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「絶叫」/葉真中 顕“たまたま、同じ家に降ってきた人を家族と呼ぶ”

2017年04月25日   2件の返信

光文社/2014年発行

この歳になると、何歳で死ぬことになるのかよりも、私はどこでどんな死に方をするのか、そのことの方が気になります。
室内か、野外か、病院か。自然死なのか、病死なのか、事故死なのか、災害によってか。

厚生労働省の「平成27年人口動態統計月報年計(概数)の概況」、第7表 死因順位(1~5位)別死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)別 によると、私の年齢層では、女性の死因1位から3位までが病死です。4位が自殺、5位が不 慮 の 事 故。
95歳以上になって初めて老衰が1位となる。
人間が自然のままに死ぬことは、かなり難易度が高いことのようです。

私のこれまでの人生から考えると、平凡に生きて平凡に終わる。大多数の人と同じように病死というのが一番ありそうな終わり方だなと思えます。そして現在一人暮らしなので、部屋の中で孤独死する可能性が高い。

孤独死予備軍の私としては、本書『絶叫』のプロローグに登場する孤独死体には、少なからず衝撃を受けました。
気密性の高いマンションで一人暮らし。人付き合いもなく、公共料金は自動引き落としだから誰にも不審がられることなく。4カ月経ってようやく発見されたそれは、11匹の猫の骸骨と大量の蠅や蛆の死骸に囲まれ、猫や虫のエサとなり、もはや人間の形をなしていない状態だった。
グロテスクとしか言いようのない光景ですが、そう珍しい事ではないそうです。
飼い主に先立たれたペットは、密閉された部屋の中で必死に生きようとするわけで、ペットのためにも我が身のためにも、ペットより先に死んではならない。そう思いました。

とまあ、『絶叫』は、いきなりインパクトのある死体から始まる濃厚な犯罪小説です。
ただ、本書で扱われる犯罪そのものは、そう特異な事件ではなく、似たような題材で他のミステリ作家も優れた作品を書いています。
しかし、同じリンゴを描いても、セザンヌとマグリットでは、まったく印象が異なる作品になるように、この『絶叫』も既存の作品とは随分違った世界が見えてきます。

物語は、鈴木陽子という女性の転落していく人生が、その孤独な過去と現在が、二人の人物によって交互に語られていくというスタイルで進みます。
鈴木陽子は1973年生まれ。 サラリーマンの父と専業主婦の母と弟との4人家族。当時で言えば、割と普通の家庭に育ち、平凡でぱっとしない容姿、特別な才能もない、どこにでもいるような地方都市の少女だった。
何故彼女の家庭は崩壊したのか。何故彼女は東京で一人、頼る者もなく生きていかねばならなかったのか?

根底にあるテーマは、時代とともに変遷する日本の家族の姿です。
いつの時代に、どこの場所で、どの家族の元に生まれるか、それによって、人生の粗方は決まってしまう。それを私たちはよく、『運命』とか『宿命』とか言うけれど、この物語のなかでは、それを「降ってくるもの」と表現します。
「この世に選んで降る雨がないように、選んで生まれてくる人もいない。たまたま、同じ家に降ってきた人を家族と呼ぶ」と言う。
そして、
「姉さん、人間って存在はね、突き詰めれば、ただの自然現象なんだ。どんなふうに生まれるか、どんなふうに生きるか、どんなふうに死ぬか。全部、雨や雪と同じで、意味も理由もなく降ってくるんだ。」と。

500ページ超えの大作ですが、その語り口に惹きこまれて一気読みしてしまいました。
また、随所に伏線が張られていて、それが次々と現在にリンクしていき、最後には過去と現在がループのように繋がっていく感じが、ちょっとした快感を与えてくれる読了感でした。

作者の葉真中 顕(あき)について言えば、最初児童文学でデビューしており、ミステリー作家としての活動はごく最近になってからのようです。
2013年に1作目「ロスト・ケア」で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞し、本書「絶叫」が2作目の作品になります。

「解錠師/スティーヴ・ハミルトン」きっと泣く予感がする1冊

2015年07月21日   4件の返信


ハヤカワ文庫/2012年

八歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイク。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に…非情な犯罪の世界に生きる少年の光と影を描き、MWA賞最優秀長篇賞、CWA賞スティール・ダガー賞など世界のミステリ賞を獲得した話題作。
このミステリーがすごい!2013年版海外編。2012年週刊文春ミステリーベスト10海外部門第1位。

内容(「BOOK」データベースより)


