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「下から目線で読む『孫子』」山田 史生

sonsi出版社:筑摩書房 (2010/7/7)

内容(Amazon.co.jp 「BOOK」データベースより)
歴史上、数々の支配者たちに熟読されてきた兵法書の古典『孫子』。人間心理への深い洞察をもとに必勝の理を説いた同書を、視点をひっくり返して読んでみたら、何が見えてくるのか。自明とされた「勝ち」というものが、にわかに揺らぎ始めるかもしれない。『孫子』のなかから、これぞという言葉を選び、八方破れの無手勝流でもって解釈しながら、その真意を探る。

キャッチコピーは「下々に捧ぐ」

「孫子」なんて全く興味もなかったのですが、「下々に捧ぐ」というこの言葉がぐさりと胸に刺さり、購入してしまいました。
だいたい「孫子」については、孔子や孟子みたく中国の偉人の名前だろうと思っていたくらいですから。
実際は人の名前ではなく、「孫子」というタイトルの兵法書、いわば「戦争マニュアル書」の名前でした。知らなかったなあ。本を読むたびに己の無知さ加減を思い知ることになる今日この頃です。
しかし、「孫子」など知らなくて当然。恥じることはありません。「孫子」は下々の者が読むような書物ではないらしいのです。

戦国時代にあっては武将たちが、国家統一が成された現代においてはプレジデントたちが、「敵に勝つための手引書」として、「上に立つものが下に居るものをどう動かすか」というノウハウ本として使うものらしいです。

「兵とは詭道なり。」
「戦いのコツは、相手をダマすことにある。」と山田史生さんは訳しています。
孫子的漢文調で「兵とは詭道なり。」ときっぱりと声に出して言えば、騙すことにも大義があるように聞こえてきて何だか可笑しいですね。

「利なればこれを誘い、乱なればこれを取り、実なればこれに備え、強なればこれを避け、怒なればこれを撓(みだ)す。」
山田史生さん訳:「欲張りならエサで釣り、お調子者ならスキをつき、真面目なら様子を見て、短気なら刺激せず、単純なら挑発する。」

「必死は殺され、必生は虜にせられ、忩速(ふんそく)は侮られ、廉潔は辱められ、愛民は煩わせさる。」
山田史生さん訳:「ガンバると殺され、逃げると捕まり、短気はバカにされ、真面目はダマされ、優しいと苦労する。」

戦術というよりは、処世術に読み替えることができそうです。人生そのものが戦いだとすると戦術も処世術も似たようなものかもしれませんね。

ところで、来月は民主代表選があります。元来が好戦的なお上たち。たぶん、一度ならず孫子を読んでいることと思いますが、私からも僭越ながら「お上に捧ぐ」一文を。

「亡国はまた存すべからず、死者はまた生くべからず。」
滅びた国家は立て直せないし、死んだ人間は生き返らない。

「外科医須磨久善」海堂 尊

gekai出版社: 講談社 (2009/7/23)

(内容紹介Amazon.co.jpから)
“海堂ワールドの新展開、外科医の謎に迫る。” 世界的権威の心臓外科医はいかにして誕生したのか。旧弊な学界から若くして認められるため、どんな奇策をとったのか。現役医師作家にしか書けない、医者の秘密。


須磨医師は中学二年生の時、自分は普通の会社員にはとてもなれそうもないから、医者になろうと決めたそうです。

  • 「人を押しのけたり、競争はしたくない。
    小さくささやかな人間関係の中で生きていけたらいい。
    理想は最小単位の人とのかかわり合いだ。仲の良い友達から「君がいてくれてよかった」と思われるのがいい。
    競い合いではなく、ほのぼのとした人間関係ができたら幸せ。
    いいやつと悪いやつが入り交じる雑駁な世界はイヤ。
    自分ががんばってもトップが愚鈍なせいで路頭に迷うのもイヤ。
    他力本願でうっとうしいのもイヤ。
    よくも悪くも自分の責任で仕事できないのもイヤ。
    つきあう相手とはケンカをするのも足の引っ張り合いをするのもイヤ。
    自分が誰かを不幸にするのもイヤ。」

だから、患者と医者という1対1で向かい合う職業を選んだ、というところに思わず感動しました。

自分の心許せる狭い範囲で、しがらみなくささやかに生きたい、という気持ちは私も全く一緒なんですけどね。子供の頃から、何々になりたいと職業を真剣に考えたことが一度もないまま生きてきました。そのことを今更ですが、反省しました。
須磨医師は外科医になろうと決めてから、一度も気持ちがブレることなく突き進んでこられたようです。ブレないこと、は大事ですね。