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「統計データはおもしろい」本川 裕

toukei出版社: 技術評論社 (2010/10/26)

「国内、国外を問わずに、あらゆる角度から収集された社会データを基に、相関図を表し、そこから見えてくる事実とその裏に潜む現実を解説する書籍である。ときに国別の情報であったり、県別の情報であったり、あるいは男女別の情報であったりと、特に収集データには傾向や制限をもたせず、現代社会の側面を表しているような興味深いテーマを中心に選んでいる。社会データの奥深い解説のみならず、相関図として表す際のグラフの見せ方についても解説している。
(本書概要より)」

以前読んだ、「絶望の国の幸福な若者たち/古市憲寿」の中で、本書のデータが引用されていて興味を持った本です。
著者の本川裕氏は「社会実情データ図録」(http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/)というウェブサイトを主宰しています。このサイトは統計グラフとコメントで構成されていて、掲載されている図録も900~1000点という膨大なデータ量。そしてなんと、月間100万前後のアクセスがあるサイトだそうです。
その「社会実情データ図録」をもとに編集、まとめられたものが本書です。
「社会通念に囚われず、種々の社会現象について、データそのものが語っているように見える法則性に関し、オリジナルな仮説を示し、真実を見極めようとする人々に検討材料を提供すること」を目標に掲げています。

「少子化は公的支出で防げるか?」「日本の貧困度は高いのか?」「豊かになるほど経済格差は広がるか?」「安全なのに”不安”な日本、治安が悪くても”平気”な国」「日本の食料自給率はどれくらい低いのか?」「あなたは醤油派か、ソース派か?」などなど、様々な39のテーマで相関図が表示されています。
国際的データによる相関図では、日本という国の特異性が浮き彫りになるものが多く、興味深いものでした。                                                                一例を挙げると、「米国に対する各国国民の評価」というデータ。
調査結果は日本が16%、韓国が19%、ほぼ同程度の割合でアメリカに対しプラス評価です。
しかし日本は「どちらとも言えない」「分からない」「無回答」といった「あいまい回答比率」が、調査対象28ケ国の中で並はずれて、極端に、高い。正反対に韓国は「あいまい回答比率」が、各国の中で一番低い。
「白黒はっきりさせないと気が済まない韓国人と、白黒をはっきりさせないで物事に対処する日本人という国民性の違い」がこんなところからも見えてきて面白い。

日頃、私たちがニュースや情報番組なんかで耳にする統計データというものは、それを利用する人にとって都合のいい数字だけが取り上げられ、都合のいい解釈を付けて、世の中に流されているものだと、私は考えているので、統計の生のデータを自分の目で確認することは、とても大事だと思います。

擦り傷治療と中桐雅夫の詩

昨年の話で恐縮ですが、暮れも押し迫ったある朝、私は路上で転倒。左足打撲と膝に大きな擦り傷をこしらえました。
出勤ラッシュの車が渋滞している真っただ中での出来事で、派手に転んで血はダラダラ。
恥ずかしさで、その場から逃げるように立ち去ったのは、言うまでもありません。
まったく!いいトシした大人が、なんてザマ!と我が身に罵声を浴びせながらも、こんな大きな擦り傷をこしらえるのは久しぶりだなあと、ちょっと懐かしい気分がしました。

子供の頃はよく転んだものでした。なんせ運動能力が劣る子供だったので、何度も転んでは足の両膝を擦りむき、今でも痕が残っているのです。
大人になっても能力は向上せず、3年前にも大転倒した経験があります。その時は擦り傷はなく、全治2ケ月の打撲のみ。しかも周囲に他人のいない場所だったので、羞恥心もなし。
そう、誰も見てなきゃ、ちょっと転ぶくらい、どうってこともない話なんですよねえ。

しかしまあ、転んでもただでは起きないのが大人のたしなみです。せっかくの機会だから擦り傷の治療法についてネットで検索してみました。すると、今までの私の常識を覆す意外な治療法が出てきました。

これまで、傷の手当てと言えば、傷口を水で洗ったのち消毒液でしっかり消毒し、ガーゼ等を当てて傷口を保護。かさぶたが出来るのを待つ、というものでした。
実際、消毒液を買いに行った薬局でも同様の説明を受け、消毒液と傷当てパッドとステロイド系軟膏を勧められて購入しました。
しかし従来の傷当てパッドって取り替えるときに、痛いんですよねえ。かさぶたができるときはモゾモゾと痒いし、うっかり剥がれるとまた出血して、何度でも痛い思いをしますね。
それが私の常識だったのですが、ネットによると、消毒しない、かさぶたをつくらない、痛くない、治りが早い、傷あとが残りにくい、「閉鎖湿潤ラップ療法」という治療法があるそうです。
これには食品用ラップを使うというから驚きです。