表紙のイラストが児童書みたいなトーンなので、なんとなく読むのをためらっていたのですが。
アメリカ探偵作家クラブ賞、英国推理作家協会賞のダブル受賞。しかも「このミステリーがすごい!2013年版海外編 第1位」。アメリカでも英国でも日本でもファンを獲得しているミステリーとなるとやはり捨て置けない。

「たぶん、きみはぼくを覚えているだろう。思い出してもらいたい。1990年の夏のことだ。」
という書き出しで、主人公マイクの獄中記が始まります。

主に17歳の夏から20代後半の現在まで。
犯罪に手を染めていない頃のマイクと、犯罪者として転落した日々を送るマイクの、二つの人生を行ったり来たりする形で、物語は進んでいきます。少し勿体をつけ過ぎかなという構成ではあるけど、時系列通りに書いては、やはり面白くない。
この時間を行ったり来たりするごとに、物語の結末が気になっていくのです。

そして、これはたぶん翻訳者(:越前敏弥さん)の手腕によるところが大きいのではないかと思いますが、少し感傷的な、でも感傷に過ぎることのないバランスで書かれている文体が、幼くして人生を諦観してしまったマイクの、孤独な世界を表しているように感じられました。
マイクは淡々と書いているのに、そこが切ない。読んでいる私の方がだんだん感傷的になってしまい、早い段階で、きっと私は泣く、と予感しました。
実際に、516ページの7行目で泣きました。それから残り47ページを一気に涙目で読みました。
ラストを確かめずには眠れない。
確かに血なまぐさい場面もあって、「非情な犯罪の世界に生きる少年」の物語なのだけど。ピッキングやダイヤル錠の解錠場面は凄く臨場感があって、とてもスリリングなのだけど。何よりも、マイクのピュアな恋の行方が気になります。
口をきけないマイクが彼女と心を通わせる、その冴えた手段が胸を打ちます。

やっぱり、この本は児童書とまでは言わないけれど、青春小説だなあと思う。

「自分がどんな体験をしたかを知る人が世界じゅうにただひとりでもいて、それが自分を真に理解してくれる人であるなら、ほかには何も要らなかった。」

というマイクの心のうちは口に出して言うことはできない。でもそれを全力で身を以て実現していく物語なのでした。

アメリカ探偵作家クラブ賞受賞、英国推理作家協会賞受賞だからといって、バリバリのミステリとは限らないようです。
付け加えると、2011年、アメリカ図書館協会主催の『アレックス賞』というのも受賞しています。「12歳から18歳のヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊」に贈られる賞だそうです。

「摩天楼の身代金/リチャード・ジェサップ」を再読してみて思ったこと

2014年12月22日   コメントを残す

文春文庫(1983/04)

「世界で最も安全」な超高級マンションがニューヨークにオープンした。青年トニオは、周到な準備と大胆な発想でこのビルを“人質”にし、警備側の誰一人として予想もしていなかった要求をつきつける。さらに、脅迫した400万ドルの受け取り方法についても、まったく新しいアイデァを編み出した。
異色でハードな最高の襲撃小説!
(裏表紙から)


30年ほど前に一度読んで、非常に面白かったミステリです。
ある事情から大金が必要になったトニオは、100階建てのセントシア・タワーに爆弾を仕掛け、ビルオーナーに身代金を要求します。
どうやってトニオはセキュリティ強固なビルに爆弾をしかけることができたのか。
どうやってトニオは身代金を受け取るつもりなのか。
斬新なアイデァと、最初から最後までよく練られたプロットの面白さは秀逸です。
完全犯罪を目論むトニオのストイックな日常がスリリングに描かれ、ついつい犯人に肩入れしてしまう困った作品でもあります。
セントシア・タワーと登場人物以外はほとんど、実在のものが配置されているそうです。大都会の活気や裏通りの情景は映画を観ているような臨場感にあふれています。
トニオに対するセントシア・タワーの副社長兼総支配人マードックもまた、知的でクールな魅力ある人物で、粘り強く犯人に迫っていきます。果たしてどちらが勝つのか、二人の頭脳戦も読みどころ。
私にとっては、好きなミステリベスト5に入る作品です。

最近急に読み直してみたくなり、アマゾンにて古本を購入しました。現在、絶版のため新品は手に入らない状況です。
30年ぶりに再読してみて、さすがにレトロな雰囲気は感じられるものの、作品の魅力は色褪せていませんでした。
でも、ただ、登場人物たちの口調がちょっと気になりました。
30年前だときっと違和感なく読んだのだろうとは思いますが、今読むと何かちょっと変。

