月別アーカイブ: 2011年12月

「冠婚葬祭のひみつ/斎藤美奈子」「日本人のしきたり/飯倉晴武」

仕事納めの28日夜から風邪を引き、貴重な正月休みも台無しになっています。
起きているのも辛いが、寝てしまうには哀しい大晦日の夜。せめてブログの一つも書いておきたい。

最終日までついていない今年一年を振り返ってみると、春から、お葬式やお墓、宗教について考えさせられるいくつかの祭事があったため、関連した本を数冊読みました。
その中で面白かった2冊をメモしておきます。
kankonsousai「冠婚葬祭のひみつ」斎藤美奈子/岩波新書


冠婚葬祭、それはきわめて不思議な、そしておもしろい文化である。
まれにしかないビッグイベントだからだろう、冠婚葬祭に遭遇すると、人はみな、そわそわと浮き足立つ。日頃は気にもしない「しきたり」「作法」「マナー」「常識」「礼儀」などが急にパワーを発揮するのも冠婚葬祭。日頃は信じてもいない宗教が急に必要になるのも冠婚葬祭。日頃は忘れている「家」の存在を強烈に意識するのも冠婚葬祭だ。(「はじめに」より抜粋)


私は無宗教者である上に、「しきたり」「作法」「マナー」「常識」「礼儀」という言葉自体に、軽く拒絶反応を持つ者です(ついでに言えば「品格」なんてのも)。
こんな私でも社会生活を営む以上完全に避けることのできないのが「冠婚葬祭」。
そして何故かしら、親戚付き合いにおいてもめごとの種を生み出し、火を点けるのも「冠婚葬祭」の場。

そもそも最初にその、「作法」や「マナー」とかを思いついたのは誰なんだ?冠婚葬祭の「常識」とか「礼儀」とか、いったい誰がどうやって決めているの?って疑問に思いませんか?

気持ちをカタチであらわしたものが「作法」「マナー」になっていくんでしょうけど、それが「しきたり」となっていくと、何故かしら気持ちよりカタチが大事と押し付けがましくなっていくように思います。
この本は、「しきたり」に逆らうのは難しい、と思っている方が読むと、ちょっと気楽になれる1冊 です。

sikitari もう1冊は、
 「日本人のしきたり」飯倉晴武[編集]/青春新書

日本人の信仰のルーツや人生の節目節目で執り行われる行事の由来やしきたりなどを、簡潔に、また、中国や韓国から移入された思想や宗教が日本的にアレンジされ、時代の変遷とともに廃れたり、形を変えていく様をさらりと、紹介しています。

「正月行事のしきたり」の項を読むと、「初日の出」を拝む習慣は、古来からの習慣かと思っていたら、意外と近年に始まったことのようです。
おせち料理はもとは正月料理ではなかった」とか、「年男とは、もともとは、正月行事を取り仕切る男のこと」とか。
クイズ番組で出題されているようなトリビアが満載ですね。

年末最後の大晦日は、「新年の神様である年神様が来るのを、寝ないで待つ」のがしきたりだそうです。でも、もうこれ以上起きて居られない。年神様を万全の体調でお迎えできなくて残念です。

皆さまはどうぞ良いお年をお迎えください!!

「本の本」斎藤 美奈子

honhon最近、“斎藤美奈子”に嵌って、ブックオフで見つけるや必ず購入しています。
きっかけは、『打ちのめされるようなすごい本』(米原万理/文春文庫)の中で米原万理さんが「斎藤美奈子の本は全部読んでいる」とファンぶりを披露していたので、じゃあ、私もちょいと1冊読んでみるかと『モダンガール論 』に手を出したのが始まり。
気が付くと
『誤読日記』
『読者は踊る 』
『物は言いよう』
『冠婚葬祭のひみつ』
『それってどうなの主義』
文章読本さん江
『妊娠小説』
『文壇アイドル論』
『文学的商品学』
と読み続け、もう一冊、あと一冊、もう無いのか?もっと読ませろ!と酒乱気味になっていました。
文庫化されている作品が少ないせいか、売れっ子作家ではない(たぶん)せいか、大型書店でも棚に無く、取り寄せ扱いの物が多く、結局はアマゾンで中古本を購入。 ついに、コップ酒じゃあ満足できず一升瓶をラッパ飲みするアル中(実際にはこんな人見たことないけど)さながら、厚さ5cm、ページ数にして730ページの『本の本』まで手に入れてしまいました。 そしてそれを一気読み・・・というわけにはさすがにいきませんでしたが、読んでいる間の数日間の楽しかったこと。気持ちよく酔わせていただきました。

『本の本 1994-2007』(筑摩書房 2008年)は、斎藤美奈子さんが「1994年7月から2007年3月まで、新聞、雑誌など各種媒体に発表した書評および読書エッセイの詰め合わせ」というものです。
『本の本』の索引をもとに私が数えたところ、この本の中で名前が挙がった作家の数は633人。(数え間違いがあったらお許しください。)
取り上げられた作品数は、面倒なので数えませんでした。

私は新聞を取っていないし、最近では雑誌もめったに読まないので、「書評欄」というものを目にする機会があまりありません。だから「新聞や雑誌の書評欄なんて、評論家が出版社や作家の意向に沿った提灯記事を書いているに過ぎないのだろう」てな冷めたイメージを勝手に持っていたのですが、世間知らずでした。

斎藤美奈子さんは小説・随筆はもとより、学問書、歴史書、文化論、文化史、趣味・教養系と幅広いジャンルの大量の本と一冊一冊、真摯に向き合って、その作品の上っ面を読んだだけでは見えてこない面白さを的確な言葉で読者に伝え、ここまで言っていいのか?仕事が来なくなるのではないか?と読者が心配になるほどの毒舌でもって作品のダメだしをビシバシとやってのける。この毒舌が痛快です。くせになりますよ。

それにしても、仕事とはいえ大変な読書量です。 日頃私は”趣味は読書”なんて放言していますが、この『本の本』の中で、読んだことのある本はたった12冊でした。
『平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺信彦博士、並びに、』(石黒達昌/福武書店)という奇抜なタイトルの本が存在することにも驚きました。
聞いたこともない作家名も盛沢山。 すぐにでも読んでみたい気になる本も20冊ほどリストアップできて、収穫の多い1冊となりました。

私ではこの『本の本』の魅力を十分にお伝えすることができないので、興味のある方は『松岡正剛の「千夜千冊」遊蕩編』(1927夜)を読まれることをお勧めします。
※『松岡正剛の「千夜千冊」遊蕩編』(1927夜)ページはリンク切れとなっています。
『松岡正剛の「千夜千冊」』サイトはこちらから(
https://1000ya.isis.ne.jp