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詩人、岩田宏さんのこと

iwatajpgTVなどで耳にした曲が気に入って、アルバムを借りて聞いてみると、結局その一曲しか聞くものがなかったりするのはよくあることです。
私にとって音楽CDは繰り返し聞くことが前提で、読書するみたいにいろんなジャンルをあれこれ聞いてみたい、という興味の対象ではなく(音痴だし、カラオケ行かないし)よっぽど気に入ったものじゃなきゃ買いません。
CD一枚丸ごと好きじゃなきゃ聞きたくもない、というところで選んでこの10年、丸ごと好きになったアーチストは1組しかいないため、この10年、ずうっと同じアーチストのCDをカーステレオで繰り返し聞いています。

私にとって詩集も音楽と似ています。
好きな詩に出会ってその人の詩集などを本屋さんで立ち読みしてみると、一冊の本から好きな詩はその1編しかなく、買うまでに至らないことが多い。もっとじっくり読んでみようと購入したものもあるけど、そういう本は年月を経ていつのまにか私の手元から消えています。

昔購入して今でも手元に残っている数少ない詩集の一つに「岩田宏詩集」があります。
今ではほとんど開くことはないのですが、詩の断片はひょいと現れて記憶の中で唄いだすことがあります。

ねむたいか おい ねむたいか
眠りたいのか たくないか
ああいやだ おおいやだ
眠りたくても眠れない
眠れなくても眠りたい
無理な娘 むだな麦
こすい心と凍えた恋
四角なしきたり 海のワニ

「いやな唄」から

酔っ払いの、韻を踏んだ戯言、といえないこともないけれど。
彼の詩はどれも酔い加減と目覚め加減がちょうどいい加減で、気に入っています。

そういえば岩田宏さんてどんな方なんだろう。今も詩を書いておられるのかなあと検索してみると、意外な事実が分かりました。
岩田宏さんは1975年頃から詩を書くのはやめて、その後小説など書かれているようですが、「ロシア語・英語・フランス語に堪能な名翻訳家としても知られている」とありました。(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
翻訳家としては本名の小笠原豊樹名義で推理小説やSFなどを多く手がけているとのこと。以前話題になった、ソルジェニーツィン「ガン病棟」の訳者でもあり、SFではレイ・ブラッドベリ の翻訳も。
私はレイ・ブラッドベリの本はほとんど読んでいるので、知らず知らず岩田宏さんの仕事に何度も出会っていたようです。

検索していると、私同様に彼の詩を紹介しているブログにいくつか行き当たりましたが、その中でちょっと驚きのサイトがありました。
蛙の庭・縦書きたい写真日記 縦書きHTMLソース作成「縦書きたい」を使った縦書きブログ日記』
以前企業サイトで縦書きを眼にしたことはありましたが、個人ブログでは初めてです。
できるんですねえ、縦書き日本語ページ。
縦書きの美しいページで詩が紹介されていて、岩田宏さんの詩は戯言にみせかけて、実はとても美しく叙情的なとこがあるのだってことも伝わってきます。

私もどれか好きな一編をここに紹介しようと、改めて詩集をめくってみましたが、詩集一冊丸ごと好きなので選びづらい。それにほとんどの詩が長いのです。そこを無理やり抜書きしてみました。

「悼む唄」

おれに妹をつくりもせず
両親は死んだ
おれは念力で妹をつくりだし
ふたりで
タオルを持って
深夜のプールの
ざらざらのふちに立ち
泳ぎ寄るマリリン・モンロウを迎える
雨雲 切れろ 月 顔を出せ

妹はカルキの匂いをいっぱいに吸いこみ
マリリン・モンロウは仰向いて語りかける
「タオル貸して!
水は詩のように
流れてなめらかで
拭くのがもったいないけれど!
この一年間
あなたは何をしてらした?
死は夢みたい
夢は水みたい
この世でもあの世でも
まじめはまじめ ぐうたらはぐうたら」
髪の濡れた女の右手を妹が
左手をおれが掴んで
一挙に引き上げる。