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  • 「ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女」ダヴィド・ラーゲルクランツ“国民を監視する者は、国民によって監視される”
  • 「ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女」ダヴィド・ラーゲルクランツ“国民を監視する者は、国民によって監視される”


    2015年発行/早川書房

     

     

     

    職場に新しく入ったアルバイトの女性が、前職場を辞めた理由を話してくれました。
    そこは従業員用のロッカーがなく、従業員はバッグなどを籠に入れて休憩室に置いておくだけ。
    あるとき現金の盗難が相次いだため、防犯対策として休憩室に監視カメラが設置され、映像も音声も本社へ送られるようになったという。それがすごく嫌だった、と。

    それまで、会社側は従業員には物を盗む人などいないと、信用していたのだろう(たぶん)。だから、ロッカーなんか無くても構わないと考えていたのだろう(たぶん)。
    ところが現実に盗難が起こると一気に、休憩中の従業員を監視するという極端な選択をする。
    その選択の前に、従業員のために貴重品ボックスを設置するとか、職場環境の改善を考えてもよかったのではないかと私は思う。

    しかしまあ、実際にはロッカーを置かないのは経費節約のためであり、ロッカーや貴重品ボックスを人数分設置するよりも、監視カメラを1台追加設置する方が安上がりだろうし、休憩室にいる従業員を監視することに何らかのメリットが会社側にあるということなのだろう。
    常に監視していれば、人はよく働くと考えているのかもしれない。
    休憩時間に共謀して何かよからぬ企みをすることを、阻止できると考えているのかも知れない。
    あるいは、従業員には職場において寛ぎも息抜きもプライバシーも必要ない、と考えているのかもしれない。

    更衣室やトイレなどでなければ、休憩室に監視カメラを設置すること自体、違法ではないらしい。でも、労使間の信頼関係を損なうことは間違いないと思う。
    休憩時間が息抜きにならない職場は、ストレスが溜まる。

    しかし、この話題で一番気になるポイントはというと、世の中には他人の財布の中身を盗む人もいるが、監視カメラのデータを盗む人もいるっていうことです。そして、そっちの方が、はるかに被害が大きい。例えばこんなニュースがあります。

    防犯カメラ映像、ネット「だだ漏れ」のリスク

    先月もランサムウェア(身代金要求型ウイルス)によるサイバー犯罪が多発して、世界中に多大な被害をもたらしました。インターネットには高度なスキルと悪意を持ったハッカー(これをクラッカーと呼ぶ)がいます。防犯カメラのデータを盗むくらい容易いに違いないのです。

    というわけで、ここからが本題。
    天才ハッカーリスベットが活躍する『ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女』の話です。
    『ミレニアム』の前作を読んだ方はご存知のことですが、今回の『ミレニアム 4』の著者はスティーグ・ラーソンではありません。
    スティーグ・ラーソンは生涯のパートナー、エヴァ・ガブリエルソンと共に『ミレニアム』を1,2,3部と4部の途中まで執筆していましたが、第1部が発売される前に心筋梗塞で急死してしまいました。
    彼の死後発売された『ミレニアム』シリーズは大ベストセラーとなり、ファンの間ではエヴァ・ガブリエルソンによる続編が出るのでは、と期待する声もあったようですが、意外なことに『ミレニアム 4』はスティーグ・ラーソンとは全く無関係のダヴィド・ラーゲルクランツという作家が執筆することになりました。
    登場人物は同じだけど書き手が違うという作品です。
    私の感想としては、テレビ版の「ドラえもん」と劇場版の「ドラえもん」では登場人物にちょっとした変化がみられる、その程度の違いはあるような気がしました。
    シリーズのテーマとなっている<女性に対する蔑視および暴力>を憎む姿勢は相変わらずですが、リスベットよ、少し手加減していないか?と物足りなさを感じた部分もありました。ま、私がリスベットに過激さを求め過ぎているかもしれませんが。

    余談ですが、『ミレニアム』が<女性に対する蔑視および暴力>をテーマとすることと、リスベットの名前の由来には、深い理由があります。興味のある方はウィキペディア「ミレニアム (小説)」を読んでみてください。

    さて、今回の『ミレニアム』は、“ドラゴン・タトゥーの女”ことリスベットが、ネットワークの中をかけめぐり、謎の犯罪組織と対決するサイバー・サスペンスストーリーとなっています。
    手始めにリスベットは、監視国家アメリカの象徴と言えるNSA(国家安全保障局)のイントラネットに侵入し、自作の遠隔操作プログラムを使ってデータを根こそぎ盗んだりします。
    NSAから見ればリスベットはハッカーではなく、クラッカーだと言いたいところでしょうが、テロ対策を大義名分に掲げ、その実、権力を濫用して企業スパイ活動にいそしみ、国内外のテロとは無関係な人々の日常を監視してきたNSAこそクラッカーと言えるでしょう。(「暴露」スノーデンが私に託したファイル/グレン・グリーンウォルド参照)
    リスベットはNSAのセキュリティー管理最高責任者エドのPCに痛快な警告を書き残していきます。

    「違法行為ばかりするのはやめろ。簡単なことだ。国民を監視する者は、やがて国民によって監視されるようになる。民主主義の基本原理がここにある。」

    と。
    今月15日我が国で、「組織的犯罪処罰法改正案」(通称「共謀罪法」)が強行採決によって成立しました。とても他所の国の話だと面白がってはいられない警告ですね。

    11歳の少年がテディベアをハッキングして「オモチャが武器になる危険性」を語る

    といった記事を読むと、この子のような天才たちが正当なハッカーとなって、どうか世の中を正しい方向に導いてくれ、と願わずにはいられません。

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    2 thoughts on “「ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女」ダヴィド・ラーゲルクランツ“国民を監視する者は、国民によって監視される”

    1. あある

      ㏂10:00 からの映画「人生フルーツ」を見ようとガーデンズシネマに行ったら行列。昨日新聞で紹介されたかららしい。
      あきらめて書店へ、『ミレニアム4』はまだ単行本のままなのね。これも文庫が出るのを待つことにして、『アジアン・アクション映画大進撃』なる本を買って帰りました。その本の隣に、同じ体裁の新東宝本が出ていて、B級エンターテインメントの気配豊か(?)さにちょっと惹かれました。

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