれるのだ。

エリザベス は、満州皇帝溥儀の皇后婉容のイングリッシュネームなのだが、自分の英名だったサラを忘れて、エリザベスと名乗るひと。

みんな、帰る っていうんだよねえ、と介護の日々を思い出す私である。ここではないどこか、帰ってきても又、帰ると言う母は、昭和の実家に帰りたかったのだろうか。その母が大腿骨骨折で入院していた時、よく見かけるとても知的な認知症女性がいたことも思い出す。認知症であることと知的であることは両立するんだよ、不思議と。

もう誰も私を名前で呼ばぬから エリザベスだということにする
という松村由利子さんと言う歌人の短歌が契機となって、書かれた小説だそうだ。

素晴らしき眺め

監督 文牧野
出演 易烊千璽 王傳君 徐崢 章宇 田壮壮

深圳でスマホ修理屋という仕事をしながら小学生の妹と暮らす青年。妹は、亡くなった母と同じ心臓病で、二年以内に手術をしないといけない。手術代のため、不良品として返却されたスマホを甦らせて正規品として使えるようにする(正式な呼び名を何とか言ってましたがわかりまへん)というビジネスを始める。工場を借り、従業員を集め、細かい作業を指示し、家賃や給料やその他維持費のために高層ビルの窓拭きもする。

なんかねえ、初めのうちこのストーリーはどちらに転ぶんだろうなど思うし、ちょっと乗り損ねていたのだ。
元々自分の部屋の家賃すら滞納している状態で始めたし、次々問題は起こるし。

『薬の神じゃない』の監督、『少年の君』の易烊千璽(イー・ヤンチェンシー)主演、で、見たことあるぞ、と言う俳優が続々出てくる。そして妹役の女の子がまあ可愛い。そしてあれ?広東語の歌が流れて…そうか、深圳は香港の隣だ。そのうち乗せられていた。
子役上がりのアイドルという易烊千璽が、この作品でもとても良い、脇役もみんな良い。
で、最後に流れるBeyondの「海闊天空」!

Netflixで観たと、某ブログで教えてもらったので、早速視聴。
主人公の名前が景浩(ジンハオ)、スマホ修理店の名前が好景(ハオジン)、これ、良い景色と言う意味になるから、タイトルが 素晴らしき眺め なんだけど、原題『奇跡:笨小孩』。笨小孩は、莫迦な子、、莫迦なガキ、ぐらいの意味。