「正しいケガ(傷)の治し方 ~消毒をしないうるおい湿潤治療(ラップ療法)~」http://homepage2.nifty.com/treknz/wound_care.html

上記のサイトによると、「閉鎖湿潤ラップ療法(うるおい療法)のポイントは、消毒薬は決して使わないこと」とあります。その理由として
「消毒薬は要は細菌(細胞)を殺す”毒”であって、当然人間の正常な細胞に対しても毒性があります。傷を消毒するということは、傷を治そうと活躍している人間の細胞をも殺すことになり、かえって傷の治りが遅くなります。消毒をすると傷が滲みて痛いのはまさに細胞が悲鳴を上げている証拠。はっきり言ってキズの消毒なんて自傷行為とおなじです」とのこと。

そういえば以前読んだ、立花隆の「がん 生と死の謎に挑む/文藝春秋」にも、こんな記述がありました。
「通常、傷口ができると、体から盛んに救援を求める信号物資が放出されます。この物質を感知するとマクロファージなどの免疫細胞が集まります。マクロファージは細胞の移動や成長を促す物質を放出します。こうした物質に刺激を受けて皮膚の細胞が移動を開始し、傷口を修復します」

傷を治すのはヒトの免疫細胞の力。確かに消毒は必要ないかもと思い「湿潤治療(ラップ療法)」を試してみることにしました。

治療手順は次のとおり

  1. 傷を水でよく洗う。消毒はしない!
  2. 傷を被うように少し大きめのラップをあてて、縁をテープで留める。可能ならどこかに隙間を残しておく。
  3. 翌日から毎日傷を水洗いし、ラップを交換。夏場など発汗の多い季節は日に1-2回程度繰り返す
    (「正しいケガ(傷)の治し方 ~消毒をしないうるおい湿潤治療(ラップ療法)~参照)

いったんは消毒をしてガーゼの傷当てパッドを当てていたのですが、さっそくパッドを外して(痛かった)、傷口を水洗いし、軽く水気を取ってラップを、テープが無かったため、膝にひと巻きました。
その上からレギンスを着用。
ラップをすると傷口からドロドロの体液が浸み出してくるのが分かります。これは結構匂います。人に気づかれるることはなかったけど、このままで大丈夫なのかと不安になるくらい。
シャワーで傷口を水洗いしてドロドロを洗い流す。水気を取る。ラップを取り換える。それを毎日、浸出液がなくなるまで2週間余り、繰り返してみました。
傷口を洗うたびに、周囲から皮膚がきれいになって、傷の範囲が小さくなっていくのを実感できます。
途中からラップはやめて、市販されているハイドロウェットという医療パッドを使用しました。膝にも楽に貼れて剥がれない。手間いらずで便利な物です。使用上の注意を読むと、「浸出液の少ない傷に使用すると疼痛を引き起こすことがあります。このような場合には、水道水等で事前に傷口を十分に湿らせて使用してください」とありますので、そのへんは注意が必要です。

擦り傷範囲が大きかったせいか、傷が1cm大くらいになるまで1か月ほどかかりました。
傷口を水洗いする際、まったく痛みがない。ラップやパッドを取り換える際にも、もちろん痛みはない。かさぶたができないから痒みや突っ張りもない。最初から最後まで傷の痛みを感じないですむところが何よりもよかったです。
もちろん傷の状態、怪我の原因によっては病院に行くべきだったり、薬が必要だったりしますが、通常の擦り傷ならこのラップ療法はおすすめです。

もっとも、この治療法、私が知らなかっただけで、もうすでに世間では常識なのかもしれませんね。遅まきながら、ハイドロコロイド材の救急絆創膏のコマーシャルが、テレビで流れていることにも気が付きました。

ところで、「擦り傷」という言葉から、中桐雅夫の詩を思い出しました。確か、擦り傷ができたっていう詩があったなあと古いノートを開いてみると、それは「誘拐」というタイトルの詩でした。擦り傷ではなく、かすり傷でしたが。

「誘拐」

中桐雅夫 「夢に夢みて」より

心の子供がかどわかされて
おれにはつらく激しい日々が続いている
二月の夜の二時 ひとり壁に向かって飲む
ウィスキーはよもぎのように苦い。

ふと気がつくと
右手の甲にかすり傷ができて
薄い血がにじんでいた

いつ怪我したのか わからない寂しさ。

五年たったら英雄の死も忘れられる
十年たったら戦争もなかったのとおなじだ
おれももっと早く記憶を棄てるかもしれん。

人さらいよ 骨の細い哀れな子供を
どこかで大事に育ててくれ
おれも生きてゆくだけは生きてゆくから。

身体の傷ならラップでうるおい湿潤治療、心の擦り傷にはお酒でうるおい治療、なんて。今読むと、ちょっと茶化したくなる”70年代の男の香り”がします。

「ジェノサイド」高野 和明

genocide出版:角川書店
2011年3月発行

このミステリーがすごい!2012年版」国内編第1位
「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門 第1位
第2回山田風太郎賞受賞
35万部突破!ベストセラー爆走中!!