時代設定はベトナム戦争終結後だから、1975年以降。ヒッピー全盛の時代だと思うのですが、若い女性のセリフが、「とび込んだりしやしないわ」「あたし、なんか盗むかもしれなくてよ」「大丈夫だわ」「困りゃしないわ」と、だいたいこんな感じ。欧米ドラマの日本語吹き替え版みたいな不自然さ。
バーテンダーのセリフが「それだけのことでさあ、お兄さん(おあにいさん)」とか、20歳の娼婦のセリフが「なんだって?何を取ろうっていうのさ。おふざけじゃないよ。この間抜け。とっとと失せな」といった調子。
トニオのバイト先もウェイターもタクシー運転手も、街の人間たちはたいがい、任侠映画かギャング映画の吹き替え版。トニオだってコロンビア大学の学生ということになっているのだけど、言葉使いがどうにも若さに欠ける。
極めつけは、
「いやぁ、あんたはお利口さんだぜ!爆弾かって?そうさ、その爆弾でござんすよ!」
てなセリフには、思わず私はずっこけました。(この言い方も古いが)
これじゃあ、ニューヨークじゃない。

原文を読めないくせに勝手なことを言っていますが、できたら新訳の『摩天楼の身代金』を読んでみたい。
とてもいい作品なのですから、絶版はもったいない。

ミレニアムⅠ ドラゴン・タトゥーの女/スティーグ・ラーソン

2014年12月14日   コメントを残す

ミレニアムⅠ ドラゴン・タトゥーの女(上・下)
スティーグ・ラーソン
ハヤカワ文庫 2011年発行

内容(「BOOK」データベースより)
月刊誌『ミレニアム』の発行責任者ミカエルは、大物実業家の違法行為を暴く記事を発表した。だが名誉毀損で有罪になり、彼は『ミレニアム』から離れた。そんな折り、大企業グループの前会長ヘンリックから依頼を受ける。およそ40年前、彼の一族が住む孤島で兄の孫娘ハリエットが失踪した事件を調査してほしいというのだ。解決すれば、大物実業家を破滅させる証拠を渡すという。ミカエルは受諾し、困難な調査を開始する。


スウェーデンから世界的ヒットになり、日本で北欧ミステリブームの火付け役となったと言われる作品が、この『ミレニアム』3部作です。

以前、 「ああるの映画と読書」に紹介されていて興味を持ち読み始めました。
3部とも上下巻あり、1冊あたりが500ページ前後もある分厚さです。
超大作だけに登場人物がやたら多く、馴染みのない北欧的姓名や地名が読み難い、覚えにくい。
そんな困難にもめげず、のっけから完全に嵌って読み通しました。

といっても、ミステリー自体はさほど目新しいものではないのです。
第1部『ドラゴン・タトゥーの女』について言えば、ジャーナリストであるミカエル・ブルムクヴィスト(43歳)が、大実業家一族が住む閉ざされた孤島を舞台に、40年前の少女失踪事件の謎を解くというストーリー。
密室あり、見立て殺人あり、暗号解読あり、暗く陰惨な一族の歴史が暴かれ・・・とくると、『犬神家の一族』や『獄門島』などでお馴染みの横溝正史が描く、あのおどろおどろしたクラシックな探偵小説みたいと感じる人も多いはず。
それはそれで読み応えがありますが、『ミレニアム』の面白さは何といっても、“ドラゴン・タトゥーの女”こと、リスベット・サランデル(24歳)の強烈な個性によるところが大きいと思います。
リスベットは、感情表現が著しく欠如し、他人を苛立たせることはあっても、他人を受け入れることはしない。小柄でやせこけて、見た目は15歳にしか見えない女、という設定です。
このリスベットがたった一人で、“彼女なりのモラルとやり方”で、自らの運命に屈することなく巨悪に立ち向かっていく姿が、孤独で健気で痛快で格好いい。この“彼女なりのモラルとやり方”に惹かれました。

リスベット以外にも、それぞれの分野で女性蔑視や差別と戦い苦悩する女性たちが何人も登場し、『ミレニアム 3部作』には、“戦う女の物語”という側面もあります。
そしてまた、ミカエルの言動や月刊誌『ミレニアム』の在り方には、作者スティーグ・ラーソンの“ジャーナリスト魂”が色濃く投影されていて、そこのところも本書の読みどころです。

ところで、『ドラゴン・タトゥーの女』は、2011年にハリウッド映画化されていますが、確かR15+指定の映画だったと思います。
1部、2部と読み進めると、なるほどR指定にせざるを得ないなあと思わせる過激な描写が随所にありました。このへんはハリウッド狙いなのでしょうか。少しくど過ぎる気がしました。
読んでいるページを他人に覗かれるのは憚れる場面も多い。落ち着いて読みたい方は、職場とか通勤電車とかは避けた方がいいでしょう。余計なお世話かも知れませんが。

