ハヤカワ文庫/2012年
八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に…非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作。
このミステリーがすごい!2013年版海外編。2012年週刊文春ミステリーベスト10海外部門第1位。
内容(「BOOK」データベースより)
表紙のイラストが児童書みたいなトーンなので、なんとなく読むのをためらっていたのですが。
アメリカ探偵作家クラブ賞、英国推理作家協会賞のダブル受賞。しかも「このミステリーがすごい!2013年版海外編 第1位」。アメリカでも英国でも日本でもファンを獲得しているミステリーとなるとやはり捨て置けない。
「たぶん、きみはぼくを覚えているだろう。思い出してもらいたい。1990年の夏のことだ。」
という書き出しで、主人公マイクの獄中記が始まります。
主に17歳の夏から20代後半の現在まで。
犯罪に手を染めていない頃のマイクと、犯罪者として転落した日々を送るマイクの、二つの人生を行ったり来たりする形で、物語は進んでいきます。少し勿体をつけ過ぎかなという構成ではあるけど、時系列通りに書いては、やはり面白くない。
この時間を行ったり来たりするごとに、物語の結末が気になっていくのです。
そして、これはたぶん翻訳者(:越前敏弥さん)の手腕によるところが大きいのではないかと思いますが、少し感傷的な、でも感傷に過ぎることのないバランスで書かれている文体が、幼くして人生を諦観してしまったマイクの、孤独な世界を表しているように感じられました。
マイクは淡々と書いているのに、そこが切ない。読んでいる私の方がだんだん感傷的になってしまい、早い段階で、きっと私は泣く、と予感しました。
実際に、516ページの7行目で泣きました。それから残り47ページを一気に涙目で読みました。
ラストを確かめずには眠れない。
確かに血なまぐさい場面もあって、「非情な犯罪の世界に生きる少年」の物語なのだけど。ピッキングやダイヤル錠の解錠場面は凄く臨場感があって、とてもスリリングなのだけど。何よりも、マイクのピュアな恋の行方が気になります。
口をきけないマイクが彼女と心を通わせる、その冴えた手段が胸を打ちます。
やっぱり、この本は児童書とまでは言わないけれど、青春小説だなあと思う。
「自分がどんな体験をしたかを知る人が世界じゅうにただひとりでもいて、それが自分を真に理解してくれる人であるなら、ほかには何も要らなかった。」
というマイクの心のうちは口に出して言うことはできない。でもそれを全力で身を以て実現していく物語なのでした。
アメリカ探偵作家クラブ賞受賞、英国推理作家協会賞受賞だからといって、バリバリのミステリとは限らないようです。
付け加えると、2011年、アメリカ図書館協会主催の『アレックス賞』というのも受賞しています。「12歳から18歳のヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊」に贈られる賞だそうです。