出版社: 文春文庫(2006年10月)
第17回(2004年) 三島由紀夫賞受賞
タイトルの“ららら科學の子”は、ご存知「鉄腕アトム」のテーマソングのワンフレーズですが、このタイトルからは想像しにくい内容の作品です。
1968年、20歳だった主人公は学生運動による殺人未遂に問われ、中国に密航した。文化大革命、下放を経て30年ぶりに帰国した彼は、まるで浦島太郎。未来にタイムスリップしたかのような現在の日本を、違和感を持って見つめる。
彼が変えたいと思った30年前の日本と、30年間過ごした中国の生活と、50歳となった現在の自分への想いが交錯する中、幼くして別れた妹の行方を探す、といったストーリー。
1960年代の空気を知っている者にとっては、当時と現在を引き比べ、ノスタルジックな気分にさせられる1冊です。
著者の矢作俊彦(やはぎとしひこ)は1950年生まれというから、全共闘、文化大革命、天安門事件など、まさしく著者自身のリアルな時代感覚で書かれている作品だろうと思います。そして50歳という年齢に対する想いもまた。
実は、私が矢作俊彦の本を読むのは、これで3冊目です。
そして、すんなりスムーズに読み終えたのは、この作品だけ。
最初に読んだ「THE WRONG GOODBYE―ロング・グッドバイ 」(角川文庫 /2007年)は、私好みのハードボイルドタッチであるにも関わらず、なかなかページを読み進めることができなかった。
矢作ワールドに不慣れだったせいもあるけど、舞台が横須賀中心で、基地との関わりや街の背景にある程度知識が必要で、知識も土地勘もない私には、ちょっと入り込みにくいところがありました。
途中で何度も他の本に心を移し、それを読み終わると「THE WRONG GOODBYE」に戻って続きを読み、登山のように重い足取りで半年くらいかけて最終ページにたどり着きました。
読むのを完全に放棄しなかったのは、主人公である神奈川県警の刑事・二村永爾が魅力的だったのと、物語の結末が知りたかったから。しかし、あまりに時間をかけ過ぎたため、少々疲労感が残った作品でした。
2冊目は「あ・じゃ・ぱん!(上・下)」 (角川文庫/2009年) (第8回(1998年) Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)
第二次世界大戦後、日本はベルリンのように東西を隔てる壁によって、東日本と西日本に分断される。東日本は東京を首都とする共産主義国家。西日本は大阪を首都とする資本主義国家で標準語は関西弁という、大阪市長が読んだら喜びそうな設定です。
戦後日本の壮大な歴史パロディ。
これは面白そう!と上下まとめ買いしたのが、8ヶ月以上前の話。
この本もスルスルとは読むことができず、ようやく上巻の三分の二程度まで来ましたが、これ以上読み進めることが億劫になり、ついにギブアップ。
歴史パロディだからオリジナルの歴史を正確に知らなければ、偽歴史の面白さが分かりません。いえ、昭和史など知らなくても、ただ矢作ワールドを楽しめばいいのかも知れませんが、実在の人物や実際に起こった歴史的事件と偽歴史が混合されているので、読んでいるうちに微妙な部分で事実か虚構か判別がつかないところが、私にはちょっと面倒な気分でした。
歴史だけでなく、いろんな文学の引用、というかパロディも散りばめられているらしいので、戦後の日本史に詳しい人、文学作品を多く読んでいる人には、きっと楽しめる作品だろうなあと思います。
それにしても「THE WRONG GOODBYE」に疲れ、「あ・じゃ・ぱん!」でギブアップしながらも、私は何故懲りずに3冊目を買ってしまったのか?
自分でも分かりません。
でも、いずれまた矢作作品に手を出してしまいそうな予感がしています。