第1部『ドラゴン・タトゥーの女』と第3部『眠れる女と狂卓の騎士』は北欧5ヵ国におけるミステリ最優秀作「ガラスの鍵」賞を受賞。
第2部『火と戯れる女』はスウェーデン推理作家アカデミー最優秀賞を受賞。
2部、3部は、1部の続編ではあるけれど、それぞれ趣きが大きく異なるストーリーで、その点でも読者を飽きさせないエンターテインメント作品となっています。

5冊まとめて、ちょっとだけ読書感想。

2014年09月14日   コメントを残す

本を読み終えて、すぐにブログに感想を書けばよいのだけど、それができずに本だけが溜まっています。あれも書きたい、これも書きたい、でも時間が経ち過ぎて記憶がどんどん薄れていく。で、今回は忘れ去らないうちに5冊まとめて、書き出してみようと思います。

『ベイジン(上下)』
真山 仁/幻冬舎文庫
2010年4月発行

「お願いだ、俺にこの発電所を停めさせてくれ」

『ベイジン』とは北京のことで、英語ではBeijingと表記するとのこと。
舞台は、北京オリンピックを目前に控えた中国。
冒頭のセリフは、北京オリンピック開会式に合わせて運用を開始させるという原子力発電所を建設するために、中国へ招へいされた日本人技術者、田嶋の必死の叫び声です。
電源喪失、ベント操作、海水注入、といった事故場面の描写は、否が応でも福島第一原発の事故を想起させる物語ですが、作品が書かれたのは事故前の2008年。
図らずも予言の書となってしまった感があります。

「『ベイジン』は、我々がけっして忘れてはならない希望について書いた小説です。
21世紀は「諦めの時代」なのかと思ってしまうことがあります。努力しても頑張っても報われない。何かに果敢に挑むより、最初から闘わず諦めてしまう。でも諦めからは何も生まれない。
私はそう信じています。」

(Amazonの商品説明、「著者からのコメント」)

『ぐるぐるまわるすべり台』
中村 航/文春文庫
2006年5月発行
第26回(2004年) 野間文芸新人賞受賞

「黄金らせんはオウム貝の殻や、ヤギの角などに現れることでも知られています。生物の成長というのはすなわち、相似な変形の繰り返しであるという原則が、このことからもわかります。つまり黄金比は物事が成長するときの普遍的な比率なのです。それゆえに我々は美しいと感じるのかもしれません。」

上記は、老教授が建築概論を教える講義室の一場面。こんな授業を受けてみたいものだと思いました。静かで贅沢な時間。
物語は、主人公が大学を中退するところから始まります。
彼は、塾の講師をしながら、バンドメンバー募集専用サイトでバンド仲間を探すのです。
「熱くてクール、馬鹿でクレーバー、新しいけど懐かしく、格好悪いくらいに格好いい、泣けて笑えるロックンロール。拡大と収縮、原理と応用。最高にして最低なメンバーを大募集。19歳」
彼がメンバーへの課題曲に選んだのが、ビートルズの「ヘルター・スケルター」
「ヘルター・スケルター」は、「しっちゃかめっちゃか」というような意味合いに訳されますが、元々の意味は、「らせん状のすべり台」のことだそうです。
毒気の強いニュースばかりが目につく世の中にあって、久々に毒気も悪意も一切ない青春物語を読んだなあって感じです。
主人公は、とてもナイーブ。
若い頃は私だって、いまみたいじゃない、もっともっとナイーブだったと思う。そして“若い”って昔も今も結構シンドイことだって思います。

『火星ダーク・バラード』
上田 早夕里/ハルキ文庫
2008年10月発行
第四回小松左京賞

「人類に進化なんてものはない。ただ、環境への過剰な適応があるだけよ。」

舞台は火星。
殺人容疑をかけられた火星治安管理局員の水島と、生まれつき他人の感情を読む能力のある少女、アデリーンとのロマンスを主軸とした、ハードボイルドタッチのSFサスペンスです。
アデリーンはプログレッシブと呼ばれる新人類。
プログレッシブは、宇宙のいかなる過酷な環境にも適応できるよう、遺伝子操作によってデザインされて生み出されるという。
「重力変化、温度変化、宇宙放射線、酸素濃度、などの異なる環境に耐え、寿命は長く、他者と不毛な争いをせず、優れた共感性を持ち、より高い知性を備えた人類」をつくるために・・・・。

