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「もっとヘンな論文/サンキュータツオ」私の憧れ-研究の世界!

中学生のころ、私は研究者という仕事に憧れていました。
大学に行って研究室に入り、誰も取り組まないようなニッチな研究対象をみつけ、生涯をかけ成果を出すこともなく死んでゆく、そんな無名の研究者になりたい。と夢見たことがありました。なんかロマンチックな憧れ。子供らしい!

けど、今思うと本当のところは、研究所を自分の部屋代わりにして引きこもっていたいだけなのかも。まあ、変種のニートライフ願望ですね。
〝成果を出すこともなく”というところに、研究に打ち込む本気度が感じられない、〝社会人になりたくないんだ”という本音が見えます。

そんな過去の記憶が、この『もっとヘンな論文』というタイトルに共鳴し、読んでみることにしました。
そう、“ヘンな論文”とは、世の中の人が研究しようと考えたことがないだろうと思われるニッチな事象に、人生のある時間を費やした人々の成果を、形に残したものです。

本書で紹介されている主要な論文は以下の10本

  1. 「プロ野球選手と結婚するための方法論に関する研究」
  2. 「『追いかけてくるもの』研究 -諸相と変容ー」
  3. 「縄文時代におけるクリ果実の大きさの変化」
  4. 「竹取の翁の年齢について」
  5. 「『起き上がるカブトムシ』の観察 -環境-行為系の創発」
  6. 「曖昧さが残る場所ー競艇場のエスノグラフィー」
  7. 「『過去生の記憶』を持つ子供について -日本人児童の事例ー」
  8. 「マンガの社会学:鍼灸・柔道整復の社会認知」
  9. 「花札の図像学的考察」
  10. 「『坊っちゃん』と瀬戸内航路」

番外編として

  1. 「男女の下着の嗜好性と印象の評価」
  2. 「デート中の性行動の期待と正当性についての男女の認知差ーデートの誘いとデート内容が及ぼす影響ー」
  3. 「青年期における恋愛と性行動に関する研究 デート状況と性行動の正当性認知との関係」
  4. 「片手袋研究」
  5. 「メロスの全力を検証」

以上の論文について著者のサンキュータツオさんが、芸人みたいなツッコミを交えて愛ある解説をされているので、楽しく読める本となっています。

サンキュータツオさんは、「研究は、なにも大学院に進学し、修士論文や博士論文を書いてどこかの組織に所属しなければできない、というものではない。
誰でも研究者になれる」と書いていて、私の子供時分の夢にも厳しくツッコミを入れられた気がしました。
検索してみると、実際に芸人さんで、漫才コンビ「米粒写経」のツッコミの方ということ。私が知らなかっただけで有名な方なのかもしれませんが。
YouTubeに公式チャンネルがあります。映画や書籍などについてのマニアックなトークが面白くて、さっそくチャンネル登録しました。

本書『もっとヘンな論文』の中で、よくぞ研究してくれました!と個人的に感動した論文があります。
2013年度に発表された「メロスの全力を検証」です。
これはメロスが妹の結婚式に出席して帰ってくるまでの3日間を、距離や行動、かかった時間などをまとめ、文学を数学的に検証した論文です。
そして検証の結果、メロスはほぼ歩いている!!

『走れメロス』は、たぶん中学の国語の教科書で読んだと思いますが、あの物語のどこが良くて教科書に載せられているんだろうと、ずっと疑問に思っていました。
メロスは自分の欲望のために親友を犠牲にする身勝手な奴だし、人間不信から国民を処刑しまくるサイコパスな暴君が二人の友情に「感動した!」とかで、あっさり改心するって話ですよ。中学生でもすんなりとは呑み込めない無理筋なストーリーだと思うのですが。
なのに私が受けた授業では、単に美しい友情物語として語られたような覚えがあります。
中学・高校の国語教科教員免許を持っている、サンキュータツオさんによると、「『走れメロス』は国語科でも教え方が複数存在する単元として有名」だそうです。「果たして友情に厚いだけの男なのかどうか」ということを考えてもらいたいとする先生もいるらしい。
先生から「君たちはどう思う?」という問いかけがあり、生徒同士でディベートするような授業だったら、『走れメロス』は中学生に人間について、いろんなものの見方を考えさせる、いい教材なのかもしれません。
この「メロスの全力を検証」を書いたのも、中学二年生です。
きっと私同様メロスに何かしら疑惑を感じていたに違いありません。

ウィキペディアによると、『走れメロス』の中に書かれている「距離については文学的言い回しに過ぎず、実際に計算することは不可能」という説もあるようです。私としては「メロス徒歩説」に納得しているのですが、本当に計算が不可能な話なら、メロスにとっては風評被害となる論文でしょうか。それだとちょっと残念です。

まあでも、何はともあれ、疑問を持ったら研究してみる。研究したら検証結果を論文という形にする。論文を書いたら世の中に発信する。それが研究者の使命です。
「成果を出さなくてもいいなんて、研究をなめんなよ」と、中学生のころの自分を叱りたくなった一冊でした。