月別アーカイブ: 2015年7月

「解錠師/スティーヴ・ハミルトン」きっと泣く予感がする1冊


ハヤカワ文庫/2012年

八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に…非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作。
このミステリーがすごい!2013年版海外編。2012年週刊文春ミステリーベスト10海外部門第1位。

内容(「BOOK」データベースより)


表紙のイラストが児童書みたいなトーンなので、なんとなく読むのをためらっていたのですが。
アメリカ探偵作家クラブ賞、英国推理作家協会賞のダブル受賞。しかも「このミステリーがすごい!2013年版海外編 第1位」。アメリカでも英国でも日本でもファンを獲得しているミステリーとなるとやはり捨て置けない。

「たぶん、きみはぼくを覚えているだろう。思い出してもらいたい。1990年の夏のことだ。」
という書き出しで、主人公マイクの獄中記が始まります。

主に17歳の夏から20代後半の現在まで。
犯罪に手を染めていない頃のマイクと、犯罪者として転落した日々を送るマイクの、二つの人生を行ったり来たりする形で、物語は進んでいきます。少し勿体をつけ過ぎかなという構成ではあるけど、時系列通りに書いては、やはり面白くない。
この時間を行ったり来たりするごとに、物語の結末が気になっていくのです。

そして、これはたぶん翻訳者(:越前敏弥さん)の手腕によるところが大きいのではないかと思いますが、少し感傷的な、でも感傷に過ぎることのないバランスで書かれている文体が、幼くして人生を諦観してしまったマイクの、孤独な世界を表しているように感じられました。
マイクは淡々と書いているのに、そこが切ない。読んでいる私の方がだんだん感傷的になってしまい、早い段階で、きっと私は泣く、と予感しました。
実際に、516ページの7行目で泣きました。それから残り47ページを一気に涙目で読みました。
ラストを確かめずには眠れない。
確かに血なまぐさい場面もあって、「非情な犯罪の世界に生きる少年」の物語なのだけど。ピッキングやダイヤル錠の解錠場面は凄く臨場感があって、とてもスリリングなのだけど。何よりも、マイクのピュアな恋の行方が気になります。
口をきけないマイクが彼女と心を通わせる、その冴えた手段が胸を打ちます。

やっぱり、この本は児童書とまでは言わないけれど、青春小説だなあと思う。

「自分がどんな体験をしたかを知る人が世界じゅうにただひとりでもいて、それが自分を真に理解してくれる人であるなら、ほかには何も要らなかった。」

というマイクの心のうちは口に出して言うことはできない。でもそれを全力で身を以て実現していく物語なのでした。

アメリカ探偵作家クラブ賞受賞、英国推理作家協会賞受賞だからといって、バリバリのミステリとは限らないようです。
付け加えると、2011年、アメリカ図書館協会主催の『アレックス賞』というのも受賞しています。「12歳から18歳のヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊」に贈られる賞だそうです。

「短歌の友人/穂村弘」

河出文庫/2011年
『短歌の友人』は、歌人・穂村弘さんが自分以外の人の作品を読み続けてきて、「頭の中に面白いなと思う短歌が少しづつたまって」いった作品について論じた、初めての歌論集です。伊藤整文学賞受賞。

第1章 短歌の感触
第2章 口語短歌の現在
第3章 <リアル>の構造
第4章 リアリティの変容
第5章 前衛短歌から現代短歌へ
第6章 短歌と<私>
第7章 歌人論

目次だけを並べてみると、お堅い学術書的装いです。
取り上げている短歌は、現代短歌を代表する穂村弘さんならではのチョイス。ニューウェーブ短歌とか、前衛短歌とか言われている現代歌人たちの作品が多い。例えば、一番最初に掲げられているのは、

電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、て言って言って言ってよ
東 直子

この一首目に私はたじろぎました。苦手だな、というのが正直な感想です。
現代短歌の中には、日常語を使って表現されているにもかかわらず、私の住む日常とは別の世界の出来事のように感じられる歌があります。一言で言えば、私には共感しにくい歌。面白さが分からない私が無粋なのか?と自問したくなる歌。
著者は作品の面白さを論理的に構文解析したりしていますが、読み始めは、歌を作ることのない私には、歌人による歌人向けの指南書みたいに思えました。

しかし、「第3章<リアルの>の構造」あたりから俄然面白くなってきましたよ。
「酸欠世界」、「棒立ちの歌」、「言葉のモノ化」、「モードの多様性」、「モードの乱反射」、「『私』の価値の高騰」といった分析が、素人にも分かりやすい。
あるいは、「小さな違和感の強調が現実の手触りをアリバイ的に保証している」とか「<心>とは限りなくレベルダウンしてゆくものなのか」や「寿司屋を回転寿司屋に変える力」といった言い回しで、短歌を通して現代(戦後)社会を鋭い観察者の目で分析してみせる。
なおかつ著者はとても客観的にそして正直に短歌と歌人としての自分を語っています。
その辺も読んでいて面白く、いつものエッセイとはまた一味違う穂村弘さんの魅力を感じました。

穂村弘さんは、思いのほか説得力ある短歌の伝道師のようです。
読み終わったころには現代短歌を、逆に戦後社会の在り様を通して読み直すと、そこにリアルな共感以外の面白さを感じることができる、、、ような気がしてきました。少なくても私は、最初感じたような苦手意識は無くなりました。

ところで、最近、短歌エッセイ集「物語のはじまり/松村由利子」を再読したばかりなので、ついつい2冊の本を比べてしまうのですが、面白いことにどちらも表紙は河川に架かる鉄道橋がモチーフになっています。
これは単なる偶然なのか?と思ったらどちらも同じ装丁家(間村俊一氏)によるカバーデザインでした。