と、帯に華々しい惹句が並び、その人気度を誇示しているのが、本書「ジェノサイド」です。
さらに
「読み始めたら眠れなくて、朝4時まで読んでしまいました。/谷原章介」とか、
「この物語は、人類の行方を予言している/中江有里」とか
「己の血に誇りを持ち、己の知をもって未来と世界を築いていく。日本人にはそれができると信じている。/杏」
「超面白かったです!『アバタ―』を3本分見たくらいの達成感があります!/鈴木おさむ」
など、有名人のレビューが並べられ、読者の興奮度と出版社の意気込みが伝わってきます。

この手の売り込みに乗せられて、読んでみたらがっかりということもままありますよね。
しかし、当サイトの「映画と読書」でも、ああるさんが「壮大なスケールで、すごい。」と評していたので、文庫化されるのを待っていられなくなり、単行本をブックオフで手に入れました。

「ミステリーは文庫で!」のマイルールを破って読んだ本書ですが、面白かった!大画面3Dサラウンド映画を観ているようでした。アフリカと日本とホワイトハウスを行ったり来たり。
とは言え、内容的には現在私が生きているこの世界の、ダークな側面を次から次へと見せられるものであり、面白がってばかりはいられないのだけれど。

ネット検索依存症の私は、気になるワードを検索しながら、この本を読みました。
私が調べたのは以下のワード。

  • ジェノサイド
  • ハイズマン・レポート
  • シリア 拷問施設
  • 肺胞上皮細胞硬化症
  • 単一遺伝子疾患
  • 第一次アフリカ大戦
  • ルワンダの大虐殺
  • 変異型GPR769
  • 世界終末時計
  • ピグミー
  • 素因数分解 RSA暗号
  • 人類の進化
  • 幼形成熟
  • 全世界盗聴システム エシュロン
  • ヒト加速領域Ⅰ
  • FOXP2
  • ツングースカ大爆発
  • 韓国語 情 ジョン
  • ビラ人
  • アロステリック
  • 武装無人偵察機プレデター
  • 「ヒトと進化」
  • 「ウィルス進化論」

本書の中では、「全世界に普及しているアメリカ製のコンピュータのOS全品に、合衆国の諜報機関に通じるバックドアが仕込まれている」というトンデモナイ話が出てくるのですが、先週、元CIA職員の内部告発がニュースで流れ、トンデモナイ話と思ったものが、俄に信憑性を帯びてきました。
内部告発は、「NSA(米情報機関の国家安全保障局)がPRISM(プリズム)という暗号名のインターネット監視システムによって、マイクロソフトやヤフー、グーグル、フェイスブックなどのサーバーからユーザーの電子メールや写真、利用記録などの情報を収集していた。さらに、バラク・オバマ大統領がアメリカのサイバー攻撃の『標的』となる国外の人物をリストアップするようNSAに要請していた」(「グーグルやフェイスブックの個人情報を収集して監視する米政府の秘密が明るみに」参照)というもの。

いつ誰に狙われるか分からないからと、盗聴やハッキングによって他人の個人情報を盗み出し、常に行動を監視し続けるという行為は、個人がやったら刑務所行きか精神鑑定もの。
国家レベルでやればテロ対策という大義名分が与えられます。
「安全保障」のためには「言論の自由」を犠牲にするのもやむ得ない、という世論の声も大きいようです。
日本も時勢に乗り遅れまいと、「国家安全保障会議(NSC:National SecurityCouncil)が創設される」ことになるそうです。(「“スパイ天国”日本に国家安全保障会議設置 CIA機能もない、体裁だけの機関」参照)

世界を盗聴、監視し続ければ、果たして世界は平和になるのか、疑問に思います。
むしろ、世界終末時計の針を進めるだけなのでは。
いえ、そもそも現人類の権力者たちは、平和なんて望んでいないのでは。

「過去20万年間に亘って殺し合いを繰り返してきた人類は、常に他集団からの侵略に怯え、疑心暗鬼が被害妄想寸前の状態で維持され、国家なる防衛体制を作り上げて現在に至っている。この異常な心理状態は、人類が遍(あまね)く共有しているために異常でなく正常と見做される。これが〝人間という状態”だ。
そして、完全なる平和が達成されないのは、他者が危険であるという確固たる証拠を、互いが己の内面に見ているからだ。人は皆、他者を傷つけてでも食料や資源や領土を奪い取りたいのだ。その本性を敵に投影して恐怖し、攻撃しようとしているのだ。」(「ジェノサイド」から抜粋)


追記:
元CIA職員の内部告発については、2014年に『「暴露」スノーデンが私に託したファイル/グレン・グリーンウォルド』という本が出ています。