人類が生き延びるには、もう宇宙に出ていくしかない未来が、いつかきっとやってくるのでしょうね。
2023年、人類火星移住計画」によると、火星移住計画「マーズワン・プロジェクト」は、すでに現実発進しているようです。(→http://www.tel.co.jp/museum/magazine/spacedev/130422_interview02/index.html
第1回目チームの飛行士4人を募集したところ、行ったら帰ってはこれない片道切符のミッションにもかかわらず「希望者は全世界から20万人にも及んだそうで、昨年末の12月30日、移住希望者の中から1058人の候補者が選出された。その中には日本人10人も含まれている」(「2025年、火星への片道切符の旅。日本人10人が最終選考に入る。」→http://karapaia.livedoor.biz/archives/52150116.html参照)そうです。
こんなにも勇気と犠牲精神にあふれた人たちがいるなんて、すごい!それだけでも人類の未来に希望が持てる話です。
ただ、「2023年火星移住計画“MarsOne”は夢の話だろうか」を読むと、技術的な不安要素も多く、お隣の星へ行くのも容易ではありません。
地球で死ぬも火星で死ぬも同じと言えば同じだけど、火星での開拓生活がどれほど過酷なものになるのか、想像もつかないところが怖い。

『文章読本さん江』
斎藤 美奈子/ちくま文庫
2007年12月発行
第1回小林秀雄賞

「服飾史と文章史には、共通した大きな原則がある。
第一に、衣装も文章も、放っておけばかならず大衆化し、簡略化し、カジュアル化するということである。」

「服だもん。必要ならば、TPOごとに着替えりゃいいのだ。で、服だもん。いつどこでどんなものを着るかは、本来、人に指図されるようなものではないのである。」

文章読本とは、「文章の上達法を説く本」のことを言う。
古くから谷崎潤一郎とか三島由紀夫とか、名だたる文豪たちが文章作法書として「文章読本」を書いてきたらしい。
本書は明治から現代にいたるまでの「文章読本」を多数取り上げ、文例をあげて(この文例が面白い!)、検証していく「文章読本」の歴史書みたいなもの。それによって文章というものが、時代とともにどのように変遷してきたかよく分かる。そして、いつもながら斎藤美奈子さんの文章は痛快!気持ちいい。

本書を読めば文章が上達する、わけでは決してないですが、小中学校の頃、作文が嫌いだった、という皆さんにぜひとも読んでいただきたい、お薦めの一冊です。
私も作文が大嫌いでした。
「嫌い」の一番の理由は、先生の「思ったことを素直に、あるがままに書きなさい」っていう言葉だったと思うのです。私の小学生の頃はそういう指導でした。
これを「作文の私小説化」と斉藤美奈子さんは言う。
まったくその通りです。

子供の頃の私には、自分の身の回りの狭い範囲のことしか題材がなく、それを書くということは、プライバシーを先生に覗かれるみたいで、すごく抵抗がありました。
大人になって、ブログというツールを手に入れた現在、書いたものをまず先生に見せる必要がないことが、とてもありがたい。

『喪失』
モー・ヘイダー/ハヤカワポケットミステリーブックス
2012年12月発行
2012年度アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞

セラピーセッションで持ち上がった問題のひとつは、コーリーがジャニスを伝統的な妻ではないと感じることがあるという点だった。
テーブルにはいつも夕食が用意され、朝はベッドまで紅茶が運ばれるにもかかわらず。
ジャニスが仕事と子育てを両立させているにもかかわらず、コーリーはなおも重箱の隅をほじくるのだ。
家に帰ったときに、焼き上がったばかりのケーキがあってほしいとか。弁当を持たせて、何なら昼食時に喜ばせてくれるちょっとしたラブレターも添えてほしいとか。

イギリスの伝統的な妻とはなんと大変なことか、と驚きました。
お弁当にラブレターを添えなくて済む分、日本の良妻賢母と呼ばれる主婦の方がまだましとさえ思えます。
ちょっと大袈裟に書いているんじゃないの?と思い「イギリスの家庭」で検索してみると、「家族に関する国際調査」(http://www.suntory.co.jp/culture-sports/jisedai/active/family/2_2.html参照)というサイトがありました。
それによると、イギリスも「急激な単身化・単親化と離婚率の上昇」があり、伝統的な家族形態は崩壊しつつあるとのこと。しかし仕事より家庭を大事にし、家族と密接な関係を持とうとする姿勢は、今も変わらないらしい。
女性の家事分担が大きいが、最近では「男性にも家事をすることが期待されていて、育児をしない男性は同性からも不謹慎にみられる」とあります。先進国と言われる国はどこも似たような状況のようです。
まあ、これは、作品の内容とはあまり関係のない話ですが。