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  • 「最後の講義 完全版 福岡伸一/どうして生命にそんなに価値があるのか」
  • 「最後の講義 完全版 福岡伸一/どうして生命にそんなに価値があるのか」

    新型コロナウィルス関連で、生物学者の福岡伸一教授という方が、ウイルスは“進化”の一つだと言っているという話に興味を持ち、amazonを覗いてみました。
    数ある著書の中から、”昨日の私”と”今日の私”は少しだけ入れ替わっている!という帯の惹句に惹かれ、「最後の講義」を読んでみることにしました。

    本書は、ウィルスの話は出てきません。
    「生命」がなぜ、38億年もの長い間連綿と続いているのか、その謎を解く、といった内容になっています。

    謎を解くキーワードが二つ。
    エントロピー増大の法則」と「動的平衡」です。

    まず、エントロピー増大の法則とは何か?
    以前何かの本でこの言葉に出会い、気になってウィキペディアを訪れたことがありましたが、そこには見知らぬ数式が並んでいて理解を諦めたものでした。
    しかし、今回本書を読んでみると、それは数式よりももっと身近で馴染のある“現象”であることが分かりました。
    エントロピー増大の法則とは、

    宇宙のシンプルな大原則で、秩序あるものは秩序がない方向にしか動かない

    (第2章「1年前の自分は別人である」)

    ということだそうです。
    具体例として、「きれいに整理整頓した机の上も2、3週間もすればだんだん紙が積み重なってきたり、本が崩れてきたり、珈琲のしみがついたりして、乱雑になっていきます」ということを挙げています。
    なんと机の上が散らかるのは、宇宙の大原則、自然の摂理だということなんですね。
    ということは、私の作業用机の上がいつも、山積みの本やファイルや紙や布や何かの空袋やホコリやいろんなものでグチャグチャになっているのは、実はエントロピー増大の法則のせい。宇宙の大原則のままに放置した結果だということです。

    もし私が机をきれいに長く使いたいと思うなら、エントロピー増大の法則に抗うことが大事なようです。
    つまり、不要な物を捨て、必要な物をあるべき場所にしまい、汚れたところを拭い、ホコリを払って、常に秩序を保つようにしなければならない、というわけです。
    それでも私の机は、私亡きあと粗大ごみとして捨てられ、10年そこらでボロボロの木屑となってしまうはず。そのうち跡形もなく無くなってしまうでしょう。
    もっと頑丈で立派な石造りの建物であっても、数千年の時の流れの中でエントロピーが増大し、風化していく運命にあるのです。

    しかし「生命」は滅びることなく、38億年連綿と続いている。
    それはなぜなのか?
    それは私たちの体というものが、常にエントロピー増大の法則に抗って、生きながらえているからだと、福岡教授はいいます。

    エントロピー増大の法則が襲ってくるよりも先回りして、自分自身を積極的に壊し、作り替えるという動的平衡を繰り返すことによって、秩序を作り直している。

    (第2章「1年前の自分は別人である」)

    「生命」である私たちの体の中身は、流動的に、絶えず動いていて、合成と分解を繰り返すことでバランスをとるという特性があり、それを動的平衡と名づけています。

    動的平衡によって、体の細胞の中身は常に少しだけ入れ替わっています。
    1年もすれば今日の私とは、ほぼ別人にとなっているほどに入れ替わっているそうです。もちろんこれは物質レベルでの話ですが。

    でも、「身体は絶えず入れ替わるのに、なぜ老けるのか?」
    「脳も入れ替わるのに、どうして記憶は消えないの?」
    とか、次々疑問がわいてきますね。
    福岡教授は、数々の疑問に答えつつ、画家フェルメールについて熱く語ったりもして、「生命とは何か?」という宇宙規模のテーマを、楽しく読ませる本となっています。

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