とはいえ受ける印象はずい分違いますね。
『物語の始まり』の鉄道橋には電車が走り、青い空、草茂る土手。イラストレーションなのに、すがすがしいリアルな日常が感じられる。
一方、『短歌の友人』は薄ら淡く背景に同化したような風景。この鉄道橋に果たして電車が通ることがあるのか。いったいどことどこを繋ぐ橋なのか。写真なのに本物の橋なのかと疑わしくなるほどリアル感が薄い。

2冊の本に掲載されている短歌は、ほとんど被ることのない作品が並んでいたのですが、例外が4首。しつこく読み比べて、見つけました。
どんなに感性が違って見える世界の住民たちでも、同じものを見て「ああ、これいいね」と言う時があるんだと、ちょっとほっとするような、少しさびしいような複雑な気持ち。なんだろう?自分でもよく分かりませんが・・・。二冊の本のどちらにも取り上げられていた、その4首をここに記しておきます。

大きければいよいよ豊かなる気分東急ハンズの買物袋
俵 万智

馬を洗はば馬のたましい冱(さ)ゆるまで人戀(こ)はば人あやむるこころ
塚本 邦雄

死に近き母に添寝のしんしんと遠田(とほた)のかはづ天に聞ゆる
斎藤 茂吉

日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも
塚本 邦雄

 

ブラウザチェックツールを使ってみたらIE8で完全にアウトだった!!

そろそろHTML5について本気で勉強しなければと本を購入しました。
と、その前に久しぶりにブラウザチェックをすることに。
Windows7を使い始め、ブラウザをGoogle Chromeに変えてからというもの、IEの存在を忘れつつありました。
しかしWeb上ではまだまだIEを使っている人が多いはず。そこでIEに特化したブラウザチェックツールを手に入れることに。

「IEなどの複数のブラウザチェックができる便利な無料ツールまとめ (NESTonline Blog)参照」

上記サイトで紹介されていた、無料ソフトIEテスタ」をインストールしてみました。
これがなかなかの優れもので、IE5.5~11まで一括して動作確認ができます。
ダウンロードサイトはこちら → http://www.my-debugbar.com/wiki/IETester/HomePage

下図がIEテスタ」上の表示画面です。

20150705-1

予想していたことですが、IE5.5と6ではレイアウトがガチャガチャに崩れていて観れたもんじゃありませんでした。でももう対応する能力がなくIE6以前については諦めることにしました。
しかし、残念なことにIE8でも下記図のごとく崩れていました。
いつからこんな姿になっていたのか?
Windows XPのサポートが終了しているとは言え、IE8を使っている人は多いと思われるので何とかしなければと思うのですが、今日のところはどこをどう修正したらよいのか分からずじまい。
しばらくは御見苦しい姿をさらしたままということになりそうです。



こちらは携帯やタブレットなどの表示を確認できるサイト「Responsive Design Testing」です。インストール無し、登録不要、web上で無料で利用できます。お手軽ですね。


「押川珠江(仕立服)山田利喜子(革)二人展Vol.2」見てきました。

昨日、『我が家de個展 ギャラリーときどき』に行ってきました。

開催から6日目ともなると、かなりの作品が売れてしまっていて、全作品を見ることはできませんでしたが、取り急ぎ少しだけご紹介します。

作家紹介

押川珠江・・・仕立屋

日常は、堀江町の自宅アトリエでお客様のオーダーを受けて仕立ててします。
2012年11月に初めてギャラリーセージで、山田利喜子との二人展を開催、この7月でアトリエ開設20周年の今年、二回目の二人展です。
サイズお直しします。仕立ての良さを味わってみてください。・・・押川珠江

押川珠江さんの仕立服は、ほとんど着物地を使ったもの。
私は右上の黒いバルーンワンピースが気に入りました。背中の金色のファスナーが大人な感じですね。

山田利喜子・・・革染色造形

小山田に亡父の生家があり、誰も住まない荒れ家・荒れ庭の管理傍ら、土間で革の染色をしています。
染まった革を持ち帰り、自宅でバッグなどに形作ります。
ちなみに、左の壁掛けは、その小山田の皺の大きな欅の木を見ながら去年染めました。(今回作成の)一番大きなバッグは、今年の欅を見ながら染めたものです。

・・・・山田利喜子

今回の作成の一番大きいバッグというのが下のトートバッグです。表と裏の二つのデザインが楽しめるバッグです。 

他のバッグ作品は後日改めて、山田利喜子さんのギャラリーサイト「皮革染色工芸」に画像をアップしたいと思います。
ところで、昨年の『山田利喜子 革の仕事展』の際、次回はぜひ販売して欲しいとお願いしていた革のルームシューズも出品されていました。
しかし、ほとんど売れてしまっていて、わずか3足を残すのみ。
最初は、左写真の白っぽいルームシューズが気にっていたのですが、サイズが合わず断念。

私のサイズに合うのが、1足だけあったので、足を入れるところ(ここは何と言うのか?)が、青色の皮のシューズを購入してきましたよ。

家に帰ってから床に置いてみると、奇麗な青色が何ともおしゃれ。履き心地も良く、満足の一品です。

追記:2015年7月3日

11点のバッグの画像を山田利喜子さんのギャラリーサイトにアップしました。「皮革染色工芸」Rikiko Yamadaをご覧ください。

riki011
riki010
riki009
riki008
riki007-1
riki006
riki005
riki004-1
riki003
riki002
riki012