人間はどこまで耐えられるのか-辛い環境に追い込まれたとき、心はどこまで耐えられるか、という話ではなく、生きるか死ぬかの極限状況における、肉体そのものの限界について書かれた本です。
著者は「オックスフォード大学の生理学部教授で、インシュリンの分泌に関する第一人者」だそうです。学者の書く科学の本ではあるけれど、ユーモアある軽妙な語り口に、専門的知識がない私にも楽しく読める本になっています。ただ人間の命の限界を扱っているだけに、ユーモアもちょっとブラックになりがちですが。
本書は
第1章、どのくらい高く登れるのか。
第2章、どのくらい深く潜れるのか。
第3章、どのくらいの暑さに耐えられるのか。
第4章、どのくらいの寒さに耐えられるのか。
第5章、どのくらい速く走れるのか。
第6章、宇宙で生きていけるのか。
第7章、生命はどこまで耐えられるのか。
と7章編成になっています。
私は高山病になるほど高い山に登ったことはありません。スキューバダイビングも経験がないし、その前に泳ぐことすらできないカナヅチ。凍てつく冬のバルカン半島に行ったこともなければ、クウェートの灼熱の砂漠の存在すら知らない。50mを全速力で走って8.8秒(中学時のタイム)の鈍足だし、宇宙飛行も今後する予定はない。
危険なことや危険な場所に自ら飛び込むような冒険心も運動能力も、一切持ち合わせていないのです。
それに引き替え、世の中にはなんと冒険心あふれる人々が多いことか。
極限の過酷な環境のもと、命がけで仕事をする人々がなんと多くいることか。
そして、自らの身体を実験台にして、肉体的限界を見極めようとする研究者たちや、限界に挑戦した探検家や冒険家やアスリートたちの成功と失敗の歴史。
期せずして極限状態に投げ出されてしまった人々の死と生還の記録。
それらの貴重なデータによって、テクノロジーが発達し、「人間の限界」が更新されていく・・・
本書は極限状態と戦っている人たちのエピソードが興味深く、冒険をしない私には感動を覚える1冊となりました。