『夢の断片(かけら)』モーラ・ジョス・・結末を知りたくない物語


2004年/ハヤカワ・ミステリ
英国推理作家協会賞・シルヴァー・タガー賞受賞

7月に入ってから、職場の休憩時間を使ってちまちま読み進めてきたこの本(367ページ2段組み)も、残すところ58ページとなりました。
いよいよ、ここから結末に向かって物語は、新たな局面を見せるに違いない、と思うところですが、今回は結末を読む前に本書を紹介してみたい。

物語の主役は、留守番派遣会社に勤める64歳の女性、ジーン。
長期不在の家に住み込みで留守番をすることがジーンの仕事だった。
18年間、57軒の家に住み込んできたジーンだが、高齢を理由に解雇を言い渡されていた。
58番目のこの家、ここが彼女の最後の仕事場となる。
ここで8か月間留守番係を勤め終えると、そのあと彼女にはもう行く所はない。ジーンには身寄りがなく帰る家もないのだった。

そんなジーンにとって、この最後の仕事場であるウォルデン・マナーの古くて美しいマナーハウスは、これまでで一番気に入った理想の屋敷だった。趣味の良い年代物の調度品にあふれ、時が止まったような静かな美しさがあった。
ジーンはいつしか自分がこの家の所有者であることを夢想するようになる。

偶然、屋敷中の鍵を手に入れてしまったことから、ジーンの夢想は現実的な欲望となった。
ジーンは開けてはいけない扉を次々と開けていく。
使ってはいけない客間の暖炉に火を入れる。
鍵のかかった部屋のバスタブに、たっぷりお湯を張る。
衣装戸棚に仕舞われている上等な衣服や靴を身に着ける。
ジーンの欲望は膨れ上がり、今までの人生で得られなかった幸福を、この家で手に入れたいと思うようになっていった。幸せになりたい。愛する家族が欲しい。息子とか、孫とか。
運命の糸に手繰り寄せられて、その日暮らしの男マイクルと、男に捨てられた若い身重の女ステフがジーンの元に現われた。三人は家族として暮らし始める。
やがて、ジーンと偽家族の欲望は暴走を始める・・・・・

読み進むほどにじわじわと、恐怖が増してくる物語です。
ジーンとマイクル、ステフの偽家族が、毎日一緒に食事をしたり、ワインを楽しんだり、庭の手入れをしたり、三人で赤ちゃんの面倒を見たり、とても穏やかで幸せな日常生活を営むほどに、読んでいるこちらの方が不安な気持ちに胸が苦しくなってきます。
間違いなく破綻の時がやってくるっていうのに、気づかないふりをして日常生活を続けている彼らの姿は、何だか身つまされて、他人事と言い捨てることができないのです。

この物語は、果たしてこのあとどんな展開を見せるのか?
決してハッピーエンドに終わるはずがありません。読み終わったとき、きっと、救いようのない後味の悪い思いをすると思う。
いやいや、もしかしたら読者の浅い読みを裏切って意外などんでん返しが用意されてるかもしれない。
だけどもし、すべてが狂人の戯言であったと言うような結末だとしたら?
それはそれで茶番をみせられたようで、がっかりするかも。

まあ、とにかく、結末を先延ばしにするのはほどほどにして、明日の昼休みに続きを読んでみることにします。
どんな結末であれ、本書が優れた作品であることは間違いないのです。

コメントはこちらから

お名前は必須項目です。

CAPTCHA


画像を添付できます(JPEGだけ)

『夢の断片(かけら)』モーラ・ジョス・・結末を知りたくない物語」への2件のフィードバック

  1. あある

    怖ーい。
    留守番派遣っていい仕事じゃん、と思う間もなく。
    もう読み終わってるよね?

    返信
    1. atcon 投稿作成者

      読み終わりました。
      最後の最後まで恐怖が増していく物語でしたよ。細かい心情や情景描写がホントに怖い。
      だけど、長期の滞在型留守番派遣なんて、実際にあるのかな?「マツコの知らない世界」で取り上げて欲しい仕事です。

      返信